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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第四章10 『光明』

「シルク、シルク、シルク、シルクゥゥゥゥ……。ごわがっだ。ごわがっだよぉ……」


「ごめんねファル……。ごめんね……」


 初めての死合からの緊張感から解放され、泣きじゃくるファルティナはシルクの体に顔をうずめていた。シルクは思ったより平気そうな様子だ。


「まさか…。カーラインがここまで戦えるとはな……」


「凄いじゃんシルっち!! ノースダリアさんは【第二席】だよ!? そんな凄凄のノースダリアさんに勝っちゃうなんて!!」


「私も……私も驚きです……。魔力の流れで【固有能力】を発動したのは分かっているのですが、動きが段違いにキレていて……。シルクさん、思ったよりももしかして強いです?」


「いや……その……」


 どこか反応が鈍いシルク。その時ファルティナはシルクから顔を放し、彼を見る。


「シルク……。まるで別人だった……。とても怖い人……。いきなりシルクじゃない人が現れたのかと思った……」


「「「「……?」」」」


 ミナス達は一斉に首をかしげる。いきなりのシルクの変わりように『別人』と表現しただけのように思えたが、それにしてはファルティナの感想に芯が籠っている。


「……。僕も、僕もそう思う。あの時の僕は少し僕じゃなかった……。あれは『侍』だったね。明らかに」


「な————っ」


 ミナスは驚きを口に出す。『侍』————『剣士』ではなく『侍』とこの少年は言ったのだ。その侍に彼女は心当たりしかない。その『侍』の話題はつい十数分前にしたばかりなのだから。


「一回目の【装填】。これは僕の過去の姿勢の再現だった。もし出来なければファルの氷弾が横っ腹に直撃してたからね。でも、()()()()()()()()()()()()()()()だよ」


「【装填】……カーラインの【固有能力】だよな。確か効果は……」


「うん。『僕の記憶領域内の状態・経験の強制再現』。一度出来たものは次回確実に出来るようになる経験再現、前の状態を再現する状態再現の二つがあって、一回目の方は後者。二回目の方は前者だね」


「シルクさんの二回目の【装填】……。これは私の貸し出した本『日之出国五輪之侍』から引き出した力なんですね……?」


「うん。そう。ミナが能力を説明するときに『僕の記憶領域に保存する』って言っていたから……ね。多分、それが再現されちゃったんだと思う。僕もあの時、流れ込んでくる自分じゃない誰かの経験に引っ張られて頭と体を動かしてたから……」


「本来ミナスの力は相手の記憶領域を間借りして保存するだけで、実際に読まないと本来の自分の記憶領域に知識が移行しないはずだ。だが、カーラインの力は間借りされ植え付けられた本来自分のものではない記憶も自分の記憶だと認識して効果が発動したのか……。それも今回ミナスが貸し出したのは故人の記憶を複写したモノ本来の本には『記録』がなされているだけで『記憶』が含まれているわけではない。奇跡に奇跡が合わさって見つかったような……それこそ裏技だな」


「つまり……ミナちゃんの【固有能力】とシルっちの【固有能力】を組み合わせれば、一時的にその人の技術を体得できるってこと? 凄いじゃん!!」


「ああ、凄い……。凄すぎる」


「ねぇ……。このまま挑んだらエストリッチに勝てるんじゃない?」


「いや……微妙なところだろう。少し判断がしづらい。最初からカーラインに強化系付与がされていると判断されたらそれこそ不正。だが、己の【固有能力】を活かしたやり方だとゴリ押せばなんとかなるかもしれない。まぁ、後者はオススメしないが」


「なんか……勿体無い気がしますね」


「同意…。あんなに強いシルク、試合で見たい」


「あはは。でも、確かに僕も規定ギリギリアウトだと思うよ。少し反則級の強さだよね。勿体無い気がするけど」


 シルクは少し肩を落とす。せっかく見えた黎明に『ルール』という影が差したからだ。しかしこればっかりは仕方ないと納得するのは簡単である。


「この学院はペアや団体より、個々人の強さを評価の基準にするからな。カーラインとミナスのような【固有能力】の組み合わせで大きな価値を生み出すものでも評価されないんだ。だが少し勿体無い————————そこでだ」


「あっ、お兄ちゃん。やっぱり?」


 カザリがニヤリと笑ってレンを見る。レンもカザリに頷いて笑い返す。


「ああそうだ妹よ。ミナスの能力で本の返却は出来ないが、それを使ってもいけない。ならば、試合前に何度もその力を使って技術を体に叩き込めばいい。その自身の記憶領域に保存した偽りなき記憶から引き出せばいいんだ。まぁ、当然先程のようなスムーズさは無くなるだろうが、一撃一撃のその場凌ぎ程度なら十分だろう」


 皆の顔に花が咲く。

 見えた希望。退学回避の未来を掴むのが夢物語じゃなくなった。

 そう決まれば後は早い。やれることをただひたすらにやるだけだ。


 ◆◆◆


 そして残りの四日間はあっという間に過ぎる。

 シルクの能力をベースにした訓練は時に相手を傷つけそうになることもあったが、何事も無く無事に終わり、有意義な時間を過ごすことが出来たと言っても過言ではないだろう。


「明日……か……」


 シルクは興奮で寝付けない。

 怒涛の日々であり、最初は辛かったものの全体的に見れば良い日々だった。

 友達が増えた。笑うことが多くなった。自分に自信が持てた気がした。

 この幸せを手放したくない、シルクは強く思った。

 そして、彼の一生を決める人生最大の戦いの火蓋が切られる。


次は第五章です。本日の更新はここまでにさせてください。

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