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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第六章18 『絵本の勇者』

「(ミナの声が聞こえる……)」


 シルクは今にも閉じそうな両目瞼に逆らい、僅かの所で踏ん張っていた。

 今目を瞑ってしまえば楽になれる。

 妙に落ち着いてきた身体にじんわりと温かいものが巡り、解放の誘惑が彼を襲う。


「(僕は……よく頑張った方じゃないか。だって【末席】なんだぞ。僕は学院内で一番弱い存在だったんだから……)」


「(約一週間前まで僕は何も出来ないただの不適合者だったんだぞ……)」


「(よくやったと思うよ……。僕は僕なりに頑張った。魔族相手にここまでやれれば大金星じゃないか……)」


 朦朧とする意識の中、シルクは自分の慰める弁を片っ端から並べる。

 これから死にゆく自分を少しでも良い形で、納得した形で終わらせるために、彼は自分の全てを肯定した。


「(よくやった……。よくやった……)」


『そう。お主はただ逃げているだけなのだ』


 今思い出したくも無い言葉がシルクの耳に囁かれた。


「(違う、これは逃げじゃない。頑張った成果だ。結果だ)」


『自分に都合のいい言い訳を見つけて逃げようとしただけなのだ』


「(違う、言い訳じゃない……。言い訳じゃない……?)」


 言い訳じゃない。心でそう叫ぶもシルクの胸に何かが引っかかる。


「(よく頑張ったって……。自分に言い訳して諦めようとしている…のか?)」


「(これは逃げようとしている……のか、僕は)」


 悔しい。

 その感情がシルクの胸の内に出現した。

 頑張った。

 頑張ったのに、それを言い訳に、仲間の協力を無惨にも捨てて、全てを諦めようとしている自分がいることに彼は自分に怒りを覚え始めた。


『男なら己の手で掴もうとせよ』

『弱い心は炉に焚べよ』

『己の想いに従って持てる全てを振るえ』


「逃げちゃ……ダメだよな。まだ、僕は————俺は……まだ死んでいないのだから」


 シルクの声は誰にも届いていない。その再燃した熱い闘志に誰も気づかない。


 糸が切れた人形に新しい糸を通すように、シルクは自身の神経を再度起動させる。


 掠れゆく視界、今にも閉じそうな瞼。

 しかし瞳の奥に微かな光が輝きだす。


 動く口に己の持てる全てを捧げる。

 身体全身から絞り出した最後の残存魔力を凝縮。


 この逆境を跳ね返す理想の自分をイメージ。そして彼はこう口ずさむ。


「————【装填】」


 幼い頃から大好きで、彼女から借りた()()()()()()()

 そんな微かな希望に一縷の期待を乗せて。


「————《再現・開始》」


 直後、シルクの脳裏には心の底から憧れた絵本の勇者が立っていた。


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