#20・サイラスの悩み
パタンと音を立てて執務室のドアが閉められた。
1人執務椅子に座ったままの私は、深くため息をついた。
「−−−なんでこうなったかな・・・」
今出ていったレジナ嬢を思い出す。
隣国のビクトール国から嫁いできた女性。
物静かな落ち着いた雰囲気を持っていた彼女は、来たその日にとんでもない爆弾を投下してくれた。
彼女は、ビクトール国のレジナ=ヴィ=ビクトールではなく、ルナ=ヴィ=ビクトール。姉の身代わりに嫁ぐように言われて来たということ。
このことを私に話すということが、どういうことか。
ビクトール国は、我がハーゲン国より国土は狭い。
人口、経済、軍事・・・全てにおいて我が国の方が上だ。
今回のこの結婚は、ハーゲン国にとって利益があるかと言われるとあまりない。
でも、どうしてもハーゲン国でなければいけなかった。だから、決めた結婚だったのだが、小国が大国を騙すなど、王族不敬罪、国家詐欺罪・・・罪名を付けるなら沢山ある。
私の一言ですぐに国は兵を上げるだろう。
そして、あっという間にビクトール国を地図から無くすことができる。
それ程の武力をこの国は持っている。
しかし、戦争をするということは、国民も巻き込んでいくということ。罪のない人たちが巻き添えになるというのに、彼女は真実を私に告げた。
それほどまでに、彼女はハーゲン国で辛い思いをしてきたということだ。
今の彼女は、自国の滅亡と自身の処罰のことしか頭にないのだろう。
幼少期からどのように育ってきたかも簡単だが話してくれた。
どうして、そんな状態になってしまったのか、自分の子は可愛いだろうに、ハーゲン国王を理解できない。
彼女は飢えている。
優しさに、愛情に。
与えられずに生きてきたから。
−−−コンコン。
「はい」
「バスカルです」
「入れ」
静かに入ってきたのは、さっきまで話をしていたバスカルだ。
私よりも10年上で、私の右腕となり色々と働いてくれている。
「話は終わりましたか?」
「あぁ・・・」
バスカルは、困ったように眉を下げている。
私も同じだ。
「お嬢様は?」
「なんとか落ち着いてくれたよ」
肩を竦めてみせると、バスカルは安堵の表情になる。
「それは、なにより」
バスカルもレジナ嬢が偽物だということは知っている。
彼女の話は、レイモンドとバスカルにしか話していない。
「どうされるのですか?」
「どうもこうも、彼女は早く死刑にしてくれとしか言わないから。とりあえず、自分の国が滅ぶ様を見てからにしたらどうかと提案したんだ」
「ほう」
「それで納得してくれたさ」
また、1つため息。
「−−−真実をお伝えしたら良かったのでは?」
「今のあの子に何を言っても無駄だよ」
「・・・拗れてますな」
「まったくだ」
やれやれと少し頭痛を感じながらも私はガスパルを見る。
「とりあえず、彼女は私がどうにかする。ガスパル、例のことを処理始めよう」
「了解しました」
ガスパルは、一礼して執務室から出ていく。
「はぁ・・・」
私は、額に手の甲を置いて天井を仰ぐ。
「・・・ルナ」
ポツリと名前を呼ぶ。
もちろん、返事なんてなかった。




