第4章 6話 『歪んだ敬愛』
1
とりあえずは冷さんに結果報告かな。
『DE』に帰還し冷さんに謎の『鎧』について説明をする。
「『ヌル』は謎の『鎧』が倒したということだな」
「はい。ちなみ給料は出ますか?」
「……まあ手ぶらで帰ってきたわけではないからいいだろう。だが確かに反応は『ヌル』一体のはず。『鎧』がそこにいれば反応が現れるのだが……」
説明するかどうかは迷ったが青銅先生から聞いた情報でもある。
それを伝えてみよう。
「その『鎧』からは何も感じなかったんです。命を感じなかったんです」
「命を持たない『鎧』か?」
「知っているんですか?」
「噂程度にはな。しかし『ヌルベノム』『無命』と次々と問題が発生してくれるな」
「『無命』は今、名付けたでしょうけど『ヌルベノム』って何ですか?」
「さっきコウとイタミが持ち帰った情報だ」
「あいつらは無事ですか?」
「イタミは怪我をしてはいるが命に別条は無い。ちゃんと五体満足で帰ってきたぞ。コウはいつも通りだ」
良かった……ふたりとも無事で。
それにしても今回はイレギュラーが多すぎる。
近いうちに何かが起きるかもしれないわね。
2
俺は先の戦闘で少し気になったことがあったので青銅先生の元へと向かった。
気になったこととは『仮想鎧』の件についてだ。
もちろん戦闘に支障は無く、難なく敵を倒すことが出来た。
だがそのことではない。
「青銅先生、少し聞きたいことがあるんですけど……」
俺が研究室に訪れると青銅先生は地面に転がっていた。
一瞬、何かの事故かと思ったが「スゥスゥ」と寝息をたてているのを見るとそうでは無いようだ。
このまま起こしていいものか?
そのままにしても仕方が無いので起こす事にした。
「青銅先生、起きてください」
「もーなにー? さっき寝たばかり、なんだけどー」
「申し訳ないですけど、聞きたいことがあるんです」
「仕方が無いなー…… はい起きた。もういい?」
いいわけがない。
聞きたいことがあると伝えたはずだが。
それにしても今の青銅先生の服装は乱れきっているな。
胸元ははだけているし、下手したら中まで見えそうだ。
この機会に凝視してやるか。
「君はどこを見ているのかな?」
急に青銅先生の声色が変わった。
その声はとても冷たかった。
それに加え奇異なものを見るような眼差し。
その視線が深々と突き刺さる。
嫌われないだけ、ましだと思うしかない。
「ココロちゃんに言い付けようかな」
「それだけは勘弁してください」
とりあえず、ひたすら全力で謝る。
告げ口されたら何をされるか分からない。
訓練中をいいことにひどい目に合わされるかも。
俺が反省をしているのを見て、満足したのか青銅先生は自分の服装を正す。
「で、何が聞きたいのかな?」
「『仮想鎧』のことなんですけど」
「使い心地はどうだった?」
「それに関しての問題は無かったです」
「そうかい。それは良かったよー」
「『仮想鎧』を装着している間って自分の能力は使えないんですか?」
「そうだよー」
俺は何度か先の戦闘中で能力を使ってみようとしたが発動しなかった。
「先に言って下さいよ」
「いや、知ってるかと思ったんだけどね。そうかー知らなかったかー」
「これも制限がかかっているからですか?」
「いーや、元からだよ。『仮想鎧』自体、人間が使うことの前提で作られているから能力の使用は出来ない、いや想定されていないのさ」
「では今後、使うことは無理だと?」
「それは分からないけど、『仮想鎧』は君自身に負荷のかかるものだよ。もし『仮想鎧』で能力酷使をしようものなら君は死んじゃうよ。いずれにしても『仮想鎧』は選択肢として考えておいてねー」
青銅先生はいつもの軽い発言とは裏腹に真剣な表情をしていた。
可能な無理なら、やってのけるつもりだった。
だが死ぬわけにはいかない。
もし死ねば誰かが悲しむ。
それだけは避けなければならない。
もう俺だけの問題ではないのだから。
3
どんなに出来ることが増えようとも、それを使いこなせなければ意味が無い。
ということで俺はトレーニングルームに来ていた。
