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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第六章2 『真の戦いの幕開け』

「シルク、私と、私と、交さ—————————————イッ!?」


 当然周囲の急激な景色の変化に三人は動揺する。

 学院から外が何も見えず、周囲は薄暗くなっている。

 太陽の光が入ってこないが少し明るいのは結界に描かれている魔法陣の力の一部だろう。

 三人は警戒して周囲を見渡す。


「——————ねぇ、アレ、見て」


 ファルティナの指差す先、闘技場改め体育塔が学院を覆う結界と同じものに包まれていた。


『グハハハハ!! えー、聞こえているか学院生徒教師諸君。我々は人畜有害の戦士である。グハハハハ!!』


『ふーッ。フッフッ。ふふーフ。フっ、へっ!!』


『ダレンは何意味分からないこと言っているんですか!? それにホルクも乗らないでくださいややこしい!!』


 一方向ではなく、あらゆる方向から三人の声が聞こえる。

 野太い声に、鳥のような鳴き声に細く冷静そうな印象を与える声。

 耳を凝らすと結界から声が拡散されていることが分かる。


『はい、代わりまして。私はピルト。ピルトと言います。皆さん、胃袋に放り込まれるまでは是非とも私の名前を覚えておいて下さい。私たちは魔族、人間の貴方達の敵です』


「んな————っ!? 魔族だって!?」


「異種族、王国入るの難しい。しかも学院の進入とか、普通無理」


 何か経験がありそうな言葉の重みを感じさせるファルティナ。

 そう、そもそも人間族支配領域に異種族が入り込むことさえ難しいのに、しかも王国王都の、その中でも警備がかなり厚い、学院に魔族が進入したのだ。

 普通は考えられない。


「見た目で気付きそうなものを……なぜ……?」


「誰か、手引きした、とか?」


「かもしれません。お嬢様」


『我々の要求はただ一つ。『賢者』を我々の下へ連れて来て下さい』


「賢者?」


『この学院にいるのは分かっています。人類の叡智が詰まった女。私たちの要求はその方の身柄です。もし、速やかに目的を達成した場合その方以外の無事は保証しましょう。さぁ、皆を救いたければ、近くの使い魔に名乗りを上げなさい。では、懸命な判断を』


 声がやみ、不気味な静けさが学院に残った。


「無事を、保証する? 嘘、魔族に限ってそれは嘘」


「最初に『胃袋』がなんとか言ってましたしね。男はともかく女性は最高でも『孕み袋』が関の山でしょう——————————ってシルクヴェント?」


 まるで何かに気づいてしまったかのように目を丸くするシルクにコルンが声をかける。


「ミナ……だ。ミナス=ラナンキュラス……」


「シルク? その女がどうした、の?」


「アイツらが言っている『賢者』はミナだ!! 人類の叡智が詰まった女って、【世界図書館】を持つミナ以外にありえない!! しかも時期が時期だ。ミナが転校してきた時期に襲撃なんて偶然とは思えない。今までミナは半ば隔離された生活をしていたって言っていた。監視、護衛が緩んだ今をアイツが狙ってきたんだ……ゴホッゴホッ!!」


「落ち着いてシルク。ね?」


「落ち着いてなんかいられないよ!! あの彼女の性格だ。躊躇わずに自分から犠牲になりに行くに決まってる!!」


「————ぁ。待って、シルク!! あーもう!!」


 シルクはファルティナをよそに体育塔に向かって走り出した。

 ファルティナとコルンはポツンと屋上に取り残される。


「……振られちゃいましたねお嬢様」


「……フラれてないし。シルクは優しいから、人助けに行っただけ、だし」


 緊急事態にも拘らず緊張感なく不貞腐れるファルティナ。


「それで、どうしますお嬢様? 私は当然この件に拘らず静観するべきだと判断しますが?」


「私も同意。でも、多分動けるの、私たちとシルク、だけ。何もしなかったら、シルクに嫌われちゃう……。びぇ」


「自分で想像して勝手に泣きそうにならないでくださいお嬢様」


 だがどう行動するのが最善なのだろうと思案するコルン。

 立場的に危うい存在である自分達は不干渉がベストなのだろうが、二人だけ生還したという無駄な注目を浴びるもの不味い。


「私たちで、事態を収拾、すべき」


「残念ですが同じくです。助力した程度なら目立たないでしょう」


「シルクの好感度、上げるチャンス、キタコレ」


「ボーナスステージ来たみたいに言わないでください……。一応今の私たちもピンチなんですよ? 正体がバレる的にも孕み袋にされてしまう的にも、もう二重の意味で」


「シルクのっ!! むふーっ 孕み袋っ!! なる、チャンス!! グヘヘヘヘヘ」


「少しは緊張感ってものを持って下さい!!」


 主人のマイペースさに引きずりこまれるコルン。

 だが、いい感じに普段通りさを取り戻し、気持ちに余裕が生まれる。


「じゃあ、コルン。ついてきてね? ————————掃討するよ」


 ファルティナの表情が凛々しくなる。

 気を許した仲になるとあどけない一面や欲望に忠実すぎる一面ばかり見せてくるため徐々に分からなくなるが、常々彼女は周りからこのように見られているのだ。

 長身痩躯で美しい顔。

 顕現するは曇りなき銀のレイピア。

 武器を抜いてまだ見えぬ敵に掲げるその姿はまさに神話の勇者のよう。


「了解しました。私の主」


 コルンはその姿に敬服以外の感想を抱くことはなかった。



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