第1章 2話 『変化の訪れ』
1
俺は灯さん言われたことを思い返す。
『ここから出て私と一緒に『HCT』の職員になってほしい』
全く予想をしていなかった。
外の世界に出るというところまでは想像できたが、まさか働き口を紹介してくれることになるとは思ってもいなかった。
これを断ると彼女を傷つけそうだ。
彼女は明るい。
それは照明のように明るい。
でも消してしまうと見えなくなってしまう。
彼女の笑顔を絶やさせないようにするには彼女の期待を裏切ってはいけないのだろう。
でも俺はどうなる。
俺の未来はどう変化する。
ここにいればとりあえずは安泰だ。
でも外に出たらどうなるか分からない。
しかも『HCT』だぞ。
人間にも、『忌能者』にも嫌われている組織だ。
当然そこで働けば国からの支援は受けられない。
収入を得ている以上、支援を受ける必要は無いからだ。
それに支援は人間と深く関わらないものに限る。
当然、『HCT』に勤めているとなれば支援は受けられない。
『HCT』にいれば嫌でも人間と関わりをもってしまうだろう。
どうすればいい。
彼女を傷つけずに断る方法。
嫌な考えが頭によぎる。
そればかりで頭がいっぱいだ。
こんな考えばかり思いつくなら、考えなければいい。
そんなことが出来たら苦労はしない。
時折、生きているのが辛いと考えることがある。
俺には生きている理由が無いからだ。
でも死ぬのは嫌だ。
その矛盾した考えかたはいつまでたっても変わらない。
何故、生きているのは辛いと思いながら生きている?
死をこんなにも恐れている?
俺は選択を迫られ、無駄に足掻いている。
俺には関係の無いものだと思っていた。
どうでもいいと思っていたことに悩んでいる。
「じゃあどうすればいいんだよ! 誰かおしえてくれよ!」
俺はいつの間にか大声を出していた。
これは独り言では無い。
ただの叫び。
心の叫びだ。
俺は一体、何なんだ。
なんのために生まれてきた。
俺には何も無いのに。
生きている価値すらも無い。
もしそうなら……
「俺は生まれてくるべきではなかった」
それは自分を否定する言葉だった。
何もかもを呪ってしまいそうな気分だ。
誰かに擦り付けられるならそうしたい。
でも誰もいない。
結局は自己嫌悪に陥るしかないのだ。
今日はもう寝よう。
薬をもらって早く寝る。
それが一番だ。
寝たら何かが変わっているかもしれない。
もしかすると世界がいつの間にか滅んでいるかも。
それか気が付いたら別の世界にいるかも。
異世界転生か……憧れるな。
最近読んだ本のお気に入りだ。
そうなっていたらいいな。
気持ちよくリセットができる。
でも現実は違う。
死んだら終わりだ。
自我や自分というのは何も残らない。
きっと俺はこの世界には向いてない。
他の世界にならという希望はある。
だがそんなことは現実には起こりはしない。
二度目の生なんてものは無い。
でも今回は一つの希望を与えられた。
俺には変わるきっかけが欲しい。
そう願っていた。
それは確かなことだ。
憧れはある。
でも与えられたのは望むきっかけでは無いと思う。
では俺の望むきっかけとは何だろうか?
考えがまとまらない。
答えが出ない考えをずっと繰り返している。
結局どうすればいいんだよ。
薬が効いてきたせいか意識が曖昧になる。
この瞬間だけは気持ちが楽になる。
何にも否定されない。
辛い気持ちが楽な気持ちに変化する。
灯さん……また会いに来てくれるよね。
そんなことを願いながら意識を失った。
2
朝がやって来た。
それは誰にも訪れる。
いや、コウ君のような人は朝を見たことが無いのか。
そう思うと彼にもこれを味わってもらいたい。
鳥達がさえずり、車の音、踏切の音。
様々な音が耳に入る。
それらは不思議と耳障りに感じ無い。
だけど、その音は彼の日常には存在しない。
だから今のままでは体験することが出来ない。
今回はベッドでは無くソファーで目覚めた。
一応、かなり値段の張るベッドなのだが私としては使い勝手はソファーの方が上だ。
本来ならベッドの方が心地良く眠れると思うがベッドには、なかなか辿り着けない。
自分でもダラしないと思っているが一応、週一ぐらいでは使っているから許してほしい。
数少ない友人からもらった大切なベッドだ。
ちゃんと使わないともったいない。
それにこのベッドだけは綺麗に扱っている。
物置場にもしてないし、汚してもいない。
ちゃんとベッドの掃除もしているし、本来ならば部屋の掃除もできるはずなのだが、何故だかやる気が起きない。
さて朝のシャワーだ。
昨日は浴びていなかったから、朝は浴びようと決めていた。
さっさと全裸になり、風呂場へと向かう。
当然、服は脱ぎ散らかしたまま。
蛇口をひねるとお湯が降り注ぐ。
温かいお湯は眠気を緩やかに溶かしていく。
こうすることで寝癖を直す必要も無いし、顔を洗う必要も無い。
実に合理的だ。
ふと風呂場の鏡を見る。
私はほとんど鏡を見る癖が無い。
自分と向き合うのが不快に感じるからだ。
何よりも自分の傷だらけの体を見るのは嫌だった。
これは一般女性の体では無い。
だから鏡は嫌いだ。
気にしているものを否応無しに見せてくる。
普段、ラフな格好でいるときは気にせずに済むのだが、どうやら鏡は違うようだ。
人の本質、本来の自分、それを明らかにするのが鏡だ。
物の癖に生意気だ。
さっさと外してしまいたいのが、残念ながら外れない構造になっている。
いっそのこと叩き割ってやろうと思ったが、友人に止められてしまった。
たまには自分と向き合えということだろうか?
