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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第四章1 『序列戦』

 昨日教室で問題を起こしたシルクとミナスの二人は一緒に登校していた。

 一人なら気まずさに学校を休んでいたかもしれないが、二人なら心強い。

 昨日と同じ姿で並んで歩く二人だが、一部決定的に異なっている部分があった。


「ふふっ。その眼鏡、お似合いですよ、シルクさん」


 彼の顔にはダサいと一蹴された大きな丸眼鏡ではなく、四角い黒縁フレームの眼鏡がかかっていた。髪を切り揃えたため清潔感が出ており、もともとある程度整っていた容姿が露わになる。もしかしたらシルクだと誰も気づかないかもしれない。


「うん。昨日はありがとう」


「流石。私のセンスはピカイチですっ」


「今の自画自賛必要だった……?」


 学生塔に入り教室に向かう二人。入塔した時に緊張で体が強張るも鞭を打って足を進める。

 どんな目で見られるのだろう。と不安で胸が一杯になっている二人の前に異様な光景が広がった。


 普通、問題を起こした生徒は何かしら注目を集めるものだ。

 だが二人が教室前掲示板に辿り着いても誰も見向きさえしない。生徒全員が掲示板に目を奪われ、騒いでいる。シルクとミナスの存在にすら気づいていない。

 彼ら彼女らの顔には疑念、安堵、驚愕など様々な感情が見て取れた。


「……? あれ? なんか予想していた空気とは違いますね? もう少し私たちに怪訝な視線が向けられるのかとばっかり……」


「僕もだよ。こうも反応が違うと昨日の出来事がまるでなかったみたいな。それに何を見ているんだろう。成績順位表は昨日腐る程見ただろうし……?」


 二人を渦巻く疑問は直ぐに解消されることになる。


「ヨォ、お二人さん。昨日は二人でしっぽりどうだったよ? ア? おっ、シルク。お前あの汚ったねぇ髪切ったのか。女を知って調子乗ったか? アア?」


 二人の背後から敵意の籠った威圧的な声が聞こえる。二人が振り返ると取り巻きを伴ったヴォルトの姿があった。


 生徒たちは一斉にシルク達に注目を集める。しかし彼らの目から好奇心も、ミナスに諭されて感じただろう後ろめたさも感じられない。


「おい、アレ、シルクヴェントか?」

「嘘でしょ、あの天パは?」

「よく見ると面影が」


 しかもその大多数の視線はミナスやヴォルトではなくシルクに集まっていた。

 いきなりの容姿の変化にこの少年がシルクだと気づかなかったことが意外だったのだろう。

 だがしかし、容姿の変化に対する驚きの視線とは別のどこか不安げな視線がシルクを刺す。


「なぁ…」

「かわいそうに……」

「やっぱりそういうことだよな……?」

「(みんなが僕に注目してる……? なんで……?)」


 シルクの動揺にヴォルトはニタリと笑っている。この笑いをするときのヴォルトは大抵良からぬことを考えていることをシルクは知っている。


「シルクさんとはそんなふしだらな関係ではありません。昨日の今日で突っかかってくるとは何事ですか」


「おうおう怖い怖い。流石正義の味方さまは違いますねェ。なぁ、お前ら」


「あははは」

「腹がいてぇぜ」

「いっひっひっひ」

「ケケケケケケケ」


 ヴォルトの取り巻きが一斉に笑い出す。何か含みのあるその笑いにミナスはハッキリと問う。


「だから、なんなんですか!!」


「大声出すなって。また耳に響いてみんなの迷惑になるだろ。ほら、あの掲示板を見ろよ」


 ヴォルトは顎で二人の後ろの掲示板の方を指す。

 生徒達は注目のシルク達のために道を開け、シルク、ミナス、ヴォルトは掲示板の前に立つ。


「……なっ!? 実技試験トーナメント表!?」


「シルクさん、これって?」


「僕の【末席】やヴォルトの【第一席】を主に決定する学年別の実技試験だよ……。でも、おかしい。本来ならこの序列戦はまだ先のはずだ!! 少なくとも学力試験の結果発表をされて直ぐに公表されるのは前例にないぞ!?」


「おいおい全くおかしくないって。なぁ。前例は作るもんだぜ? それにヨォ。ほら、ここを見ろよ」


 ヴォルトの指先には第一回戦に当たる二人の名前。


 第一回戦  シルクヴェント=カーライン VS ヴォルト=エストリッチ


「——————なっ。これこそおかしいじゃないか!! 本来実技試験—————『序列戦』は順位の近い者同士が先に戦うはずだ!! ましてや初戦で【末席】の僕と【第一位】の君とが当たる筈が無い!!」


 生徒達のシルクに向けた視線の正体はこれだった。本来とは異なる序列戦の開催発表に序列配慮無視の対戦相手。しかも話題の二人が初戦にぶつかる。みんな違和感を感じていたのだ。どこか作為的な、裏の力を。


「だからおかしくないだろ。二回目だが、『前例は作るものだ』。いやぁ、教師達も酷いことをする。まさか、たまたま、初戦で、お前と俺が当たるなんてな!! いやぁ、神もとうとうお前を見放したか? ギャハハハハハッ!!」


「シルクさん……」


「————ッ………」


「いいねェ、その反抗的な目は。シルク、【末席】のお前に俺様が直々に引導を渡してやるよ。残りの学院生活を有意義に過ごすんだな。俺はもう、ククク……試合当日が楽しみで仕方ないぜ。再起不能になるまで叩きのめしてやる。ああ、イイな!! 行くぞお前ら、始業の時間だ」


 そうしてヴォルト一行は教室に入っていった。次第に他の生徒達も教室に入り、ポツンとシルクとミナスの二人だけが掲示板前に残される。


「おーいミナちゃん!! それにシルっち!! おーい!!」


 廊下の奥からカザリの声が聞こえる。明るい見た目に反して深刻そうな顔つきで走ってきた彼女は二人の前でブレーキをかけて立ち止まる。


「はぁはぁ、ふたり、これ、見た、よね? はぁはぁ」


「序列戦ですよね? はい今そのことで————あわっ!?」


「うおっ!?」


「ちょっとこっち来て!!」


 焦っている様子のカザリは二人をグイッと引っ張り駆け出すのだった。


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