第三章2 『嫉妬と興味1』
シルクとミナスを店と店の間の小道の物陰から遠目で覗く二人の姿があった。
長身痩躯の蒼髪の美女と一歩後ろに呆れ顔で立つ小柄なメイド。
人間離れした精緻な顔を持つファルティナと学生街では珍しいメイド服を着るコルンは近くをよぎる人達から注目を集めていた。
「あの店も、あの店も。私が、シルクに、行きたいって、言ったやつ……」
「お、お嬢様……!? 冷気が、冷気が漏れ出てます!!」
嫉妬のあまり無意識に力が入り魔力が流れてしまうファルティナ。まだ初夏なのにも拘らず、彼女の周りの空気は熱を奪われ凍り始め、地面には氷の膜が張る。近くのコルンはあまりの寒さに唇を紫にしてガタガタと震えていた。
コルンが被害を被っているとはつゆも知らず、青筋を立てるファルティナ。両手で掴む木製の建物の端はあまりの力にひび割れる。建物全体が凍らずに済んだのは不幸中の幸いだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。アレ、アレを見てよ。めっちゃ二人いい感じじゃない? これ、恋じゃない? ラブじゃない?」
「妹よ。授業をサボると言った時は何事かと思ったがまさか覗きをするとは思わなんだ。こういうのお兄ちゃん関心しないぞ」
また、似たようなペアがもう一組。
「ぶー。いいじゃん、いいじゃん。これは覗きじゃなくて監視だし。何かやらかさないか監視するだけだし」
「何かやらかすとでも? あそこまで釘を刺したんだから、今日ぐらいミナスは大人しくなると思うんだが」
「違うってお兄ちゃん。やらかすのはシルっちの方だよ。シルっちは内に秘めた獣を解放して、ミナちゃんをペロリしちゃうんだよ!!」
「? シルクヴェントの【固有能力】は獣化系だったか? 確か違った気が……」
「いや一概に間違っているとは言えないけど………。ああっ、もういいよ!!」
ファルティナとコルンとは道を挟んで向かい側の、同じく店と店の間の物陰からシルクとミナスを覗く二人の兄妹の姿があった。
やや興奮気味な金髪ふんわりのカザリと一歩後ろに呆れ顔で立つ黒髪のレン。
カザリは好奇心で目を輝かせ、二人の動向を見守っている。
そう、ファルティナとコルン。カザリとレンの二ペアは学業そっちのけでシルクとミナスの後を付けているのだ。
片や自分の男を奪った女に殺意が芽生えかけ、今にも襲い、氷漬けにしそうなのを我慢。
片や親友の恋路が気になる年相応の反応を見せ、今にもちょっかいを出しそうなのを我慢。
ただ付き合わされているだけの二人の被害者は偶然にも同じくこう思った。
「「(早く帰りたい……)」」
だがその二人の願いが叶うことは決して無かった。




