共謀
宇宙のどこかから綺麗な放物線を描いて飛んでくるものがあった。それは七十億分の一に選ばれた僕の頭を殴って、世界中に運命の音を響かせる。天才作曲家ならその音に霊感を得て稀代の名曲を作るだろう。しがない小説家でも少しは面白い話を思いつくかもしれない。普通の人間でしかない僕にとっては天啓だった。ぶつかった衝撃で視界にぶちまけられたラメは、息を飲むほどに綺麗。
「死体を、捨てに行きたいの」
掴んでいた土を放して彼女を振り仰げば、無表情に近い、言葉のわりには深刻さを感じさせない顔をしていた。花壇を挟んで向かい合う僕らの間にはティッシュに包まれた、乾いた蛾の死骸がある。
「死体? 死骸じゃなくて?」
「そう、死体」
スカートを押さえてしゃがみながらなんでもないことのように彼女が答える。ドラマか何かの話かと記憶を遡ってみたけれどそんな話をした覚えはないし、もちろん互いの秘密を打ち明けるような間柄でもない。
都会からの転校生と仲間外れの僕。掃除当番の貧乏くじを引き当てなきゃ関わりの持ちようがないような関係だ。発言の真意なんて掴めるはずもなく、たちの悪い冗談だと笑い飛ばすには重い空気のなか窓に押し潰されてひしゃげた骸に少しずつ土をかけていく。
――死体を捨てに行きたいの。
盛り過ぎた土を擦り減らしながら彼女を盗み見る。俯いて口を結んだ彼女はどうやら話を終わらせないつもりらしい。自己紹介の時の頼りない印象とはかけ離れていて、僕は半ば惰性で続けていた土いじりをやめて彼女に問うた。
「どこに」
弾かれたように顔を上げて、小さく深呼吸をする。眼鏡越しにこちらを見据えて、彼女は一節ずつ区切るように答えた。
「あのね、月。月が、近いところ」
真っ直ぐで切実な目に僕は小さく息を吐く。あの綺麗な瞳をやり過ごす方法は、残念ながら今も分からない。