#29・王と王妃からの招待
それからの日々は、嵐の前の静けさの如く何事もなくて穏やかだった。
結婚式に向けて、準備をしつつもサイラス様が外に連れ出してくれたりと充実していた。
こんな風に思ってもいけないんだろうけど、このままでいたいな、と思った。
そんなある日、ハンナが少し緊張した面持ちでやってきた。
「レジナ様」
「どうかした?」
「今、連絡がありまして、1時間後に王様と王妃様がレジナ様にお会いしたいとのことです」
「え」
ドキッとした。
この国に来てから、主である王様や王妃様と会う機会は全く無かったから。
わたしとしては、好都合ではあったのだけれど、やはり挨拶しなくてはいけないよね。
「服は、着替えたほうがいいのかしら?」
今日は、1日部屋にいる予定だったので、シンプルなデザインの服を着ていた。レイモンドにも伝えると、鍛錬に行くと言って鍛錬場に向かっていった。
「そうですね、着替えを準備します」
ハンナはすぐにクローゼットの中にあるドレスの中から選んでくれた。
「王妃様は、割と落ち着いた色合いの飾りも少ないドレスを好まれますので、このくらいのものが宜しいかと」
「じゃあ、それにします」
薄い水色のドレスは、レースや飾りが少なくて落ち着いたものだ。わたしもゴテゴテの華やかなドレスよりこっちの方が好き。
ハンナに手伝ってもらって、着替えを済ませ、化粧もする。
最後におかしなところがないか確認してもらって、準備が終わった時、ちょうどいい頃合いだった。
−−−コンコン
「はい」
「失礼します」
ハンナが、ドアを開けると、正装姿の男の人が立っていた。
「はじめまして、宰相を勤めておりますゼスターと申します。レジナ=ヴィ=ビクトール嬢を迎えに参りました」
わたしよりもずっと年上の男の人が、綺麗な礼をする。
思わず所作に見惚れてしまったが、ハッと我にかえる。
「迎え、ありがとうございます。わたしが、レジナ=ヴィ=ビクトールです」
「王も王妃も貴女に会えることを楽しみにしていました。準備はできていますか?」
「はい」
では、とゼスター宰相に連れられて部屋を出る。
まっすぐ向かった先は、玉座ではなく、外だった。
「この先に、二人はおります」
「え・・・と」
「私はここまでです。大丈夫、心配いらないですよ」
ゼスター宰相は、ふわりと優しい笑みを浮かべて先に進むことを促してくる。
一気に緊張が増して、手に汗を握りながら言われた場所まで進む。
とても綺麗な花道があり、その奥にティールームのような場所がある。
そこには、二人男女が座っていて、王と王妃だろうと思う。
(この国の王と王妃は肖像画でしか見たことがないんだった・・・)
肖像画で見た二人は、とても穏やかな表情で仲睦まじい様子だった。
(サイラス様は、わたしのこと話しているのだろうか?)
実は、本物のレジナではなく、代わりにやってきた半分しか王族の血が流れていない存在ということに。
サイラス様と違い、一国の王と王妃の二人は、謀ったビクトール国にお怒りではないのか?すぐに牢屋に入れてしまいたいと思っているに違いない。
別にそれでもいいとわたしは思う。
結果的にビクトール国が無くなってしまえば、それまでの過程は重要視することではない。
わたしが先に死刑になっても、ビクトール国さえ地図からなくなれば満足だ。
「−−−あら、来ましたわ」
澄んだ、優しい声。
ハッとすると、いつのまにか2人の近くまで来ていた。
「ゼスターがちゃんと送ってきてくれたみたいだね」
優しい笑みの王様。
あれ、思っていたのと違う?
「ーーーご挨拶が遅れて申し訳ありません。ビクトール国から参りました、レジナ=ヴィ=ビクトールと申します」
短期間で習得した礼をする。
2人は、笑みを浮かべたままわたしに椅子に座ることを促す。
「待ってましたよ。さ、お座りなさいな」
「失礼します」
椅子に座ると、目の前にティーカップが出された。
王と王妃以外にも人がいたのね。
それはそうか、何かあったら大変だもの。
侍女数人と護衛騎士が数人。最低人数だと思う。