俺は『ヌル』の能力の攻撃を受けたことにより、それを吸収してしまったようだ。
それを試したいというのが理由の一つだ。
だが、もう一つ理由がある。
それは青銅先生に言われたことが心に残っていて、居ても立っても居られなかった。
とりあえず体を動かしたかった。
さて試してみるか。
右腕にイメージを膨らませる。
エンと呼ばれるものが手から炎を出したのを思い返す。
それを具現化させるように創造する。
炎の創造。
出来るはずもないことを出来ると自身に確信させる。
血を硬化するように、球体を作るかのように。
そして、それを自分のモノだと認識する。
すると手のひらの小さな火が生まれた。
と同時に耐えらない熱さを感じた。
「熱っ‼」
途端に手を振ってしまい、火を消してしまう。
どうやら火傷を負ってしまったようだ。
それと同時に内側からの痛みを感じ、俺は耐え切れずに膝をつく。
心拍数が上がり、過呼吸を引き起こす。
これでは使い物にならない。
自分で制御しきれていないのだ。
火を生み出そうとすれば、火傷を負い。
同時に能力使用による痛み。
2つの障害を生み出してしまうのであれば、デメリットの方が大きい。
まだ鎧化した状態で使ってないが、この能力については保留だな。
痛みによる疲労で動きたくないので、そのままマットの上に横たわる。
なんて厄介な能力なのだろうか。
最初のころ、俺は自分の能力に自信を持てた。
初めて理解し、自分の可能性を感じ取れた。
だが今はどうだろうか?
また新たな問題に直面している。
なんとか打開しなければならないのだが、息詰まっている。
こういう時に自分だけで考えても答えは出ないことは知っている。
「おい、何寝てんだ?」
声の聞こえた方を向くと、体中を包帯でグルグルまきになっている少女、イタミがそこに立っていた。
4
「もう大丈夫なのか?」
「それはこっちの台詞だ。バカヤロー、お前、酷い顔してるぞ」
さっきまで痛みに苦しんでいたからな。
それに痛みの残滓が消えていない。
それが先ほどの能力使用を思い出し、恐怖に駆られる。
本当ならば二度と使いたくない。
炎の能力。
だが、そうせざるを得ないのだろう。
「で、何してんだよ?」
「能力の特訓だよ」
「そんなのが必要な能力なのかよ。お前の能力は?」
イタミに自身の能力について説明をする。
「じゃあ、お前はエンの能力が使えるってことか?」
「一応な。でも、あの炎の威力には程遠いぞ」
「そうか……。お前の中にはエンの力が宿っているんだな」
「宿っているね……エンはどうやって炎をコントロールしてたんだ?」
「結局、火傷を負うからあまり使ってはいなかったな。使う時があるとすれば工夫をしてたな」
「どんな風に使っていたんだ?」
「例えば火の玉を作り、すぐさま投げつけるとか。あとは一瞬だけ炎を起こしたりだったかな。何にせよ長時間は無理だったな」
「なるほど、本来の使用者でも長時間は無理だということか」
となるとやっぱり工夫が必要になるな。
「今、出せたりするか?」
「ちょっと勘弁してくれ、さっきまで痛みに悶えていたところだったんだから」
「もしかして火傷したのか?」
「そうだけど」
「ちょっと手を見せろ」
イタミは強引に俺の右手を引っ張る。
「ちゃんと水で冷やしておけ、火傷は処置しないと後から痛むぞ」
そう言って手洗い場まで連れていき、流水で傷口を冷やす。
強引ながらもイタミの優しさが伝わってきた。
面倒見が良く、仲間たちから慕われていた存在。
「どうして、イタミは自分の怪我のことは無頓着なのに、俺の小さな怪我なんかを気にするんだ?」
「他の奴が傷付くとこを見ていると、我慢ならないんだよ。あたしは痛みに強いんだ。だから、あたしだけで良いんだよ。怪我するのも、傷付くのも」
「優しいんだな。でも、それはイタミだけが無理をすることになる。俺はそれが許せないよ。俺はお前の家族では無いけど仲間だろ。だから協力してくれないか?」
