第8話 生徒会長
門をくぐった俺と赫耀は森の中にいた。
ぐずぐずしていると先住民がやってくるので、さっさと離陸準備に入る赫耀。俺はチャージで無防備になる赫耀の護衛に入る。フィールドに降り立った瞬間、先住民達はこちらの存在を察知し、向かってくる。例外はない。
周囲を警戒していると、視界の端に何かが映ったような気がしたので、右手に持っていたサイコロさんを振った。もちろん全力の祈りを込めて。信じる者は救われる。
出た目は6。
やはり乱数教に入信したことは正解だったようだ。最近出目が良すぎて少し怖いが...。確率は収束するものだからな。
向こうのほうでキャインと鳴く声と走り去っていく音が聞こえる。どうやらさっきちらっと見えた奴は犬タイプの先住民だったようだ。犬は高速アタッカービルドであり防御面が薄いため、ダメージを食らうとすぐに逃げる習性がある。
ふぅ、何とか追い払うことができたな。そろそろ赫耀のチャージも終わるころだろう。今回は乗り切れそうだ。
「賽ッ!チャー終ッ!」
チャージ終了の合図だ。
俺は素早く赫耀のもとへと駆け寄り、赫耀に抱き着く。赫耀も俺のことをお姫様抱っこする。
「よし、いくぞ!」
いざ、テイクオフッ!
俺と赫耀は空を駆ける一筋の赤光となった。
と心の中で思ったら、その時すでに飛行の旅は終わっていた。
毎度のことだが、速すぎて何が何だか分からんのよね。吹っ飛ばされないようにしがみつくので精いっぱいだし。ぶっちゃけどれぐらいの距離を飛んだのかも良く分からん。赫耀本人も似たような心境らしい。
「今回のクエストは花だったよな。先住民に見つかる前にさっさと探そうぜ、賽」
「そうだな。...この辺りには生えてなさそうだし適当に歩いてみるか」
という会話から10分後、駄弁りながら歩いていた俺らは目的のブツを見つけるに至った。
「おっ、賽、あそこに生えてるあれ花じゃねーか?」
「よし、意外と早く見つかったな」
花を摘んだ俺らは頷きあい、素早くナイフを取り出し自害した。自宅にリスポーンしてから中央広場に戻るほうが早いからな。
中央広場に戻った俺は赫耀を探そうとあたりを見回し、ふと違和感を覚える。なんだ?中央広場はいつも通り団劇の舞台となっており、そこかしこに屍が横たわっている。死者の冥福を祈り徳を積みつつ、違和感の正体を探る。
なんだろうなぁ。モヒカン、男、ネコ型ロボ、モヒカン、女、モヒカン、女、モヒカン、モヒカン...本当に最近モヒカンが多いな。ぱっと見、モヒカンとそれ以外で半分半分じゃね?
それにしても全員きれいにスパッと斬られてるなぁ。血が多く出るからやめ...ん?全員スパッと?
確かに刃物系の武器は人気があり使う人も多いが、それでも体感6割ぐらいだ。いっても7割。現に、周りにいる人達の中にも、ハンマーや棍棒を持っている奴がいる。それなのに全員が斬られた?もしかしたら、同じ奴にやられたのかもな。
また、人をこんなにスパッと斬れる武器も限られてくる。斧とかだと叩き切る感じになるから、こんなにきれいな傷口にならないはず。
となると...パッとも思いつくのは刀か?一人でこの人数を屠れる刀使いか...。該当する人物が一人いるなぁ。あの人戻ってきてたのか。
前方から一人の少女がやってくる。
「あなたは確か、賽さん...であってますか?」
あの人こと、"生徒会長"さんである。
黒髪ロングの清楚な見た目と、マナーの悪い人達を粛正という名目で斬り捨てていることから、生徒会長の二つ名をゲットした人だ。
「はい、あってますよ。そういうあなたは生徒会長さんであってますか?」
生徒会長さんは最強論争で名前が挙げられるほど強いとされる人物だ。思わず下手に出てしまった。咄嗟に警察に話しかけられたときに、必要以上にびくびくしてしまう感じだ。
「自分でそう名乗るのは少し恥ずかしいですが...。はい、そうです。私が生徒会長と呼ばれる者です」
「それで、生徒会長さんは何をしてるんですか?確か、フィールドの調査に向かったって話を聞きましたけど...」
「そうですね。さっきまでフィールド調査を行っていたんですけど、やられてしまいまして。それで中央広場まで戻ってきたんですけど、少しマナーの悪い方々がいらっしゃったので注意をしてました。」
注意という枠組みを超えてるような気もするが...。
まぁ俺も平和をこよなく愛する側の人間なので、生徒会長さんには是非とも頑張ってもらいたい。俺のいないところで。
「そうなんですね!いつもお疲れ様です!それでは私は用があるのでここらでお暇させてもらいます」
平和を愛する俺は人を3枚におろせてしまう物騒な女と関わり合いになりたくなかったため、その場を離脱することに決めた。碌なことが起きる気がしない。
「あ、ちょっと待ってください!」
どうやらこの女は俺に用があるらしい。だが何の用だろう?当然ながら俺に心当たりはない。ここで会ったのも偶然だし。
「なんですか?」
「急いでるところすみません。先日、ここで大勢の方が亡くなってしまった事件があったんですけど知ってますか?」
「...。い、いや。知らないですね。」
まさか、この女。
「そうですか。何人かからあなたがやったというお話を伺ったのですが...」
「しょ、証拠は、俺がやったていう証拠はあるのかよ!」
「あの事件、実は動画を撮っていた人が居まして」
あー、まじか。おそらくそいつは珍しく姿を見せた赫耀を撮っていたのだろう。それが偶然ということだろう。
因みに動画はメニュー欄にあるカメラのタブを押せば何時でも撮ることができる。もちろん写真も可。
畜生ッ、この女、最初から分かっていて俺に話しかけたな。こうなったら逃げるしかねェ!
俺は全力でダッシュした。
「やっぱりあなたが犯人だったんですね」
が、普通に追いつかれて取り押さえらえた。先住民達と渡り合えるような奴から平凡な人間が逃げられるはずもなかった。
「悪事には罰を。因果応報です」
俺は因果応報(打ち首)されて死んだ。やはり碌なことが起きなかった。