長月と水上の出会い
学校では変わり者とされている少女がいた。
別に孤高な人だとか、そんなかっこいい印象を与える感じではない。むしろその逆だった。
授業中は大体寝ていて、いつも宿題を忘れて先生に怒られている。もちろん授業にはついていけてなくて、さらに言えば友達もいない。ぼっちの怠け者というのが周りからの印象だった。
しかし、彼女にはある秘密があった。
放課後になると、彼女はさっさと教室を出て行ってしまう。いつもはそうだ。しかし今日に限っては……。
「長月ちゃん。良かったら一緒に帰らない?」
珍しく、いや今まで一度もなかったことだが、声をかけられたのだ。
長月と呼ばれた少女が振り向くと、
えへへーと無邪気な笑顔を浮かべた少女、水上がいた。
「ごめん……。私忙しくて」
長月はわざと迷惑そうな顔を作って、謝った。
しかし、水上は引かなかった。
「長月ちゃん。やっぱり一人は寂しいよ。私と一緒に帰ろう!」
長月は壁時計をちらっと見た。そして、
「ごめん」再びそう言うと廊下を駆け出して行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕日が燃えている。すべての物が赤く染まっていた。
そして彼女……、長月の手も。
彼女は血に濡れた刀を手にしていた。日常の住宅街で刀を持つ女子高生の姿はあまりにも非現実的で異常な光景だった。
しかし、周りの人間は誰も彼女を気にも留めない。
警察官が自転車ですぐ近くを通り過ぎる。しかし彼女に一瞥もくれない。
何かがおかしかった。
長月はしばらく警戒した様子で、辺りを伺っていたが。やがて、深いため息をついた。
そのとき、
「ねえ、長月ちゃん。そこで何やっているの? その手に持っている物は何?」
長月は、はっとして驚きの目で突如現れた水上を見る。
「どうして、結界の中に……? ここは危ない。早くここから去って!」
「私、長月ちゃんが心配だよ。どうして刀なんて持っているの?」
怯えたような不安そうな様子で水上が近寄って来る。
だが、何故動ける? 普通の人間が結界の中で動けるはずがない。
「お前……。さては偽物だな」
長月は長い髪を揺らして、刀を構える。そして、目にもとまらぬ速さで駆けると、水上の胴体を横から切った。
水上は真っ二つになって倒れた。
彼女の体は血だまりに沈んでいた。
長月はその場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、学校に来た長月は、誰かを探すかのように教室を見渡す。
そして、一人の女子生徒の前に行くと声をかけた。
「水上さん。昨日、私に話しかけた?」
水上は困惑したような顔で、答えた。
「いえ。昨日は私、風邪で学校休んでましたけど」
長月は残念そうな顔を浮かべた。それからすぐに自分の席につくと、腕を枕にした。
孤独だった長月は、昨日水上に話しかけられて、一緒に帰ろうと言ってくれて、嬉しかったのだ。
しかし、昨日出会った水上は偽物だった。
長月は思う。結局自分は一人なのだと。
「あの、長月さん?」
お昼休み時間に、いつものように腕を枕に目をつむっていると声をかけられた。
長月が顔を上げると、水上が不安そうな、しかし好奇心を湛えた目で長月を見ていた。
「もし良かったらですけど、一緒にお昼食べません?」
長月は顔にこそ出さなかったが、内心とても嬉しかった。
彼女と交流を持つことで、彼女を危険な目にさらすことになるかもしれない。しかし、これくらいの幸せはあってもいいだろう。それに何かあったら私が彼女を守ればいいのだ。
こうして二人は友達になった。
後に、二人がもっと親しくなってから、何で私をお昼に誘ったの? と長月が水上に尋ねると、彼女はこう答えた。
「だって、長月さんが誰かに話しかけるの初めて見たもの。口ぶりからして、長月さんも誰かと関わりたいんじゃないかなと思ったの」
長月は寂しがり屋だと思われたことが恥ずかしくなって顔を赤くした。
これから先、長月と水上は友情を育み、そして長月は人知れず世界を守るために戦い続けるが、それはまた別のお話。