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今回は、ホラー。短い作品にするつもりなんですが、ちゃんとオチまでいけるかな?
・・・・・ああ。
可愛い。
すごく可愛い。
あの顔。あの体。あの足・・・。すべてが。
どれもこれも食べてしまいたくなるほどに・・・。
あの娘が欲しい。あの娘が欲しい
どうやったら手に入る・・・?
どうやったら?どうやったら?どうやったら?どうやったら?・・・・
「ん?」
また・・・。
美月はキョロキョロした。こっち側のコートでプレイをしていると、なんか視線を感じる。
サーブを打とうと、ボールを地面でつきながら、美月は右手のテニスコートに目をやった。そこは男子テニス部が陣取っている。素振りをしている1年生とそれ以外のラリーをしている2,3年生。
特にこちらに注意を払っている人物はいない・・・。
視線を反対側にうつす。視界がグッと開ける。野球部員たちが広がり、ひっきりなしに大声を出してノックを受けている。セカンドの宮脇がわたしに気があるって聞いたけど、今は鬼コーチのノックを受けるのが精一杯で、こっちを見ている余裕なんてなさそうだ。
じゃあ、こちらにもそれらしい人物は見当たらないか・・・。
グランドのずっと向こうのサッカー部と陸上部なんて、遠すぎて、そもそも除外だし。
「バスケ部・・・?」
そうつぶやいてから美月はため息をつく。
ないない。
美月は頭を振った。
体育館は校舎の向こうでテニスコートからは見えない。それに、拓也先輩はわざわざわたしなんか見に来ない・・・。
今朝、耳に入ってきた噂が美月の不安をかき立てるように大きなドラムを叩き始めた。自虐的な考えが頭の中を占領し始める。
美月は頭を振ると、ネットの向こうでサーブがくるのを待っているゲーム相手の紗希を見た。そして、フーッと息を吐き、今やっているゲームに集中を戻す。
「拓也先輩のことは、考えない、考えない。」
ようやくサーブモーションに入る。
ボールを高く上げる。
ラケットを持つ右手を後ろに反らせ、大きく振りかぶる。
ラケットを思い切り振る。
ラケットにボールがに当たる。
ゾッ
突然、美月の背中に悪寒が走った。
今・・・、たしかに・・・、誰かと目が合った。
紗希の背後にそびえるように佇む3階建ての校舎を見る。
「いや!!」
執念深い、おぞましい・・・そんなた印象を与える視線とぶつかる。
思わず目をつぶる。
「30(サーティー)-0(ラヴ)」
目をつぶった美月の耳に、審判をしている舞の声が響いた。どうやら、紗希にリターンを決められたらしい。気を落ち着け、美月は恐る恐る視線の発信源と思われる地点をそっと見た。
「なあんだ・・・。」
美月はホッと胸を撫で下ろした。
視線の発信源、校舎2階の窓を見ると、そこには、薄暗い生物準備室の窓から人体模型がのぞいていた。反面が、安っぽい人工のプラスチックでできた白い皮膚が覆う顔。もう反面が、その皮膚を剥いだ神経剥き出しの赤い顔。作り物の、命の通わない、奇怪な半々の顔に、それこそ何の感情も持たない漆黒の目がついている。女子だったらキャアキャア言いそうな不気味な顔だ。でも、美月にとっては実は見慣れた顔だった。なにせ、テニス部顧問の藤田先生が生物の先生なので、しょっちゅう生物室に出入りして、なんなら準備室にもお邪魔していた。そしていろいろなもの珍しい器具を触ったり眺めたりしていたのだ。人体模型もしかり。初めこそ薄気味悪かったが、最近は、すっかり親近感が湧いてきて、紗希たちと一緒になって、冗談で話しかけたりもしていた。名前までつけた。そう、大好きな先輩と同じ名前『たくやくん』。
今、その人体模型たくやくんがこちらをジーッと見ていた。ううん。正確に言うと、見ているのではなく、その目は、モナリザの瞳のように、美月がどの角度から見ても、まるで目が合っているかのように感じさせるだけなのだが。
「びっくりさせて!たくやくんかあ。もう!横にはガイコツまでいるんだから!」
ほんとに!人間って、落ち込んでるときは、なんでもないものでも、勝手に恐ろしいものに変換させちゃうんだから!なんてことはないただの模型なのに・・・。
はあ・・・。美月には、これもすべて、拓也先輩の噂のせいのように感じられた。
今朝。
『美月、二股かけられてるらしいよ。拓也先輩に。しかも本命はあっちだって。もちろん陽菜先輩の方!』
クラスは違うが、同じ2年生の女子バスケ部の3人が美月にわざと聞こえるように靴箱の所で話していた。美月がそっちを見ると大げさに驚いた振りをして話すのをやめた。
「40(フォーティ)ー0(ラヴ)セットカウント2-1、ゲーム終了。」
審判席に座っている舞が、キリッとした声をあげる。その声を合図に、美月はラケットを構えていた腕を緩めるとネット際へと向かい始めた。ネットの向こうの紗希は小さくガッツポーズをしながらこちらにやってくる。
「どしたの?今日の美月、全然手応えなかったよ。わたしの圧勝じゃん。」
ネット越しに握手をしながら、紗希が目をくりくりさせながら訊いてきた。いつもは美月のサーブにてんてこ舞いさせられるのに、今日はなんだかおかしいな、とその目は訴えている。
「こんなもんだよ。紗希が強いの。」
美月は口元を少し上げただけの笑顔を返した。
紗希は、そんな美月の様子に首をかしげながら、ちょうど審判台から降りてきた舞と顔を見合わせた。
校舎2階の窓からは、暗い準備室の室内で、標本の骸骨と横に並んで、人体模型のたくやが安い染料で塗られた漆黒の目を静かにテニスコートに向けていた。
もっとこうしたら、もっとこう書いたら、などのご指南お待ちしています!!
小説を書く時間の確保に奮闘中です(>_<)