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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第六章19 『勇者の魂』

「ここはどこだ?」


 シルクが【装填】と口にした直後、彼は見渡す限り白、白、白の世界の中心に立たされていた。


 近くにはシルクを囲むように七つの台座が屹立し、その圧倒的重厚感にシルクは目を奪われる。


 ここは精神————魂の世界であることは感覚的に理解できる。

 だが、今までと違うのは背景色が白であり、二刀の剣士と対面可能な場所である黒の空間とはまた違い閉塞感が感じられない。


『承認————開始します』


 突如シルクの脳に直接『声』が響いた。

 男とも女とも感じる掴みどころのない機械的な声。


『不正干渉を————ヲヲヲ、ガガガガァアァアァギガガガガガ————承認しました。状態鑑定。身体損傷レベル大。精神安定。敵勢確認。申請受諾。更新開始————終了。ようこそ、勇者』


「勇者————?」


 シルクの困惑を無視して、『声』は淡々と話を進める。


 聞いたことがある。稀に高位の【固有能力】は自意識を持ち、時には使用者である能力者に干渉することがあると。


 高位の能力に『声』の発した『勇者』の二文字。このヒントでシルクは答えに至る。


「——————ここは勇者の能力を再現した際に生じた魂の世界」


 七つの台座の一つ。その横二つの聖火が燃え上がり、頂点に突如大剣が出現した。


『————陽光大剣へーリオス・クシフォス』


「……大剣?」

 そして、次々と武器が台座にその姿を表す。


『————陽光慈弓アマテラス・トクソ』

『————陽光闘槍ソール・ロンヒ』

『————陽光祝杖ミスラ・ラヴディ』

『————陽光霊琴バアル・アルパ』

『————陽光城盾インティ・アスピーダ』


 残りの一つ。

 他の台座とは違う存在感を放つ台座にシルクは身体を向ける。


 上から温かい光で照らされ、金色の粒子がその形を作り始める。


 見る前から分かる。

 形成時から伝わる、剣呑さと優しさが同時に孕んだ、アンバランスに秩序保つ矛盾を抱えるその武器は紛れもない勇者の武器だと。


『————陽光聖剣アポロヌス・グラディウス』


 その剣はまるで太陽を感じさせた。


 灼熱の赤に静寂の白。

 シンプルながらにどこをとっても洗練されたとしか言いようがない、まさに聖剣と言う名に相応しい剣。


「温かい……」


 シルクは思わず声に漏らす。

 聖剣背後から刺す御光は眩しくなく、シルクに落ち着きと温かさ、そして安らぎを与える。


 周りの一級武器を他所に目が磔になると、再び『声』が脳に響く。


『敵勢力確認終了。【陽光武装】威力並びに干渉力縮小。【空間侵食】許諾』

『格上の存在に臨み』

『己の為に戦い』

『味方の為に矛を取る』

『不純な心は無く』

『ただ望むは救済のみ』

『欲するは逆境を覆す純然たる力』


『——————————————————————————————————————————————————————————————————————————承認』


 声は幾重にも重なりながら、シルクに届いた。

 それは何かを確認のようで、何かを求めるようで。


『最後に質問します。貴方は敵勢力————呼称魔族を滅ぼしたいのですか?』


『声』が人間染みた口調で流暢にシルクに確認する。

 シルクにとっては馬鹿馬鹿しい質問。

 魔族を全滅を目指しているわけじゃない。


 目的はただ一つだけ。


「俺は魔族を滅ぼしたいんじゃない。皆を、ミナを危険に晒す悪い奴らを倒したいだけだ」


 シルクは迷いなくハッキリと答えた。

 もう弱いシルクはどこにもいない。


『グレイト。合格です。流石は勇者』


「僕が勇者って一体————?」


『陽光聖剣アポロヌス・グラディウス。貴方の出番です』


 いつの間にかシルクは聖剣を握っていた。

 初めて握るのに馴染むようで、この剣の扱い方が脳に流れ込んでくる。


『進みなさい、勇者。己の信じる道を。周りから正義とも偽善とも言われようとも罵られようとも。ただ貴方が信じる道を突き進みなさい。この力は貴方の一助になることを願います』


「……これでミナが救えるのか?」


『肯定します』


「……分かった。ありがとう」


『いえ、感謝には及びません。それが勇者の決断とあらば。では覚醒します。——————————三、二、一』


 シルクの視界が更に眩く光り、彼はその世界から抜け出す。


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