#26・二人っきりのピクニック①
メモリーがゆっくりと歩を進み始める。
グラッと体が揺れてしまったけれど、左右をサイラス様の腕が囲ってくれているので落ちることはない。
でも、この格好は、恥ずかしい・・・っ。
ハンナや他の人たちに見送られながら、わたしたちは城内を進む。
二人きりだけれど、完全には二人ではない。
少し離れたところに、二人護衛の人がいるのがちらっと見えた。
「−−−レジナ嬢」
「はい」
頭のすぐ上からサイラス様の声が聞こえるのが少し不思議だ。
「今は二人だ。レジナ嬢ではなく、ルナ、と呼んでもいいだろうか?」
「え・・・」
ドキッとした。
顔を上げると、サイラス様がとても穏やかな表情でわたしを見下ろしていた。
「護衛はいるが、距離がある。二人での話は聞こえるはずもないよ・・・どうだろう?私は、貴女の本当の名前を呼びたい」
「・・・」
わたしの、名前。
最後に呼ばれたのはいつだっただろうか?
基本的にわたしの名前を呼ぶのはサラだけだった。
「呼んでもいい?」
「は・・・い」
「ありがとう・・・ルナ嬢」
『ルナ』
そうだ、わたしはルナ。
レジナではない。
ここに来ると決めてから、レジナになると決めてから本当の名前は封印して。
サラもそばにいないから、もうルナという名前は消えていくと思っていた。
それでもいいと思った。わたしの悲願を達成することができるなら、て。
でも、やっぱりわたしは『ルナ』だから。
「−−−ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだ」
「っ、」
バタバタと大粒の涙が膝に置いていた手に、バスケットに落ちていく。
泣くつもりなんてなかったのに、あとからあとから涙は止まらない。
「ごめん」
また謝ってきたサイラス様に、わたしは首を振る。
「ちが・・・ただ、嬉しかった、だけ、なので・・・」
「−−−そうか」
それから、メモリーが止まるまでわたしは涙が止まらなかった。
サイラス様は、何かを言うわけでもなかった。でも、それが今のわたしにはありがたかった。
どれくらい時間が経ったのか。
メモリーが歩を緩めた頃に、わたしの涙も落ち着いていた。
「ついたよ」
ついた場所は、城の中にあるとは思えないくらいに広い花畑だった。まるで、別の場所にワープしてしまったかのように空気も違う。
「−−−すごい」
「だろう?私のお気に入りの場所でもあるんだ」
先にメモリーから降りたサイラス様に支えてもらいながら降りる。
メモリーは、木陰に移動すると座って体を休めることにしたようだ。
「荷物は置こうか」
メモリーの近くに汚れないように大きなシートを敷いてバスケットを置く。それから、花畑の方に行くと、
色々な種類の花が咲いている。
近くで見ようと屈んでみる。少し風が吹くとゆらゆらと揺れる花に心が穏やかな気持ちになれた。
可愛くて綺麗な花たちに、いつまでも見ていたいとジッと見つめた。
「嫌なことがあったり、辛いことがあったらよくここに来ていた」
サイラス様がわたしの隣に同じように座る。
サイラス様の目にも同じように沢山の花が映っている。