「協力ね……。昔の奴らはあたしが守ってやらないと駄目な奴らだったからな。それが身に付いてしまってたんだよな。でも、ここにいる限りあたし達は対等なんだな……。コウ、お前はあたしの前から消えるなよ」
「約束するよ」
「信頼して、いいんだな」
俺は静かに頷く。
するとイタミは拳を前に突き出す。
俺も拳を突き出し、互いの拳を付き合わせた。
俺たちはこの瞬間、互いが内に秘めたものを伝え、仲間となった。
5
「さて、明日の『鎧』調査の打ち合わせの前に集まった情報を共有しておくぞ」
俺、ココロ、イタミは指令室に集められた。
「まずはコウとイタミが2体の『ヌル』を倒し、『ヌルベノム』という情報を手に入れてきた」
実際はイタミが『ヌルベノム』の存在を知っていたため、持ち帰ったわけではない。
明らかにしただけだ。
「『ヌルベノム』はいわば使用者は死にいたらしめ『ヌル』へと変貌させる毒薬だ。まぁ実際は適合しなければ、ただの毒薬だ。ただ成功例が出ている以上、存分に気を付けるように」
「そんなものが存在するなんて……だったら『ヌルベノム』自体を手に入れることは出来ないんですか?」
ココロも『ヌルベノム』の存在に驚いているようだった。
ただ、それを手に入れただけでは事件は終息しない。
製造元や出所、それらを突き止めなければならないため完全に根絶するには時間がかかるのだ。
「その調査も引き続き行っていくつもりだ。流石にこの情報を一般公開する訳にはいかないが、『HUT』や『HG』には協力してもらう。こればっかりは私たちの手に負えないのでな」
流石に『DE』だけでは無理があるか。
それなら他の組織に情報を流し、事態を収拾したほうがいい。
例え、『HG』がこちらを敵視しているとしても。
ただ、面倒事が増えるのは間違いないな。
『HG』の連中と鉢合わせて、いちゃもんをつけられたり、揉めたりと様々なことが想定される。
特にイタミは『HG』と一戦交えているらしいので、彼女の性格が引き金にならないといいけど……
「そしてココロが遭遇した謎の『鎧』についてだ。その件はココロに説明を任せる」
「私が出会った謎の『鎧』。そいつは『ヌル』と戦闘中だったの。だけど私を見つけた瞬間に襲いかかってきた。『ヌル』との戦闘の際は大したことは無かったのに、私と戦いの最中はまるで何かにとりつかれたかの用な動きだったわ」
「とりあえず、そいつは『無命』と呼ぶことにする」
「そいつが命を持たない『鎧』ということですか?」
「恐らくな。噂は本当だったようだ。うん? イタミどうした? 急に怖い顔をして?」
イタミの顔を見ると確かに怖い顔をしていた。
まあ、いつもこんな顔をしているのだが……。
ただその表情には、怒りや悲しみが入り交じっていた。
「そいつを見つけたら、あたしが殺ってもいいですか?」
「ああ、構わない。だがこいつは『鎧』の反応が現れない。どうするつもりだ?」
「大丈夫ですよ。もう目星は付いているんで」
イタミが珍しく敬語を使っていることに驚いた。
また、あの地に戻るのだろう。
仲間を殺すためだけに。
6
『鎧』調査2日目の朝。
俺たちは再び指令室に集まる。
「では本日も『鎧』調査を行ってもらう。今回もコウとイタミの2名で現地に行ってもらう。恐らく目星は付いているのだろう? イタミ?」
「ああ」と力無くイタミは答える。
「では本日中に片を付けろ」
「ああ。分かっている」
「コウにはバックアップを任せる」
「了解です」
イタミは殺しに行くのだ。
かつての仲間を。
俺はそれを止めることなど出来ない。
見守ることだけなのだ。
「くれぐれも『無命』には気を付けろ。少なくともココロに危機感を覚えさせた奴だ。見つけ次第、殺すつもりで挑め」
「そんなことは分かってんだよ‼」
イタミは急に声を張り上げた。
それは自分たちの上司でもある冷さんに対して許されない行為である。
「分かっているならそれで良い。イタミ、少しはリラックスしろ」
「ああ……すんません」
ところが冷さんはそれを許した。
イタミもバツが悪そうにそれに対して謝った。
イタミの中でも迷っているのかもしれない。
自分の行いが正しいことなのか?
