#25・メモリーに挨拶
城を出ると、ハンナや何人かの護衛と思われる人たちが待っていた。
そっと、サイラス様の手が離れる。
「お待ちしていました」
ハンナの手にはバスケットがあって、そっと渡された。
「これは?」
「お昼ご飯です。簡単に食べられるものを準備致しましたので」
「ありがとう」
キュッとバスケットの持ち手を握りしめた。
サイラス様は、男の人たちと何か話をしている。
「レジナ様、楽しんできてくださいね」
「あ、楽しみます」
話が終わったのかサイラス様はわたしの方に戻ってくる。その後ろにいる大きな存在に目を見開く。
「レジナ嬢、行こうか」
「・・・これは」
「見事だろう?名前は、メモリーと言う」
返事をするかのように、メモリーは「ヒヒィン」と鳴く。
それはそれは見事な白馬だ。
毛並みもサラサラとしていて、太陽の光が反射してキラキラとして見える。
わたしよりもとても大きいその巨体は、立ち姿も綺麗だ。
「今日は、メモリーに乗って行こう」
「の、乗るんですか?」
「馬に乗るのは初めて?」
わたしは、頷く。
乗るどころか、見るのも初めてだ。
馬という存在があることは、絵本を見て知っていたけれど、実際に目の前で見ると圧巻だ。
体躯は逞しいけれど、大人が2人乗るのを支える力があるの?
「大丈夫。私が付いている」
「でも・・・」
「そんなに不安だと、メモリーも不安になる」
ヒヒィン、と同意するようにメモリーが声を出す。
本で読んだことがあった。動物は、言葉は話すことはできないけれど、人間の言葉を理解することができる。些細な感情も伝わり、状態も変化すると。
それって、本当なの?と読んだ時は思ったっけ。
動物と人が思いを交わすことができるの?
不思議に思ったことを思い出した。
サイラス様が、メモリーの背中を撫でると、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
わたしは、ゴクリと生唾を飲んでからゆっくりとメモリーに近づいた。側に寄るとメモリーの大きさに怖気づきそうになる。
恐る恐るメモリーの背中に手を置く。一瞬ビクッとなった気がしたけど、暴れたりはしなくてされるがまま。
「・・・気持ちいい」
「だろう?」
「初めて馬に触りました」
「感想は?」
「こんな綺麗な馬に触ることができて、怖いけど嬉しいです」
サイラス様は、メモリーの背中に乗せてある鞍に慣れた様子で跨がる。
メモリーも慣れたようで何も言わない。
「レジナ嬢、ほら」
馬上から手が差し出される。
「・・・わたしが乗っても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だと思うよ。嫌だったらまず触らせてくれないから」
そうなのね。何も言わずに背中を撫でさせてくれたから、拒絶はないと思っていいのかしら?
そう思うと、純粋に嬉しかった。
「メモリー、乗っても、いい?」
メモリーに尋ねてみると、返事の代わりに顔を寄せてくれた。
「ありがとう」
誰かに受け入れてもらえることが嬉しい。
「じゃあ、行こう」
「はい」
わたしは、サイラス様の手を掴む。
腕だけでわたしを鞍上に引き上げてくれたサイラス様の腕力に驚いた。
すでに座っているサイラス様の前に乗せられる。
乗って気づいた。
鞍上には掴む場所がどこにもない。
初めての騎乗、バランス感覚が分からない。
「−−−大丈夫」
まるで私の心を読んだかのように、サイラス様はわたしを挟むように手を伸ばして手綱を持った。




