#39・我儘姫との会話
でも、表情や態度は言葉とは裏腹の様子だ。
「−−−随分と見違えたものね」
「え」
「うちにいたときは、みすぼらしかったのに」
この人は、ビクトール国にいたときのわたしを見たことがあるのか。
自分を見返す。
ビクトール国にいたときには絶対に着たことのない綺麗なドレスにアクセサリー、サイラス様を始め、沢山の人たちに優しくしてもらって穏やかな日々を過ごしている。
あの国にいたら得ることのなかった生活だ。
「−−−そうですね」
「あそこにいるのが、貴女の結婚相手?」
スパンと扇子を閉じて、馬車のカーテンを少し開けてサイラス様のいる方を指す。
「そうです」
「名前は?」
「サイラス様です」
「サイラス様・・・」
サイラス様の名前を呼ぶ声に艶を帯びていて、わたしは眉を顰めた。
レジナを見ると、まるで恋する少女のような表情をしている。
ズキン、と胸が傷んだ。
え、なんでそんな顔をするの?
「−−−ねぇ、私思ったのだけど」
レジナは、サイラス様の方から視線を外さない。
「この結婚、元々は私に来たものだったでしょう?今からでも私がサイラス様の元に嫁ぐわ」
「−−−−−−え?」
何を言ったのか理解できなかった。
レジナは、私の方を見てニッコリと微笑む。
「私が、サイラス様の妻になるわ」
「な、何を言って・・・、全く姿が違うのに、どう説明するのですか・・・」
喉がカラカラで声が掠れる。
「説明なんてどうにでも出来るわよ。お父様がやってくれるし」
レジナは、ケロリとした顔で何事もないように言う。
「・・・元々、何故わたしが来ることになったか、よく分かっていると思いますが」
「あんな素敵な方とは思わなかったもの。肖像画もなかったし、噂もなかったし。醜男に嫁ぎたくなかったし。でも、あの方なら私は結婚するわ」
誰か、この我儘な自己中姫を懲らしめてくれないだろうか。
だんだんと、腹の底からフツフツと怒りがこみ上げてきた。
やはり、あの父にこの子あり。
「貴女も私の代わりなんて嫌でしょう?自分の名前を呼んでもらえないんだなら」
「、」
「少しの間だけど贅沢な暮らしができて良かったでしょう?こんな機会がなかったら、一生あの部屋でしか過ごさなかっただろうし」
この場に、短剣でもあれば迷わずこの自己中姫を刺していると思う。
もう、それは滅多刺しに。
この姫は、否、父王もだが、人をなんだと思っているのか。体の良い操り人形なんかじゃない。おもちゃでもない。感情のある生きた人間だというのに。
「あ、お父様に言って、ビクトール国に戻っても最低限の暮らしができるようにはしてあげるからね」
−−−いい加減にしろ。
わたしの怒りがピークに達したとき、コンコン、と馬車のドアがノックされた。
「レジナ嬢?どうかしたかい?」
優しいサイラス様の声が聞こえてきて、フッと怒りが収まった。
「そろそろ、部屋に戻ろうか」
「−−−はい」
わたしは、サイラス様に応えて馬車から出ようとする。
「ま、待ちなさいよ。私が・・・」
「今は、貴女が出ていってもどうにもなりませんよ」
「なんですって?」
「サイラス様は、わたしの夫になる方です」
「だから、それは、」
わたしは、一笑する。
「誰が、貴女の言葉を鵜呑みにすると?頭がおかしい令嬢が紛れていたと捕まるだけですよ?今、このハーゲン国にいるレジナはわたしです。どちらを信じるかなんて、明らかですよね?」
すると、レジナはわたしを睨みつける。
「お前・・・」
「では、さようなら」
もうレジナを見たくなかったので、わたしはすぐに馬車を降りた。
中が見えないようにドアを少し開けてから素早く出る。
「レジナ嬢」
出てきたわたしを見て、サイラス様は微笑む。
「遅くなり、ごめんなさい」
「いいよ。何かあったんじゃないかって心配しただけだから」
そう言って、ジッとサイラス様はわたしを見下ろす。
わたしは小さく笑みを作る。
「あの、先に部屋に戻っても?」
「うん、一緒に戻ろうか」
サイラス様が、スッと片手を差し出してくれた。
わたしはその手を取って、2人並んで白に戻ることにする。
途中、城に入ろうとしている父王を見つけ、これでもかって位に恨みを込めて睨みつけてやった。




