序章2 『乱入』
教師が目を瞑り、生徒が嘲る試合の中でヴォルトを襲った————いや、シルクを救ったのは長身痩躯の美しい蒼髪の女性だった。
右手にはレイピア。彼女の周囲からはこれもまた不可解な冷気が放たれている。
「おいおい、【第二席】さまがどうして邪魔するのかねぇ」
「……貴方、シルクを本気で、殺す気だった、でしょ」
「まさか。俺だって本意じゃない。でもこれぐらいで死ぬようなら学院には相応しくないだろう? 死んだら残念。生きていたら荷物まとめて田舎に帰りなって教えてあげようっていう親切心じゃないか。なぁ、俺って優しいだろ————ファルティナ?」
「……貴方に名前を呼ばれたくない」
「へぇ、お前もこの俺に失礼な態度を取るんだな。————ここで格の違いってモンを教えてやってもいいんだぜ? 今なら今晩の相手を務めるだけで許してやるよ? なぁ?」
「……下劣な人間、め」
「へぇ、ならここで分からせてやるよッ!!」
彼女の横入りで先程とは打って変わり一触即発の緊張感が場の生徒と教師全員を襲う。
固唾を呑んで見守る者は両者がぶつけ合う殺意に飲まれて萎縮する。しかしそれと同時に好奇心も生まれていた————この二人が戦ったらどちらが勝つのだろうと。
互いに構え合い、極限の集中をする。相手が一足でも踏み出したら飛び込んで切り捨てるために。
そしてその時は訪れた。
ゴーン。ゴーン。ゴーン。
「きょ、今日の授業はこれまで!!」
「チッ」
「シルクっ」
学院の中にある巨塔最上部に設置してある大時計が時間を告げるとともに、一人の教師が我に返り大声で授業終了を宣言する。ヴォルトは二人を尻目に取り巻きと共に後を去り、観戦席の生徒は一部がその場でへたり込み、教師を含めたその他の殆どが放心していた。
「シルク。起きてシルク」
倒れているシルクの下へ駆け込んでファルティナは彼の安否を確かめる。脈、呼吸ともに正常。ファルティナは一旦の無事に安堵するもシルクは目を覚さない。
「お嬢様、大丈夫ですか」
ファルティナの背後で学院指定のローブを羽織らずにメイド服を着ている小柄な女性が声をかける
「大丈夫ですか」と声をかけたがそれは主人であるファルティナに向けてのものだ。
「……シルクはまだ気を失ってる。コルン運んであげて」
「……どうして私が人間なんかを……」
「コルンお願い。私よりコルンの方が力持ち。後、『人間なんか』はダメ。バレちゃう」
「……お嬢様も先程『下劣な人間め』って言ってましたよ……。珍しく目が怒っていました」
「……揚げ足を取るコルン。嫌い」
「あーあー、ごめんなさい、ごめんなさいお嬢様!! 運びます、運びますから拗ねないでください!!」
ヴォルトとの対峙の際に周囲を凍てつかせた彼女とは思えないほどの雰囲気の変わりよう。
顔を膨らませてそっぽを向くファルティナに機嫌を損ねられては面倒臭いと思い、素直に言うことを聞く。そして可愛い見た目に反して、男一人担ぐ剛力を発揮しシルクを悠々とおぶった。
「お嬢様どちらまで? そちらは保健棟ではありませんよ」
「? 今から行くのは、学院の中庭。シルクは無事だし、三人でお昼ごはん」
「……お嬢様。本当にこの人間が心配なのですか……?」
「だから、『この人間』も、ダメ。シルクは大丈夫だから平気。それにシルクは、特別」
「耳が赤くなっていますよ? なに自分で言って自分で恥ずかしくなっているんですか……」
表情を殆ど変えずに淡々と話すファルティナが顔と耳を真っ赤に染める。それを揶揄うのでもなくただ呆れてメイド————コルンはため息ついてこう言った。
「一応確認しておきますが。私達の目的を忘れてはいませんよねお嬢様?」
「うん。ハッキリ覚えてる」
「なら良かったです。なので過度な干渉は————————」
「三人でお昼ごはんを食べること、でしょ」
「違いますよ!?」
るんるんと歩みを進めるファルティナにコルンは再度ため息をつく。
「……なんでこんな人間なんかを……。恋は盲目とは異種族間にも適用されるのですかね」




