Reincarnation
輪廻転生が出来なくなった千方には、もう会う事が叶わない寂しさから、カフェ一帯は喪失感に襲われていた。
「耕三さん、もう絶対に千方さんは甦れないの?」
俺は、目頭が熱くなり、喉が締め付けられながらも、言葉を振り絞った。
「地獄で魂を失うと、もう転生出来ん。法術師や鬼であっても同等だ」
「千方さん、命と引き換えに、獄卒達の気持ちを大切にしたんだね」
千方を想うと、更に胸の奥が締め付けられた。俺には到底、真似出来ない。
そして、未だ千方が消えた場所で、座ったままの千嘉良と小角が、天を見上げている後ろ姿が、更にその場の空気を悲しさで埋めた。
金鬼もただ茫然としており、獄卒が喪失感を抱く姿は、これが最初で最後かもしれないと誰もが思った。
「千方らしいの。ほんに千方らしい逝き方じゃ」
小角のポツリと溢した言葉に、堪えていた何かが噴き出したように、千嘉良も妖達も声を出して涙した。
千方が妖のために生き、彼等に愛されていた証だけが残された。
暫くすると、小角は千嘉良の背中をさすりながら、立ち上がるよう促した。
「さて、千方の4鬼と契りを交わせばな」
小角は札を取り出すと、契約の術を施し、閻魔と金鬼に血印を押させた。
「金鬼、これでそちも、このカフェや黄泉側にも行ける。だが、万が一愚行をすれば、即時に魂は消滅する。よいな」
金鬼は頭を下げると、無言で了承した。
「閻魔、金鬼と共に阿鼻へ行き、風鬼、水鬼、隠形鬼との契りも、取って来て貰いたい」
「心得た」
金鬼は、千嘉良に一礼をすると消え去った。
「金鬼のあのような姿、我は初めて見た。千方のお蔭だな。千嘉良、褒めてやろうぞ」
「小角、、、、」
「さて、鬼髑共は、契りを交わさんでも、おいたはせんか?」
「小角、千方に誓った。俺等は、もう馬鹿な真似はせん」
「良い心掛けじゃ」
獄卒や妖達との交渉を終えると、次に小角の白い靄が、玄の方に目を向けた。
「玄、そちのお蔭で人界を守る事が出来た。心より礼を申す」
小角が玄に頭を深々と下げているのが分かった。
「い、いやだな~ 俺は、ラテと食べ物を出しただけ。人界を守ったのは、千方さんだよ。本当に、かっこいい弟さんですね」
玄は、千嘉良に目を向けると、言葉を掛けた。
妖達は、黄泉国の探検に再び出掛け、千嘉良には、勇達を迎えに行って貰う事になり、カフェには、耕三、小角そして玄が残った。
「実はな、玄、そちに大事な話があるのだ」
「何、小角さん、まだ何かあるの?」
俺は、何故か胸騒ぎがした。悪い話ではないと感じたが、説明の付かない寂しさが、込み上げて来たからだ。
「玄よ、実は、我は人界で、修験道の開祖とされてな、各地の霊場で鎮座し、修験者に正しい道導を示さねばならん。また山神のご機嫌取りも我の仕事じゃ」
「修験道? ごめん、小角さん俺にはちょっと難しい。そう言えば若者の言葉を知ったのって、鎮座してた時って言ってたね? って事は小角さんは、神様って事?」
「いやいや、そんな大それた者ではないが、、、、」
「小角は、仏だ。信者が沢山おる」
「って事はやっぱり凄いお方じゃん!」
「ああ、仏になれば、もう輪廻しない。なので、俺様がちょくちょく会いに行っていたが、突然行方不明になってな。悪戯が過ぎるぞ」
「悪戯って、、、、あの~ 俺の人生なんだけど」
「いや~ 済まぬ済まぬ。依り代に入りこんでも、魂は覚醒したままのはずだったのだが」
「実に不思議だ。小角の魂が、玄の魂に封じられてしまうとはな。人界でヤコが、何度か会いに行ったが、それでも目覚めず、あの爆発事故でヤコ共々、見失ってしまった。まさか地獄に潜り込んでいたとは想定外だ。窯の中で玄が死に掛けて、覚醒したが、全く危ない橋を渡る」
「ちょっとした手違いだ。大事にするつもりは無かったのだがな。丸の申すように不思議である。玄の魂が我よりも高貴なのかもしれん」
小角の言葉を聞いた瞬間、耕三の全身に衝撃が走った。
『大嶽丸と名付けよう』
「丸どうした?」
「いや何でもない。玄の魂は俺様と、過去のどこかで繋がっているのかもな」
