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末席の勇者と英雄病賢者  作者: クサカリタスク
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第三章1 『デート?』

 魔術学院ソレイユの周辺は学生街で取り囲まれている。


 学生街とはその名前通り学院の生徒と同年代の少年少女たちが営む商業区域であり、学院の生徒たちは主にそこでバイト先を見つけたり生活必需品を用意したりする。

 飲食店、雑貨屋、娯楽施設、服飾店や本屋などが所狭しと立ち並び、飽きが無いのが魅力だ。学院を囲むように学生街が栄えるため、並の商業都市ぐらいの面積を誇り一日で見回ることはまず不可能。


 どうしてメインが子供であり大人が介入しないかというと当然理由がある。歩く大人を目立たせるためだ。

 まず学院を学生街が取り囲むように、その学生街は王都を取り囲む石壁と同じ壁で取り囲まれており、学生街に入るには複数存在する門を通過する必要がある。

 これは壁内に入る人間の出入りを管理するためだ。学院には貴重な資料や人材、外部に公表できない研究が多い。当然利益のために盗みを働く者もいる。その事前対処のためだ。

 学院でも注意を払っているが、たとえ盗まれても逃走を阻む巨大な壁は外部への脱出を許さない。ま

 た学院で盗みを働けるほどの技術を持つには相当な年月を要する。もう既に見て分かるほどの大人になっているというわけだ。

 見慣れない大人は学生街では注目を集める。歩く学生が監視人になるのだ。


「————なるほど。だから大人が極端に少ないんですね。さっきのお店にも大人がいなかったのはそれが理由ですか」


「うん。大人が学生街にいることは殆どないよ。居たとしても郵便局だけかな。あそこは王国内だけじゃなく他国からも手紙が届くから子供が背負うには責任が重すぎるしね」


 シルクとミナスは学院を出て学生街を歩いた。

 少し早い昼食は近場の喫茶店で済ませる。

 学院でも何かと話題のパンケーキは噂通りの絶品。絶妙にしっとりした生地とこだわりの蜜は二人の顔を自然と綻ばせた。


「あっ、あそこの服屋はかの有名な————」

「見て見て、あの鍛冶屋が作るナイフが————」

「あの本屋は品揃えが良くてね!! それで————」

「あの店のケーキは評判が良いらしくてね。特にチーズケーキが————」

「あの宝飾店、何かとジンクスが多くてね。カップルでお揃いのペンダントを買うと————」


 ミナスに学生街を紹介するシルクはかなり興奮気味だ。隣を歩くミナスは予想以上の知識を持つシルクに少々笑顔を引き攣らせている。


「な、あ、あのシルクさん?」


「見てよあの赤い箱!! あの箱に切手を貼った手紙を入れると王国内ならどこにでも————」


「あの!! シルクさん!!」


 ミナスは立ち止まり、我を忘れて楽しむシルクに呼びかける。近くを歩く人にクスクスと笑われてどこか恥ずかしそうに顔を赤くする。


「ど、どうしたのミナ? そんなに大声を出して」


「どうしたもこうしたもありませんよ。何でそんなに学生街に詳しいんですか?」


「え…。僕が詳しくてそんなに意外?」


「意外に決まってますよ!! だってシルクさん、友達いるんですか? さっきの喫茶店なんて一人で入るには少し敷居が高いですよね? それにさっきから紹介する店もまるでデートスポットみたいで……。あれ……もしかして私、誘われてます!? シルクさん草食系の見た目に反して結構肉食系男子!? 私、最後にパックリ食べられちゃいます!?!?!?」


「たっ、食べたりしないよ!!」


 ミナスの淫らな妄想がシルクにも伝わり茹で蛸のように顔を真っ赤にする。


「————————知識としてはあったんだ。唯一と言ってもいい友人から学生街でいつか行きたいところを教えてもらったり、紹介雑誌を貸してもらったりしてね。いつか、いつかと思っていたからちょっと興奮しちゃったよ。僕だって雑貨店と本屋ぐらいしか行かないから……」


「ああ、なるほど。私てっきりシルクさんが女慣れしているのかと………」


「いや……。女慣れなんて……」


 二人に気まずい空気が流れる。気恥ずかしさが込み上げ、まともに相手を見ることができない。これならシルクの興奮を冷めさせぬまま、勢いで色々な店を見て回るべきだったとミナスは後悔する。


「「(これ、デートでは?)」」


 二人は漸くその事実を認識したのだ。


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