第三章5 『病は気から。弱気は見た目から』
「着きましたね。ゴクリ。ここまで長かった気がします」
「実際距離はそんななかったのに。僕も心労でここに着くまで何年もかかった気がするよ」
二人がたどり着いたのは美容院。見た目をあまり気にしないシルクには無縁の場所である。
「病は気から。弱気は見た目から。ですっ」という謎理論に説得されシルクは渋々と案内をさせられた。ある程度の金は王国から給付され、元々節制家でもあるシルクは金には余裕はあるのだが、平民のシルクには少し抵抗がある。髪なんて長くなった時に自分で切ればいい。
「髪を手入れしないからボサボサしているんですよ。それで不潔感が出るから平民ってバカにされるんです。貴族だって金に物を言わせている部分も確かにありますが、清潔感を出す努力はしているんです」
「————ぐっ。僕ってそんなに不潔なの……」
「ああー。また直ぐに傷つかないでください!! でも、整っている方が女性は素敵って感じますよ? それに見た目に自信が出れば心にも自信が出るはずです!!」
「……本当に? どこの文献に書いてた……?」
「どうしてそこまで理屈にこだわるんですかーーー!? 少しは精神論を感受しましょう!! ほらほら!! さっさと入って入って!!」
「うう……。ま、眩しい……」
「何にも眩しくありませんよ!?」
あまりにも格式の高い店に初めて入るシルクは若干逃げ腰気味。
それもそうだ、心根から平民であり、貴族に虐めを受けていた彼なのだ。
自分なんかが……と思っても不思議ではない。
「いらっしゃいませー。今回はどのように?」
「この茶髪天パ眼鏡さんの髪をバッサリと。いい感じに仕上げてください」
「なんか適当じゃない!?」
「いいんですよ適当で……。————————どうせ今より酷くはならないです」
「ねぇ、今『今より酷くならない』って言ったよね? 内心相当酷いって思ってたってことだよね? ねぇ、僕に目を合わせてよ!!」
「わ、私、おそとで待ってますね……」
「ミナ待って!! 置いてかないでーーー!!」