ただ、それは他の者が判断することでは無い。
「コウ、あとは任せたぞ」
「はい!」
「では『鎧』調査並びに『無命』の排除任務開始」
7
俺たちは再びイタミの故郷に戻った。
ここは相変わらずの様子。
ただここにいる『忌能者』たちは皆、生き生きとしていた。
苦労していても、強く生きている。
俺にはそう見えた。
「さて行くぞ!」
「もう場所は分かってるんだな?」
「もちろんだ。今日で終わらせる」
「じゃあ行こうか」
俺とイタミは迷う事なく、廃ビルへと向かった。
もう誰も俺たちの事を引き止めることは無かった。
その理由はイタミが怒っていたからだ。
その怒りは個人に対してでは無い。
この事件を引き起こした連中に対してだ。
廃ビルの奥へと到着する。
そこにはケイと呼ばれるイタミの仲間がそこにいた。
まるで待っていたかのように……。
「よう、ケイ。また会いに来たぜ」
「はぁはぁ……イタミの姐さん。待ってたすよ」
ケイは苦しんでいるようだった。
まるで何かに耐えているかのように。
「待ってた? どういうことだよ」
「今日も姐さんに会えるかと思ってたんで」
「そうか……。その予想は当たったな。だがあたしには会いに来た理由があるんだ」
「はぁはぁ……理由って何すか?」
「お前を殺しに来たんだよ」
イタミは迷い無くそれを告げた。
自分のかつての仲間であるケイに対して。
家族とも表した者に対して。
「お前、『鎧』に取り憑かれているな?」
「取り付かれている? 違うっすよ。俺は『鎧』に目覚めたんすよ」
「お前は能力を保有していなかったろ?」
「うっ……そうすっね。でも俺は『鎧』を使えるのには変わりは無いっすよ」
ケイは苦しそうだ。
前回と様子が違うのは明らかだ。
「それは、お前自身の『鎧』じゃねえだろ!」
「クソ、何で分かってくれないんすか⁉ 俺はイタミの姐さんに戻って欲しかったからこれを手に入れたのに!」
「あたしはお前たちの居場所には戻れない」
「『DE』なんて無くなれば良いんすよ。そうしたら姐さんは戻ってこれる」
「それは無理だ。ここに戻ってきても、あたしはまた問題を起こす。もう迷惑をかけるつもりは無いんだ」
「その隣の男を殺せば戻ってくれるんすか?」
話が通じていないようだ。
もう彼は狂っている。
イタミに対しての歪んだ敬愛。
それが彼を狂わせている。
「残念だがそれは無い。なぜならあたしがお前を殺すからな」
「ふざけるな‼ 誰のためにこの力を手に入れたと思っている‼」
「お前にはここをまとめる役目があったはずなのにな。何で放棄した」
「俺には力が無い‼ だから『鎧』を手に入れた‼ 力さえあれば負けることは無い‼」
「そうか……あたしも悪かったな。『HCT』に捕まったりしなきゃ、そうならずに済んだのにな」
どうやら時間切れのようだ。
ケイの様子がおかしい。
「殺す! 殺す‼ コロス‼ オォォォォォ‼」
「憎しみに取り憑かれたか……。下がってろコウ! あたしが仕留める。手出し無用だ」
『――解放』『――カイホウ』
両者、同時に鎧化する。
ケイは無色の『鎧』。
だが黒いオーラを纏っている。
それは憎しみの力に見えた。
その正体はココロが戦った『無命』なのだろう。
命を持たない『無命』は使用者の命を乗っ取りにくる。
それがケイを暴走に導いた。
対してイタミは暗い緑の『鎧』。
体中に棘を生やした体で敵を見据え、鞘を構える。
「大丈夫だ。ケイ……きちんと落とし前を付けてやるからな」
8
「おい、コウ! しっかり見届けろよ!」
もう迷わない。
ケイは元に戻すことは不可能。
だから、あたしが出来ることは見送ること。
死への付き添いだ。
鞘を両手で握りしめ『無命』を見据える。
そして始まった。
先に動いたのはケイ。
あたしを殺そうと黒く染まった右拳を放つ。
あたしは鞘から右手を放し、渾身の一撃でそれを迎え撃つ。
最後ぐらいは本気で戦ってやるよ!
