#3・ハーゲン国へ向かう日
−−−7日後。
「くれぐれも、お前はレジナとして過ごせ」
「・・・」
「お前の言動が国の命運を左右するのだからな」
ハーゲン国に出発する前にフラッと現れた父王は、労いや別れを惜しむなんてもちろんなくて淡々と自分の言いたいことを言う。
なにを言っているんだと派手にツッコみたい。
そんな国の命運がかかるようなことを娘のわがままで城の奥に閉じ込めていたわたしを代わりに嫁がせる?
頭おかしいんだと思う。
姉の代わりに嫁ぐことが決まってから今日までわたしの環境はガラリと変わった。
サラだけだった世界から色々な作法の人がやってきて徹底的に扱かれた。
礼儀作法、食事、ダンス、教養・・・生まれてから部屋に閉じ込められていたわたしに、たった6日でやらせようなんて父王は頭おかしいんじゃないかって心底思った。
幸い、と言ったら変だけど、飲み込みは悪い方ではなかったようで、付け焼き刃程度くらいにはなったとおもう。
気を緩んだら、すぐにボロが出るだろうけど。
もちろん、その間に父王がわたしのところに来るなんてことはなく、出発当日を迎えた。
荷物は、必要最低限。
自分の持ち物はほとんどないから身軽だ。
体裁を整えるために、国が何かしらを用意したみたいだけど、まっったく興味はない。
ずっとわたしの世話をしてくれていたサラは、ハーゲン国に一緒に行けなかった。
本当は一緒にいてほしかったけど、父王がどこでボロが出るかわからないから困ると許してくれなかったのだ。
その時のサラの荒れようと言ったら・・・思い出したくない。
今日の見送りも来ないように言った。
嫌だと言われたけど、サラが側にいたら行きたくなくなるし涙が出て顔が酷いことになるとか色々理由を言ったら渋々納得してくれた。
代わりに部屋を出るときに思いっきり抱きしめてくれてお別れも出来た。
そんなこんなで、わたしは単身ハーゲン国に向かうことになった。
わたしとしては、とてもとても都合がいいことで、サラがいたら二の足を踏んでいたことだろうと思う。
「−−−では、お元気で」
「ふんっ」
形式的に頭を下げる。
父王は、鼻で笑いさっさと戻っていく。
「−−−次に会うときは、地獄でかしら?」
小さくなっていく父の背中を見つめる。
哀しさや寂しさなんて感情はない。
「そろそろ、出発します」
御者に促されてわたしは頷き、馬車に乗る。
本でしか見たことのない馬車が目の前にある。とても立派で綺麗だわ。
空を見上げると、白いものが浮いている。
あれが雲ね。空の色も水色。全部絵本と同じ。
実際に見るものは思った以上に美しい。
「ほんの僅かな時間でも見れたのは良かった」
フフッと小さく笑ってからわたしは馬車に乗り込んだ。
乗ったことを確認した御者は、馬車を動かし始める。
馬車が進めば景色が変わる。
どれも初めて見る光景にわたしは飽きることはなかった。
途中、街も通った。
国民の姿も見たが、彼らは馬車に乗る人間がどんな人でどこに行くかもなんて知らないから不思議そうに眺めているだけ。
「−−−のうのうと生きていられるなんて羨ましい限りだわ」
彼らの姿を見ても、わたしの心は荒むばかりだ。
ハーゲン国につくまでの間、わたしはつかの間の初めて見る景色たちを楽しんだのだった。