第六章21 『《アポカリプス・レイ》』
聖剣から溢れ出した光がシルクと魔族二人のみを包み、彼らの世界を塗りつぶした。
澄み渡るような蒼空は星々が煌めく夜の黒に変わり、大地は焦土を化す。
シルクと魔族二人が立つ焦土以外はマグマの様な流動性のある炎に囲まれ、それらから発せられる赤光が辺りを照らす。
今にも焼け死にそうな灼熱が魔族二人を襲った。
「グッ……クソガァァァ」
「……耐えるのですダレン……今は耐える……なっ!?」
爆発するように上がる火柱が意思を持った生き物のように二人を襲い、辺りを覆うガスによる紅炎の波が二人の全身を焼く。
逃げても避けてもいつまでも追いかける炎は確実に二人を追い詰める。
「ハァアアアアアアッッッ——————————ッッッ!!」
そんな赤と黒の世界でただ一人、シルクは聖剣を大ぶりに構え力を貯めている。
先程の比ではない。魔力以外の何もかもも取り込み、莫大なエネルギーが彼に収束する。
「ダメだ。アレは絶対に喰らってはいけない。【岩弾】!!」
ピルトはなけなしの魔力を絞り切り、魔封じの指輪に力を込めて拳大の岩石を大量に生成。
炎色のガスに全身を焼かれ、龍の如く襲う火柱から逃げつつ狙いをシルクに定めて発射する。
だが、発射された岩石は横からの火柱に原型を留めないほど焼き尽くされた。
まるでその火柱からはシルクの邪魔をさせないという強い意志を感じさせる。
「この結界————世界は彼にとって都合良く働く空間なのですか!?」
ピルトとダレンは既に回復不可能なレベルで体が焼け、部位欠損している。
既に勝負は決している。
誰が見てもそう感じるこの状況でシルクの聖剣は明滅を止め、莫大な光の粒子が聖剣を包んだ。
とある天文学者はこう述べている。
太陽は人々に光と恵みを与える存在。
夜になるとそれが人間の最初の叡智の結晶である『炎』に代替される。
『炎』も人々を照らし、木々を燃やして暖をとったり、活動時間を長くするという恩恵を与える。
それはまるで太陽のように。
人々にとって性質の似ている『炎』と宗教的観念から誤解されやすいのだが、太陽は決して燃えてなんかいない。
ミクロの世界で微細な粒子同士が激しく衝突し、そこから大量のエネルギーが生まれて人々の下まで届いているのだ。
太陽で『炉』をイメージするのは間違っている。
天文学者と新時代に新しく生まれた学問体系『科学』の学者はこれを『核融合』と名付ける。
つまりシルクの貯めているエネルギーは見た目やイメージ上『炎』に由来する様に見えるが実際は全くの別。
彼が塗りつぶした炎の世界は彼や人々が産んだ心象世界でしかない。
今から放つ大技は『炎撃』ではない。
『核融合』に由来したただ純粋なエネルギーの奔流。
見る人が見ればこう言ったはずだ。
イメージは炎。ただ中身が別な光の攻撃。その名は————————
————————炎色核撃、と。
「——————————《アポカリプス・レイ》」
シルクの聖剣が空間を割く。
シルクの作り出した世界はその空間の裂け目に流れ込み、三人を元の世界へ帰還させた。
一つの世界が聖剣の軌跡に吸収され、凝縮されたエネルギーが指向性を持って解放。
炎色の光線に渦が巻き、ミナスを含めた三人にエネルギーの激流が襲った。
だが、ミナスは全くの無事。
まるで攻撃対象が選別されているかのように。
光線は魔族二人と地形のみを抉り——————————その一帯を空間ごと消失させた。
ミナスは目を開ける。
突如彼女を襲った光から目を慣らして辺りを確認する。
彼女一人分の小山だけが残され、シルクが放った光線の直線上は全く綺麗に消し飛んでいた。
ドサッと鳴った方を見やる。
赤の残滓が天へ昇り、残された場所には茶髪の少年。
「シルクさん!?」
彼女はすぐさまシルクの下へ駆け寄ったのだった。




