第六章20 『【世界侵食】』
「——————痛っ……。誰かが……いえ、シルクさんが? 私に……私の【世界図書館】に干渉している……!?」
突如ミナスはピルトの押さえつけ以外の、まるで脳の中心から刺されるような痛みが走った。
本来絵本から再現されるはずのない魂の複製によるバグ。
彼女の頭痛はシルクの【装填】がミナスの【世界図書館】とのパスを遡り、脳に負荷を与えた結果だった。
そんなミナスを無視して二人は異様な魔力の流れに警戒をする。
「おい……ピルト……。この空気はなんだ?」
「同じくですダレン。私も感じます」
二人は一斉に力の発生源を見る。
すると先程まで倒れていた少年、シルクが立ち上がってた。
見た目は然程変わらないものの、髪色が燃えるような炎髪。
しかし注目すべきは彼の握る得物。
刀から灼熱の剣へと変化し、その剣から発せられるオーラは魔族の二人が本能的に忌避するものだった。
「待ってください……なんですか、コレは!?」
周囲の結界が罅割れ、青い空が現れた。
離れた闘技場でも同様に、包んでいた結界が壊れ、人々を解放する。ピルトの意図したことではない。
勝手に壊れ始めたのだ。
異常な現象はまだ続いた。
「おいピルト……お前、いつから人間の姿に戻ったんだ……?」
「そんな貴方だって……まさか!?」
ピルトはようやく気づいた。
不穏な魔力の流れは一体どこに向かっているのか。
通常空気中には『魔素』しか存在しない。
その魔素を取り込んで生き物は内部で魔力と化すのに、どうしてその大量の『魔力』が空気中を流れているのか。
「我々の……いえ、空間内に存在する魔力を奪っているですと……!?」
魔力の流れ込む場所、いわば終点はシルクの握る聖剣。
「他人の魔力を吸収する力……そんな巫山戯た力があってたまるものですか!!」
本来【固有能力】は自身の魔力を使うことでのみ使用が可能となる。
ヴォルトの言霊のような相手に作用する能力でも、具体的な形を持たず、見えない魔力に影響を与えることなど不可能だ。
だが、今この時、シルクは明らかに他者の魔力を吸い上げ聖剣に収めている。
『自身の記憶領域にある状態・経験を〈確実に〉再現するという能力』
シルクの【固有能力】の文言にはそう記述されている。
つまり、【装填】して以降、〈確実に〉再現するために、不足分の魔力は一体どうやって賄われるのだろう?
結論は簡単だった。
——————自分の内に無いのならば他者の魔力を使えばいい。
そんな屁理屈とも言えなくもない理不尽を自身や他者に強いるのが【固有能力】。
勿論、最後の一絞りが終わったら魔力欠乏でぶっ倒れること間違いなしだが、今は関係ない。
収束した莫大な魔力が聖剣に貯まり、煌々爛々と聖剣は明滅する。
天に掲げた聖剣をシルクは静かに振り落とす。
「————————【世界侵食】」




