#33・愚王の思惑
−−−娘の結婚式に参加する。
それは、父親ならば寂しさはあれど、喜ばしいことだろう。
目の前にある招待状を見ながら儂はなんの感情もない。
隣国である大国ハーゲン国に嫁いでいった娘、レジナ。否、本当は違う。
レジナが嫁いでいったのならば、おそらく喜んで結婚式に行っていただろう。あの子は、誰が見ても美しく育った。教養、作法も完璧で、手塩にかけて育てたから。
本来ならば、ハーゲン国とパイプを持つためにレジナが嫁ぐ予定であったが、直前になり、レジナは嫌だと言い始めた。
『お父様、私、ハーゲン国に行きたくありません』
理由を聞くと、会ったことのない殿方に嫁ぐのは怖くて嫌だと。結婚する相手は心許せる方がいいと、涙ながらに訴えてきたのだ。
王族の娘として、この訴えはいけない。
ハーゲン国は、自国の何倍もある大国だ。
断れば、今後どうなっていくか目に見えている。
会ったことのない相手と結婚するなんて、王族では珍しいことでもない。現に自分がそうだった。
無理やり、嫁がせるのは簡単だ。
−−−儂は、娘が可愛くて仕方がなかった。
その時、儂はあることを思い出した。
若い頃、色々と思い通りにいかなくて、偶々目に入った侍女と鬱憤を晴らすために関係を持ったことが一度だけあった。
その一度だけでなんと子が出来てしまい、中絶させたかったが、時が遅く、こっそりと産ませた。
殺すわけにもいかず、他所にやるわけにもいかないので、誰も近づけない城の奥の方に住まわせている子どもは、確か女ではなかったか。
おそらく、産まれてから初めて対面するのではないか。儂自らの足で出向いてみると、レジナと同じくらいの女がいた。
レジナ程ではないが、目鼻立ちはしっかりとしている。王族の輝きなど半分の血しか流れていないから殆どないが、仕方がない。
幸い、と言えるかハーゲン国にレジナの顔はまだ知られていない。この娘をレジナに仕立てればなにも問題はなかろう。
きっと、この娘はこの時のために用意された駒だったんだ。あの侍女に産ませて良かったのだ。
(儂は、きっと先見の才でもあるのだろう)
付け焼き刃ではあるが、ハーゲン国に嫁がせるまでに作法等の土台作りをすぐに始めた。
半分でも儂の血が流れている子だ。
飲み込みが早く、賢い。
儂に似ているので少し愛着が沸かんでもない。
本来の名は知らないが、名を捨てレジナという名で過ごすように命じた。
微かな綻びを出してはいけないので侍女も連れて行かせなかった。
ハーゲン国に送ってしばらくは、バレやしないかとヒヤヒヤしながら日々を過ごしていたが、儂の杞憂に終わり、あの娘はよくやっているようだ。
結婚式の招待状まで来て、儂は確信した。
全ては、儂の思い通りに事が進んでいっている。
と、いうことは、これから先も儂の思うままだ。
結婚し、子を成せば儂はその子の祖父となる。
完全にハーゲン国にパイプを作れるのだ。
ハーゲン国は、大国だ。しかし、治める王はいつも笑ってばかりでひ弱なイメージ。なぜ、あのような王が一国を治められているのか心底不思議だったからだ。
儂が、あのような大国の王であったならば−−−・・・。
−−−コンコン、
「お父様、入ってもいいですか?」
ドア越しに聞こえてきたのは、愛する娘の声だ。
入るように言えば、華やかなドレスを身に纏った娘がオズオズと入ってくる。
「レジナ、どうした?」
「あの、お父様にお願いがあって」
「?」
「ハーゲン国での結婚式、私も行きたいの」
「!それは、」
ハーゲン国に、あの娘を送り、本物のレジナにはしばらく城の中で過ごすように言っていた。
大丈夫だとは思うがもしものことがあってはいけない。
レジナには、もっと権力の有る若者を選んでやるつもりだ。
「分かってるわ!ワガママだっていうのは・・・でも、1度くらい結婚するはずだった方を見てもいいでしょう?それに、私の代わりに行ってしまった子に謝りたくって・・・」
なんて、優しい子だろう。
あんな娘に輝かしい王族のレジナが謝るなんてしなくていいことだ。あれは所詮は駒でしかないのだから。
「レジナ、しかしだな」
「馬車の中から少しだけ。きっと、その子が出迎えてくれるでしょうその時にほんの少しだけ。終わったらそのまま帰るから」
ね?と上目遣いでお願いされて断れる親がいるだろうか。
折れるのはもちろん儂の方だった。
「−−−少しだけ、だからな」
「ありがとう!お父様!」
ぎゅっと抱きついてきた娘の頭を撫でる。
全ては、順調だ。これからもきっと順調。
儂の思い通りになっていくのだ。




