#1・突然、言われたこと
「−−−え?」
わたしは、自分の耳を疑った。
「お前には、ハーゲン国に嫁いでもらう」
何年ぶりかに会った父王は、呆然とするわたしに淡々と伝えてくる。
「ハーゲン国って・・・隣国の大国に?」
なぜ、わたしが?
「いいか、お前はビクトール国の姫だ。国のために嫁ぐことは名誉なことだと思え」
「・・・」
「そして、嫁ぐときはルナではなく、レジナとして行くのだ」
「っ」
その言葉でわたしはすべてを察した。
「出発は、7日後だ」
父王は、言いたいことだけ言うとさっさとわたしの部屋から出ていった。
「おい、わたしの部屋はどっちだ?!」
「来た道を戻ればいいのですよ」
「ふんっこんな場所初めて来たのに来た道がわかるわけないだろう!」
ドア越しに喚きながら足音はどんどん去っていった。
「−−−あぁ、そういうこと、ね」
質素で調度品なんてほとんどない部屋に一人残されたわたしは、ベッドに大の字に仰向けになった。
天井だけは、一級品のきらびやかさがある。
「あの、ワガママ姉が輿入れ拒否したのね」
はぁぁ、とわたしはため息をついた。
わたしには、顔も知らない姉が一人いる。
さっきここに来た父王と王妃との間の子どもだ。
風のうわさでは、とても美しく、そしてとてもワガママらしい。
きっと、嫁ぎたくない、とワガママを言ったのだろう。自分の言うことは何でも聞いてもらえると思っていると、侍女がボヤいているのを聞いたことがある。
だからと言って、隣国のハーゲン国との縁談で謀るようなことをしていいのだろうか。
外の世界をあまり知らないわたしですら、ハーゲン国の広大な国土、人口そして戦力など様々な基本的な情報は把握している。
対する、我が国はハーゲン国とは比べようもないくらいに小さく、戦力もあまりない。そもそも、ハーゲン国にとってあまり利益にならない縁談ではないだろうか?
それよりも反対側の隣国スクエア国のほうがよっぽど頼りになるはず。
−−−コンコン。
「はい」
「お嬢様。サラです」
「どうぞ」
中に入ってきたのは、一人の侍女だ。
所作も優雅で完璧。
王妃専属でもいいくらいの彼女は、なぜかわたしなんかの侍女でいる。
「お話は、終わりましたか?」
「とんでもない話だったわ」
「伺っても?」
わたしはベッドから身を起こして頷いてみせると、サラは、近くに置いてある椅子に腰掛けた。
多分、侍女としては間違った作法なのかもしれないけど、わたしが頼み込んだ。
わたしには、サラしかまともな話し相手はいないから。