耕三と同様に、玄の身体にも、電撃が駆け抜けるような衝動に駆られた。
『何? 今の?』
若干動揺気味の玄を、耕三は感じ取っていた。
「話が逸れてしまったな。玄のお蔭で黄泉国を見る事が叶い、妖達が無事でおるのも見届けられた。全て、玄の助けがあったからだ。心から恩に着る。その玄に我はまだ頼み事があるのだ」
「何? 俺の出来る事なら喜んで」
「我は人界に戻らねばならぬ。それには玄に黄泉の人間界から、転生して貰わねばならぬのだ」
「人間界? 転生? 生まれ変わるって事?」
「そうじゃ。地獄に別れを告げて、人生、赤子からやり直すのだ。どうだ?」
「・・・・・・ 地獄とさようなら」
俺の寂しさが顔に表れていた。
「やはり、、、、な」
「あははは、地獄に居たがるのは、お前くらいだ、玄」
「あ、そうか、そうだよね。普通は、皆さっさと修行を終えて、生まれ変わりたいもんね。でも、俺やっとカフェをオープン出来たし。勇達と離れるのも辛い。耕三さんや他の皆にも、もう会えないとかって寂しい」
無意識に俺は、耕三に悲しい目を向けた。
「誠に申し訳ない。だが、こればかりは、丸にも我にも、どうする事も出来ぬのじゃ」
小角が不甲斐なさに肩を落とした。
玄の心の中には、疑問が湧き出ていた。
以前の様に直接、人界に行って小角の魂だけ解放出来ないのか?
ここの人間界に行っても、耕三がまた俺を連れて帰ってくれないのか?
だが、同時に悟っていたのだ。彼等の出した答えは、きっと俺にとっても最善で、他に選択が無い事も。
そのため、無駄に言葉にして彼等に詰め寄る事は、したくなかったのだ。
だが、1つだけ、ふいに頭に浮かんだ。
「俺って罪人として、地獄に送られたんだけど。それは免除って事? 不公平な気がするけど」
「閻魔から聞いたが、お前は地球では無罪の様だ。爆発はお前のせいではないと言う事だ。黄泉の人間界に着くと直ぐに転生されるはずだ」
「無罪、、、、なんだ」
喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、定まらずとても複雑な心境だった。
「玄、お前の魂は古いようだ。転生しても見鬼の才を得るだろう。だから、きっと俺様や小角とまた出会える。そして、妖達の事も見えるはずだ。俺様の感は当たるぞ」
「丸の言う通りだ。我の魂を封印したほどだ。必ずまた会える」
「でも俺、赤ちゃんになっちゃうんだよね」
また、いつか耕三達と会えるなら嬉しいが、まだ複雑な気分で、喜びが付いて来なかった。
「ここでの記憶が無くなるのが寂しい」
ポツリと溢した俺の言葉に、耕三と小角にも寂しさが湧いた。
「そうだな。俺様の記憶には残るが、玄の中から俺様は消えるかもしれんな」
「分からんぞ。玄の魂を信じようぞ。でなければ、我も寂しいではないか」
「耕三さん、小角さん」
「勇達とは? 現世で会えたりする? 地獄カフェは誰がするの?」
「勇達は、それほど長くは、地獄に居なくて良いと閻魔が言っておった。だが、直ぐと言う訳ではないだろう。その間にカフェには新しい人員を入れ、勇達に引き継がせる。転生後、勇達と会えるかは、定かではない。だが、さっき言ったように、玄の魂には力があるようだ。勇達と地獄で会ったのも、何か縁があったからだろう」
一生懸命に俺の事を考えてくれる耕三と、申し訳ない気持ちを抱える小角を見て、俺は、パンパンと頬を叩いた。
「耕三さん、小角さん、気を使わせてごめんなさい。俺、我儘言える立場じゃないよね。小角さんを待ってる人が沢山居るんだし。俺、もう先の事は、心配しないって決めたんだ。今、なすべき事をするよ。それに人生やり直せるんだよ。それは素晴らしい事。そして、耕三さん、小角さんと、出逢えた俺は、幸せ者だよ。感謝しています。今は、この気持ちに応えたい。
小角さん、大丈夫、俺を人間界に連れて行ってください」
耕三と小角は、柔らかな笑顔で玄を見つめた。
いよいよ、残り2話です。
読んでいただいて有難うございました。
今週は、カクヨムとエブリスタに合わせますので、15日と17日にアップします。




