#31・羨望②
きっと王妃は、わたしが父に命じられて身代わりとしてやってきたことに対する自責の念に駆られての行動だと思っているだろう。
でも、少し違うのだ。
「死刑は、わたしが切望していることなのです」
「え・・・?」
「わたしは、自分の家族が、国が心底憎いのです。自分勝手な行動だとも分かっています。でも、抑えられないのです。わたしは、存在してはいけない人間です。望まないのに何故この世に生み落としたのか、生みの親は姿を眩ませています。父はほんの数週間前に初めて会いました。ーーー愛情なんて貰ったことはありません。都合の良い時にだけ利用しようとする国をわたしは滅ぼしたいのです。ハーゲン国を利用する形を取ってしまいました。私生児のわたしが烏滸がましい行為をしているのです。死刑は当然のことです」
ポロッと王妃の目から涙が溢れた。
「!!」
え、なんで!?
思わずギョッとしてしまった。
「なんで、そんな・・・」
「お、王妃様・・・」
ハラハラと泣く王妃に、わたしはどうすればいいのか分からなくなる。
助けを求めるように王を見るけれど、王はにこやかに笑ってーーー目が、笑っていない。
「まさか、ビクトール国の王がそんなにクズ男とは思わなかった。子は宝だと言うのに・・・」
「お、王様?」
「辛かったわよね?寂しかったわよね?悲しかったわよね?うぅ・・もっと早くにしておくべきだったわ」
「?」
2人とわたしの間には温度差がある。
なにか、わたしが知らないことを2人は知っているような・・?
「あの、」
「大丈夫よ!もう、貴女は私たちの娘になるのだから!」
グワっと王妃が顔を近づけてくる。涙は止まり、目はキラキラと輝いている。
私たちの娘?ん?
「そうだな」
王妃の言葉に王も頷いている。何故?
この人たちは、わたしの話を聞いていたのだろうか?
「あの、わたしは娘にはなれないかと」
「なんで?サイラスのこと嫌い?貴女を死刑になんてふざけた約束をした息子は後で締めるけど、顔は悪くないと思うのだけど」
いや、そういう次元の話ではない。
わたしの今までの話を聞いてくれていなかったのだろうか?
「−−−心配ないよ」
「え?」
王がまるでわたしの心を読んだかとように話してくる。
「君は、なにも考えずにただサイラスの嫁として過ごせばいいんだよ。全て、何も」
"全て、何も"
王は、まるで全部知っているかのような口ぶりだ。
これからの未来を予測しているかのような。
「そう、安心してちょうだいね」
そして王妃も。
二人は、全てを知った上でわたしを受け入れようとしてくれている。
それは、なぜだろう?
わたしの出生理由?可哀想だと同情してくれたのだろうか?
いや、一国の王が情に流されることなんてあっていいはずはない。
でも、
「−−−大変申し訳無いのですが、失礼してもよろしいでしょうか?」
「え?もう少し話しし−−−「そうだね。行きなさい」
王妃の言葉を遮って王が許可をしてくれたので、わたしは立ち上がり頭を下げる。
「失礼します」
深く頭を下げてから、わたしはその場から足早に離れた。
「もうっどうして?まだ話したかったのに」
頬を膨らませながら椅子に座る王妃に、王は微笑む。
「緊張していたみたいだし、これ以上は可哀想かなって思ったんだよ」
「でもぉ・・・せっかく娘が・・・」
ガックリと肩を落とす王妃。
二人には息子しかいないので、王妃が愛でたい理由も分からなくはない。
王は、紅茶を飲みながら義理の娘になるだろう死を望む姫の去った先に目をやる。
「あの子、とても賢い子だね」
「?どうしたの?」
「うん?きっとあの子が良い立ち回りをするだろうから嬉しくてね」
フフッと王が笑うと、王妃はゲッと嫌な顔をする。
「わ、何か企んでる顔をしてるわ」
「ん?」
「意地の悪い顔してる」
王妃が言うと、王は一層笑みを深めた。
「−−そうかも」
この件は、色んなことが変わって、そして解決する。面倒なこともきっと。
そのために、あの子の存在は鍵となる。
(・・・まぁ、息子の想いも叶えてやりたいってのもあるけど・・・)
結果的にそうなれば丸く収まるよね。
過程がどうなろうとも、終わりよければ良い。
家族も大切だが、王は一国を治める存在。
優先順位はもちろんある。
それでも、最終的に自分たちの思惑通りに納めるのが腕の見せ所だ。
サイラスでも、あの子でもなく、王の仕事。
「さて、申し訳ないけど、あの子達には私の掌の上で踊ってもらおうかな」
皆が幸せになるために。




