#30・羨望①
「さて、と」
王が周りに目配せをすると、侍女や騎士たちがその場を離れていった。
完全に3人だけになる。
一気に緊張感が増してきた。
でも、人払いをする意味がある?
むしろ、側に置いておいた方がいいのでは?
2人は、わたしに警戒なんてしていない様子だ。
大丈夫なのだろうか?
もし、わたしが2人に害をなそうしたら丸腰だ。
ビクトール国の王は常に誰かを側に置いていたのに。
「改めて、ハーゲン国王のシベルト=ル=ハーゲンだ。王妃は、カルリナ=ル=ハーゲン」
「はじめまして」
「は、はじめまして」
「中々会えなくてすまなかった。君のことはサイラスからよく聞いているよ」
王の言葉にわたしの心臓は大きく跳ねた。
恐る恐る2人を見る。
「わたしのことを、ですか」
「息子と仲良くしてくれて嬉しいわ」
王妃は、ニコニコとずっと笑顔だ。
王を見ても同じ。
わたしのことを聞いているなら、ビクトール国がハーゲン国にしてしまったことを知っているのではないの?
サイラス様はお二人に伝えてないのかしら?
「今日は、君を知りたくて呼んだんだ」
「わたしのことを?」
「そうーーー君の言葉で真実を、ね」
「っ」
「あぁ、別に私たちは君を責めるつもりはないんだ。そこだけは言っておくよ」
動悸が激しくなる。体の毛穴という毛穴から汗が出ている気がする。
サイラス様に話す時はこんなにならなかったのに、やはり、一国の王の存在は凄い。
同じ王でもこんなに違うものなのか。
喉がカラカラに乾いている。
わたしは、声を絞り出すように口を開いた。
「ーーーわたしは、レジナ=ヴィ=ビクトールではありません。ビクトール王と侍女との間に生まれた私生児です」
ポツリ、ポツリとわたしは2人に話した。
どうしてわたしがこの国に来ることになったのか、本当は誰がくるはずだったのか。
そして、わたし自身の望み。
2人は、わたしの話を静かに聞いてた。
全て話したあと、2人の反応を待つ。
「ーーー君は、自分の行動が何を招くか考えたかい?」
「え・・・」
「ずっと黙ってレジナ=ヴィ=ビクトールとしてサイラスの妻になっていたら、全てが丸く収まっていっただろう?幸いにも、本物のレジナ=ヴィ=ビクトールの顔は私たちはまだ知らなかったからね。まぁ、あちらの思惑は置いといて」
わたしの行動で何を招くか、もちろんわかっている。
それが目的でわたしはこの国に来たようなものだから。
「分かっています」
「これは、君と私たち家族の問題だけではない。国全体を住んでいる関係のない人たちも巻き込むことになる。」
それは、ビクトール国もハーゲン国もだ。
わたしは、ビクトール国の国民がどうなろうとどうでもいい。しかし、ハーゲン国の国民は違う。
何も知らないとはいえ、わたしをあんなに歓迎してくれたのだから。
でも、心配はしていない。
「ハーゲン国の軍事力は素晴らしいと知っています」
鍛錬も団結力も流石大国、と言えるくらいのものだ。
対して、ビクトール国の軍事力はたかが知れていて、統制力もあまりない。
それに、小国が大国に勝つことなんてない。
わたしが、そんなことにはさせない。
「ーーーこの件で、自分がどうなるかも分かっているのかい?」
「もちろんです。サイラス様は、わたしの死刑を約束してくださいました。わたしは、自分の国を滅ぼして、そして死刑を望んでいます」
ガチャンと大きな音がした。
音の方を見ると、王妃がカップを持とうとして手を滑らせてしまったようだ。
幸いにも、中身は少なかったので溢れることはなかった。
「な、にを言っているの?」
王妃が、顔を青くさせている。
「サイラスが、貴女の死刑を約束した・・・?」
「はい。本来なら、わたしはすぐにでも死刑ならないといけない身だとおもっているのですが、自分の国が無くなるのを見届けてからにしたほうがいいと」
すると、王妃は急に椅子から立ち上がると、わたしのそばまできて膝をついた。
え、王妃が膝をついたらダメだよね!?
わたしは慌てて立ち上がろうとして、その前に両手を手を添えられて立てなくなる。
「貴女は何も悪いことをしていないでしょう?父親に言われて反抗できる皇族はいないわ。特に女はね。死刑だなんて・・・そんなこと本当は望んでないでしょう?」
王妃は、とても心が優しい人なんだなと思った。
少し目を潤ませて、わたしを心配そうに見上げている。