放つは右拳。
剣なんかよりも、殴り合いの方が得意だ。
「オラァァァ!」
「オォォォッ!」
互いの拳がぶつかり合う。
だが、互角な訳が無い。
あたしの右拳は粉砕されかける。
「うぐ、っ――!」
ケイには能力は無い。
しかし『鎧』がその力を引き出している。
引き出しているのではなく、引き出させている。
怒りや憎しみ、そしてケイ自身が抱えている闇。
それは大きな力であった。
あたしが痛みに耐えていると、次の攻撃が開始される。
今度は右の飛び膝蹴りが繰り出される。
何とかそれに反応し、頭突きで対応する。
それでも相殺できた訳ではない。
ただ、致命傷を防いだけだ。
そのおかげで脳が揺れる。
「うっ!」
流石に痛覚を遮断する能力があったとしても殺されてしまっては意味が無い。
だから相手を確実に殺すためには、死なないようにダメージを負う必要がある。
そして、すかさず敵はあたしのコメカミを蹴り抜こうとしている。
これは予想以上の動きだった。
だが防ぐ手段はある。
壊れかけた右腕でコメカミを庇う。
命は守れた。
だが、これで右腕は使い物ならなくなった。
得たものは激痛、それと一時の保障。
「――ッッッ!」
声にも出せないような痛みが襲う。
だが、まだ足りないようだ。
そういえば鞘はどこに行った?
あれがなければ倒すことも出来ない。
いつの間にか左手から消えていたようだ。
一瞬だけ、敵では無く、鞘を探す。
しかし、見つけた瞬間には、敵は目の前に迫っていた。
突き出されたのは力強い両拳。
諸手突きというやつか。
それを受け、あたしは吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされた体は、壁にぶつかった。
これが窓とかだったら突き破っていただろう。
だが、そのおかげで全身に衝撃が伝わった。
「、あ」
効いた。
今のは効いたぞ。
痛みには慣れているはずなのに、体中が悲鳴を上げている。
この場所にひとりだったら、泣いていただろ。
実際にそれぐらいの痛みだった。
「イタミ‼」
ったくコウの野郎、声がデカいんだよ。
心配すんな。
泣くわけにはいかないな。
仲間が見てんだから!
強いところを見せなきゃならねえから!
探し物は手元にある。
もう鞘では無く、持ち手の無い両刃刀へと変化していた。
吹き飛ばされるタイミングで、握っていたようだ。
「痛ぇじゃねーか! だがこの痛み、生きてるって感じがするぜ!」
条件は満たされた。
反撃開始だ!
9
『鎧』の全身が隆起していく。
そうすると、過去に受けた傷が浮かび上がる。
そして傷が赤く染まる。
さらに能力によって、痛みは引いていく。
いや痛みが感じなくなるといった方が正しいのだろう。
持ち手の無い両刃刀を握りしめ、立ち上がる。
これで準備は整った。
殺すための準備がな!
敵は危険を察知したのか、近付かずに攻撃を開始する。
掌をこちらに向け、黒いレーザーを発射する。
「邪魔だ!」
両刃刀を振り上げ、黒い光を両断する。
黒いレーザーは2つに分かれ壁を貫く。
確かに早いし威力もあるが、狙いは単調。
読みやすい軌道だ。
それは『鎧』の力だけに頼り切りの洗練されていない証拠だ。
続いて第2撃が発射される。
だが、その黒いレーザーも簡単に切り捨てる。
同じ攻撃は2度も通用しない。
ましてや防がれた技だ。
もっと工夫してこい。
「近付いて来ないのかよ? だったら、こっちからいくぜ!」
距離は5mほど、そう遠くは無い。
敵が動かなければの話だが……。
あたしは駆ける。
目の前の敵を切り殺すために。
それを阻止しようと黒い光が放たれる。
だが、それを野生の勘で回避する。
避けられるものは躱し。
防げるものは切り捨てる。
接近戦に切り替えればいいのによ……。
そうすれば、まだ勝機はあったかもしれないのに。
とうとう、敵は距離を取ろうと動き出した。
「あたしに恐れを抱いたな」
だが、そうはさせない。
距離を離される前に接近し、同時に両刃刀を構える。
そして……。
「終わりだぁぁぁ‼」
両刃刀を全力で振るい、目の前の『鎧』を切り裂いた。
渾身の一撃。
敵はそれをもって絶命した。
「じゃあな、ケイ……」
あたしは死にゆく、かつての仲間に別れを告げた。




