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#2・わたしの存在




物心ついた頃からわたしの世界はこの部屋とサラだけだった。

父は、先程来たふてぶてしい男で、ビクトール国の現国王だ。

そして、母は王妃の側仕えの侍女だった。



母は、それはそれは可愛らしい人だったらしい。

父王も母を気に入り、手篭めにした。

その結果、出来たのがわたしだった。



もちろん、わたしの存在は許されるものではなかった。父は国のトップだが、母は王妃の側仕えで身分も高くない。王妃は、プライドが高い人で、夫である王が違う女と関係を持つことを許せず何かと母を攻撃していた。あわよくば子が死んでしまえば、なんて思っていたのかもしれない。しかし、王の子を堕ろすこともできず、母はわたしを産み、姿を消した。



王は、わたしが産まれたことを報告されたときは、「そうか」の一言だけだったそうだ。

王が興味を持ったのは可愛らしい母であって血は繋がっていても子どもではない。



わたしは、誰にも望まれることなく生まれてきて、どこにもやれないからと城の隅の部屋に閉じ込められ今日を生きてきた。死なない程度に食事を与えられ、退屈しのぎにかは分からないが本を与えられた。

本だけの知識しかないがそれなりに世界のことは理解している。



世話係として、目の前にいるサラを付け、サラが身の回りのことはしてくれる。

わたしは、何もすることがないのでとりあえず本を読んだり昼寝をしてみたりとひっそりと暮らしていたのだ。




サラは、紅茶を入れてわたしの前に置いてくれた。

サラが入れる紅茶はとても美味しい。

ミルクや砂糖なんて入れなくても十分。むしろ、何かを入れるのが邪道だと思えるくらい。



わたしは猫舌なので人肌くらいにまで冷ましたものしか飲めない。

サラは、丁度いい温度の紅茶にいつもしてくれる。

一口飲んで、紅茶を味わう。



「−−−わたし、7日後にハーゲン国に嫁ぐみたい」



ガッシャーン!!



「え?」



派手な音とともに、サラは持っていた自分のティーカップを落としてしまっていた。

固まってしまっているサラの目の前で手を振ってみると、ハッと我に返った彼女は慌てて片付けを始める。



「だ、大丈夫?」


「すみません、私としたことが・・・」



幸いにも割れていなかったティーカップ。

溢れてしまった紅茶を拭きながら、サラは肩を震わせる。



「お嬢様は、了承したのですか?」



顔もあげず、掃除をしながらサラは聞いてくる。

あら、完璧なサラが珍しい。

何かをしながら喋ることは所作が悪いとされているのに。

声が震えている。

きっと、サラは怒っている。



「了承も何も、ただ言いたいことだけ言って出て行かれたもの・・・姉様の代わりに嫁げって」


「っ」


「大方、いつものワガママが炸裂したのでしょうね」



フッと笑って見せれば、サラは紅茶を吸って汚れた雑巾とワゴンに投げた。



「あ、」


「−−−今まで一度も顔を見せず、父親らしいこともしてこなかったくせに都合よく来て、しかも姉の代わりに嫁げ?ふざけているの?だから40代になったばかりなのにピーーーでピーーー(自主規制)なのよ。そもそも・・・「さ、サラさん?」あ、失礼しました」



思わず名前を呼ぶと、まるで何事もなかったかのように姿勢を正すサラにわたしは声を出して笑ってしまった。



「アハハッ」


「・・・笑わないでください」


「ごめんなさい。だってサラだけだもの。わたしのために怒ってくれたりするの」



サラはずっとそうだった。

まるで、本当の母親のように優しく、時に厳しくわたしの側にいてくれた。

確か、わたしより12くらい年上だった。母親と言うには若すぎるかもしれない。

でも、わたしにとってサラの存在はそれくらいに大きなものだった。

生みの母親や父親なんてわたしの中では存在すらない。

半分しか血の繋がりのない姉なんて以ての外だ。



「−−−ねぇ、サラ。わたしは、この国がどうなろうが。父や義母や姉が困ろうが、全部全部どうでもいいの。サラだけいてくれたらそれでいい」


「お嬢様・・・」



一応、わたしは身分的には一国の姫。

『姫様』と呼ばれることが普通だと思うけど、わたしは姫だと自分は思っていない。サラがどうしてもって言ったから『お嬢様』と呼ばれているけど、わたしはただの『ルナ』。

城の奥に追いやられ、外の世界なんて知らない。

本の中の知識しか持っていない。

わたしの世界はとてもとても狭い。

世界は本当はとても広いのに。



生まれで生きることが制限されて、もしかして、初めてだったかもしれない父との逢瀬もわたしの心は歓喜に震えることはなかった。



「『憎しみ』って感情は増していくばかり」



サラに話すことで気持ちが整理されていく。



「父が憎い。わたしを産んで消えた母が憎い。こんな奥の部屋に閉じ込めたみんなが憎い。何も知らずにのうのうと生きてる国民が憎い。全部、全部。この国が憎い。大嫌い」



サラは、静かにわたしの話を聞いてくれた。



父王が何を考えてわたしが素直に言うことを聞くと思ったのだろう?王だから逆らえない、なんてバカげた理由なのかな?



「愛情を1ミリもくれなかった父親の言う事なんて、素直に聞くわけないじゃない」



父王から、話を聞いたとき、わたしはあることを決めた。



「ねぇ、サラ。わたし、決めたことがあるの」


「決めたこと?」



わたしは、ニヤリと笑った。





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