#40・気持ちの再確認と怪我
部屋に戻ったわたしは、ソファに座って深く息を吐いた。
サイラス様がそばでまだ立っているけど、許してほしい。
「お疲れ様」
「−−−お疲れ様でした」
隣にサイラス様が座る。
「聞いていいかな」
「え?」
「今日、久しぶりにビクトール国王に会って辛くなかったかい?」
「辛い・・・とは思わなかったですね。相変わらずだな、自分たちのことしか考えていない屑だな、と思ったくらいですね」
「・・・そっか。じゃあ、気持ちに変わりはないってことかな?」
「?そうですね」
何故、わざわざそんなことを聞くのだろうか?
サイラス様を見ると、困ったような迷っているような表情をしている。
その顔を見て、わたしはピンッときた。
「もしかして、サイラス様はわたしが父王を見てやっぱり復讐を止めるかなと思ったのですか?」
「・・・親子の情は根深いものだろう?」
わたしは、その言葉に声を上げて笑ってしまった。
「ふふ、サイラス様。それは、愛情を絶え間なく注がれて大切に育った人にしかありませんわ。わたしの気持ちは1寸たりとも変わりません。むしろ、あの場で剣を出さなかっただけ偉いと褒めてもらいたいくらいです」
「ルナ嬢、」
「わたしは、忘れません。あの地獄のような日々を、扱いを、なぜ生まれてきたのか、なぜわたしを産んだのか母を含め全てを恨みました」
だから、わたしは今ここにいるのだ。
大国であるハーゲン国によってビクトール国が滅ぼされる。
そして、わたしは父王たちが死んだのを確認してから死ぬのだ。
これは、絶対に変わることはない。
「−−−すまない」
シュン、とサイラス様は肩を落とす。
「サイラス様?」
「ルナ嬢の気持ちも考えないで、軽率だった・・・すまない」
「いえ・・・あぁ、そうでした」
「?今日、本物のレジナが来ています」
「は?」
サイラス様は、瞬きをする。
表情がコロコロ変わって少し面白かった。
父王も本物のレジナもわたしが何も言わずに従順に過ごしていると勘違いしてくれている。
だから、あんなことも平気で言えるんだ。
「面白いお話ですよ。なんと、レジナはサイラス様と結婚したいそうですわ」
「−−−は?」
「わたしとまた代わって、サイラス様と結婚式を上げるそうです」
「なぜ?」
「美しいサイラス様の隣にいたいそうですよ?」
サイラス様の声が段々と低くなっていく。
それはそうだろう。
自分勝手に結婚したくないと言って身代わりを差し出したのに、やっぱり結婚します、なんて都合のいい話だ。
我儘も大概にしてくれと言いたい。
一気に話をしたら喉が乾いてきた。
ティーセットは常備してもらっているからわたしはお茶を入れようと席を立つ。
「サイラス様、お茶を−−−っ」
1歩歩き出したら、怪我した場所がズキンと痛んだ。
あ、そういえば怪我していたことをすっかり忘れていた。
「ルナ嬢?」
「あ、膝を怪我していたことをすっかり忘れていました」
「怪我?」
「ええ、でも大した怪我ではなくてえぇぇ!?」
グイッと引っ張られたかと思ったらソファに逆戻り。
変な声が出てしまったわ。
しかし、サイラス様はわたしの声なんか気にもしないで床に膝をついたかと思うと、ドレスの裾を掴んだ。
え、ちょ、待って待って!
「さ、サイラス様!」
「黙って」
険しい表情のサイラス様は、ドレスの裾を勢い良く捲りあげてしまった。
「ひゃ、」
嘘でしょ、なんてこと・・・!
女性が、足を晒すなんてとても恥ずかしいことだ。
伴侶ならまだしも、婚前なのに・・・!
顔に熱が集中していく。
「−−−これ、どうしたの?」
「え、」
「大した怪我じゃない。血が出てるし擦り傷も深めだ」
「あら」
馬車での怪我は思ったより酷かったみたいだ。




