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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第六章1 『バカな主人と朴念仁』

 序列戦五日目最終日。

 順調に決勝に残ったファルティナはコルンと共に学生塔屋上に立っていた。


「そう、私がシルクと出会ったのは、あの星が綺麗な夜だった」


「……お嬢様、私を置いて回想シーンに入らないでください。私は入れません」


「私が王国内で歩いていると、とある茶髪の優しい、少年が話しかけてきた」


「……断固として続けるんですね。お嬢様が私とはぐれて王国内で迷っていたんですよね? しかも涙目で。それを見かねたシルクヴェントが話しかけたのだと伺っておりますが」


「……違うもん。コルンが、はぐれたんだもん」


「いえ実際私と再会した時に『びぇぇぇ。コルン。ざびじがっだよぉ……』って泣いて一晩私を離さな————————————むぎゅっ」


「そう、都合の悪いシーンは、カットで。ね? そう、シルクは優しく私を、助けてくれたの……きゃっ」


 ファルティナは赤面し、そこで会話がストップした。続きを待つも一向に始まらない。


「え? 終わりですか?」

「……? 終わりだけど?」

「……チョロすぎません?」

「チョロすぎ、ませんけど?」

「えっ、私の主人チョロすぎ!?」

「だから、チョロすぎ、ませんけど?」


 ファルティナは表情を変えず淡々とコルンに言葉を返す。


「……私、チョロすぎ? 泣いてるところ助けてもらって惚れるってダメ?」


「いえ……。泣いているところを助けてもらったら惚れるのは確かに不思議ではないんですけど、お嬢様が泣いていた理由がただの迷子ですからね……。なんか、こう、インパクトが足りないというか……。そう、薄いんですよ。根拠が」


「……恋に理由は要らないって、書いてたもんっ」


「それ、今の回想シーンもどきの存在意義全否定してますからね?」


 二人の会話に水を刺すように木製のドアが軽く軋みをあげて開かれる。


「ファル? 用事って何かな?」


 ファルティナが闘技場から離れた学生塔の屋上に居たのは理由があった。

 今日は主に勝ち残った優秀な生徒達による準決勝と決勝の試合が行われる。

 毎年熱い試合が繰り広げられるため、観客席は満席。序列戦で最も白熱した瞬間を逃さないために生徒達は席に座り続ける必要がある。

 今日に限っては学院の先生とは闘技場に一斉集中しているのだ。


 シルクは念の為保健塔で一夜を明かし、起きた時には首元に手紙とヨダレ跡があった。

 ヨダレを垂らして寝るなんて自分もまだ子供だとシルクは思いながら手紙を開けるとファルティナからの呼び出しが綴られてあった。そして今に至る。


 何も知らされず、ただ主人について来たコルンは圧倒的テンプレ臭に思わず額に手をあててふらつく。

 別に日光にやられたわけではない。主人の浅はかさに思わずびっくりしたのだ。


「……お嬢様。私、今からの展開読めてきた気がします」


「うん。十一人の子供達と、スポーツチーム、作る」


「すみません。全く読めてませんでした……」


「それでファル? 呼び出しなんかしてどうしたの?」


 この男もこの男だ、とコルンは睨む。

 呼び出し、大事なイベントの前、お嬢様の好意、これからでも十分に予想がつくだろうに元茶髪天パ眼鏡はそれを察している素振りも見せない。

 どうして頭がいい癖に、ここまでお嬢様が露骨なのに気づかないのだと歯痒い思いをするコルン。


 そして、ただ風の音だけが鳴る数秒の沈黙。


 ファルティナは意を決したように口を開けた。


「あのね…シルク…」


 恥辱の赤面ではない、恋する乙女の薄桃色が頬を染めた。


 おお、やっと言うのか? 言っちゃうのか? とコルンが同世代同格の女子に向ける好奇心混じった期待をファルティナに向ける。


「……?」


 シルクは梟のように首を傾げる。

 正直この男が相手なのは面白くないが、このバカで朴念仁の間抜け面に一発キツイの叩き込んだれとコルンは思った矢先——————


 ——————————バカなのは自分の主人も同じであることをこの時コルンは完全に忘れていたことに気づく。


「もし…私が、優勝したら、ね?」


「大丈夫。ファルは優勝できるよ。応援してる」


「うん…ありがと。それでね……優勝したら……ね」


「優勝したら?」


 数秒の溜めと大きな深呼吸。

 ファルティナは恥ずかしくてニヤケそうな口をなんとか抑えながら、誰もいないことをいいことにその思いを叫んだ。


「私と交配して。——————あっ、間違った」


「しないよっ!?」


 ずてーっとその場で転ぶコルン。

 大事な時に噛むのではなく、「欲望を先に口出すとはなんたる痴女か!?」と侮辱とも捉えられかねない発言はなんとか喉の奥に仕舞い込む。


 コホンとファルティナは息をつく。


 シルクも今までの経験からこれはちょっとキツめのおふざけ程度にしか捉えていないのが幸いしたのか、未だ真面目に耳を傾けている。


 そしてファルティナも再準備が整い、その真の目的を果たそうと叫んだ次の瞬間——————


 ————————————学院全体が魔法陣が大量に描かれた青黒い結界に閉じ込められた。


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