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ミュージックバー  作者: 天海全児
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対称

俺は、早速近くの宝くじ売り場に行くことにした。スマホで検索したら、鎌倉駅前チャンスセンターと宝くじロトハウス大船觀音店が見つかった。どっちにしようか。迷ったが、鎌倉駅のほうを選んだ。ここ北鎌倉から鎌倉駅までは一駅だが、横須賀線は15〜20分に一本ぐらいしか走っていない。都心付近の東急や小田急のように本数は多くない。子供のころから都内で育ち、電車というのは山の手線のように2〜3分待てばくるという感覚になれた気の短い俺には15分待つというのは、我慢できる時間ではない。


しかし、歩けば一時間はかかり、走っても30分かかる。病気にはジョギングや水泳など有酸素運動がいいというので、ここに来て、何回か鎌倉駅あるいはさらに由比ヶ浜まで走ったことがある。走るか? だが、なんだか元気が出ない。いや、走れ、ともうひとりの俺がハッパをかけてくる。走らないと病気治んないぞ、とその俺が囁く。おまえ、勝手なこというな、俺は疲れているんだ。おまえも、おれだろ? 人ごとのように言うな! じゃあ、勝手にしろ、俺はしらねえ、とその俺が言う。俺は、「その俺」を無視して電車で行くことにした。


俺は、身仕度を始めようとした。しかし、その前にスマホの路線情報検索で鎌倉行きの電車の発車時刻調べることにした。12時43分だ。ここから北鎌倉までは歩いて10分。今12時5分だから十分間に合う。俺はあわてず、着るものを選び出した。パジャマを脱ぎ、下着のトランクス型パンツをボクサーパンツに履き替える。俺は、寝るときと起きて活動するときでは、下着のパンツの種類を分けている。なぜかというと、寝るときはリラックスするため、ペニスをきつく締め付けないゆったりしたトランクス型がよく、活動するときはペニスがぶらぶらしないフィットするボクサー型がいいからだ。ペニスがぶらぶらすると、落ち着かず、快活な動きができない。


ペニスが自分の身体の中央線に対して右側にあるのか、左側にあるのかが重大な問題となる。俺は、中学生から常にペニスを左側に寄せていた。身体の動きのせいで右側に移ってしまったら、ズボンの上から、場合によってはズボンのジッパーを下ろして手を差し込んでペニスをホームポジションの左側に戻さなくては気が落ち着かないのだ。俺は、50年以上、つまり半世紀にわたってそのペニスの位置固定化のためのメンテナンスをしてきた。


しかし、半年前、俺はあることが気になり出した。それは、俺のペニスがペニス根元から全長の三分の一の位置から左方40度、いいかた変えれば、前方を北とすれば、北北西の方向に曲がったままなのだ。若い頃はあまり気にならなかった。何故なら、勃起したらちゃんと北向きなっなおったからだ。今はもう還暦過ぎた。勃起することはまずない。だから、ペニスの向きが一時的にもなおることがない。俺は考えた。人間の身体は左右対象だ。心臓が左側に偏っていることはよいとして、外見は左右対象だ。人間の身体を素っ裸にして真正面からみれば、頭の天頂から肛門の穴までに垂直線を描けば、ペニスはその垂直線の上にピッタリと重ならなくてはおかしい。


しかし、俺のペニスはそうはならない。左側に曲がってしまう。そう考えたら、非常に気持ち悪くなってきた。もしかしたら、この非対称が病気の原因ではないのか、そう思った。その晩、一睡もできず眠れなかった。それ以来、俺のペニスのホームポジションは右側に変わった。少しでも、左側に移動してしまったら、すぐさまズボンの上から、あるいはジッパー下ろして、手を突っ込み、ホームポジションである右側に戻すというペニス位置固定化のメンテナンス作業をすることにした。


そこで、俺は起きて活動するときは、ペニスの位置が移動しにくい、フィット感のあるボックス型にしてしているのだ。これをあと何十年か続けていかなくてばいけないはずだ。それで、ペニスの自然の位置が真ん中になるだろう。しかし、その時俺は生きているのだろうか。


俺は、スパンデックスが含まれている素材でできたフィットするボックス型パンツを探した。見つからない。どこに置いたのだ?見つからない。部屋は片付いてないので、乱雑に置いてある衣類や本などをどかしながら探すが、見つからない。早くしないと時間が経って12時43分の電車に間に合わなくなる。


もうひとりの俺がハッパをかけてくる、おい、おまえ、急げ! しょうがねえだろ、みつかんねえ、おまえも手伝え!と俺が俺に言う。タンスの引き出しを開いたり、衣類や本をどかしたり、いろいろやった。落ち着け、落ち着け、こう言うときは、きちんと整理作業をしてから探すべきだ、ともうひとりの俺が言う。俺は、その俺に従った。


散らかっている衣類をたたみ片付けることにした。本を揃えた。そうすると、やっとフィットするボクサー型パンツが見つかった。そして、ジーパンを履き、シャツ、セーターを着て、財布、定期入れ、手帳、ボールペン、ハンカチ、ポケットティッシュ、小型靴ベラ、スマホ、メガネ、帽子をみにつけた。そして、エアコン、電気カーペット、照明のスイッチを切り、部屋を出ようとしたが振り返り、室内を隈なく見回した。異常はないか? 異常なし!と声は出さず呟いた。


室内から外に出るにはキッチンを通り、キッチンと玄関スペースを遮る内扉を開け閉めしなければならない。そして、玄関扉を開けることになる。内扉を閉めたら、再度室内を見たくなった。しかし、この願望に負けると、大変なとこになるのだ。この願望に負けて、再度室内を見回して点検をしてしまうと、言うに言われない不快な感情に支配されてしまい、鬱状態に支配されてしまうのた。以前は、その失敗をよくやらかした。


しかし、最近の俺は、その成り行きがよくわかっている。だから、再度の室内の見回しをしないで玄関扉を開けた。もうひとりの俺が褒めた。よくやった、おまえ上出来じゃあないか、さすが俺だ。ありがと、俺は俺に礼を言った。早足で駅に向かった。


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