シャワーを済ませ、体を拭き、下着を履き、とりあえずまともなスーツに着替える。
まともなスーツを探すのはいつも大変だ。
そろそろクリーニングに出さないと駄目かな。
他の職員には駄目出しされ、小言を言われてしまいそうだ。
その前にはクリーニングに出しておくか。
朝はプロテインを飲んでとりあえずお腹を満たす。
どうせ数時間後には昼食だ。
あとは職場に向かうだけだ。
黒い腕をケースに詰め込み、玄関に向かう。
「行ってきます」
誰もいない部屋に向かって発する挨拶。
これは一種の願掛けみたいなものだ。
絶対に帰ってくるという思いだ。
さて一日の始まりだ。
3
家を出てすぐさま『HCT』に向かう。
遅刻もしないし、寄り道をする必要もない。
時間に余裕はある。
理由は一番乗りして掃除を行うためだ。
所内が綺麗だとみんなも気持ちよく一日を迎えられるだろうし、仕事もはかどるはずだ。
この考えを少しでも家の方に向ければ、マシになるはずなのに。
掃除が終わると少しずつ人が増えてくる。
「おはよう」「お疲れ様です」と挨拶が飛び交う。
人が周りにいると私の思考は仕事モードに移行する。
書類の整理、外回り、雑用など何でもこなす。
一番大変なことは、外の見回りだ。
これには危険が付きまとう。
そのためにある程度の準備をし、警戒を怠らない。
大抵は『HG』の人たちが対処してくれる。
『HG』とは人の力で人間を守る組織の一つだ。
彼らは『忌能者』に対しては否定的だ。
徹底的に嫌い危険な者はすぐさま|排除を行う。
それが全員というわけではないが私たちとは真逆の組織だ。
別に敵対しているわけでは無い。
むしろそんな組織も必要だと思っている。
だから私もいつも黒い腕を持ち歩いている。
幸い、今日は何事も無かった。
こんな一日が続けばいい。
最近は危険とは向き合っていない。
でもそういう時が一番危険なのだと私は知っている。
4
現在十五時ごろ遅い昼休みだ。
お腹も空いて食べ時だ。
数時間がここまでかかるとは思ってもいなかった。
しかし昼食を食べに出かけようとした先に上司から「例の件はどうなっている?」
と聞かれた。
私は「上手くいっていません」と返答した。
「もし次に説得できなければ、この件は諦めてくれ」
上司の言葉は重かった。
私の上司は良き理解者だ。
私の秘密も知っているし、この件に関しては協力的だ。
でも結局のところ、これは仕事だ。
のんびりしていられない。
なんとかして彼を連れ出さなければ。
彼を施設から連れ出されるのは私だけだから。
結局、昼食もあまり進まなかった。
気が重い。
常に明るく振る舞うのは大変だ。
相談相手が必要だ。
今日は友人と一緒に飲みに行こう。
一人で悩んでいてもしょうがない。
早速友人に連絡を入れる。
『今日飲みにいこう』とメッセージを送る。
するとすぐに『了解』と返信が送られてきた。
いつも言葉足らずだがだが、これで通じる。
『いつもの店で』と送ると既読だけがつく、最近はこれを既読スルーと問題視する者もいるらしいが、彼女はこれで確認したことになっている。
私も別に気にならない。
さて仕事を終わらせて向かいますかね。
5
「相変わらず早いわね」
私の友人は指定した時間よりも早く到着していた。
白衣が目について、一目で分かった。
ビシッと着こなしているが、目にはクマが出来ている。
私と一緒で一部がものすごくだらしない人だ。
そこが良き理解者でもある。
私も決められた時間よりも早く来たつもりだったのだが、彼女には敵わなかった。
「先に待つのは常識だ。危険が無いか確認しなければならないからな」
「大丈夫よ。この時間は見回りも多いし……」
「お前は能天気だな。だから怪我が絶えないんだ。常に気を張っていろ」
言い終わる前に先に言われてしまった。
「そんなことないよ。今は結構、悩んでいるんだから、あと常に気を張っていたら疲れちゃうよ。リラックスも大事だよ」
「確かに……なら今から気を抜く時間だ。さぁ飲みながら相談に乗ろうか」
と言いつつ飲んでいるのは私だけだった。
彼女は私の話を聞き食事をつまむだけ。
悩みを話すと答えはすぐに返ってきた。
「そいつは生きるための目的が無いんだ。ただ生きているだけだ。」
「ただ生きているだけ? それは駄目なことなの?」
「あぁそうだ。そいつには欲がない。無欲なものほど厄介なものは無い。どうせ施設を出ても変わらない生活を送るか、すぐに死ぬだけだ。長続きするわけがない」
少しカチンときたがそのまま聞き続ける。
「じゃあ、お前の生きる目的はなんだ?」
「今を楽しむこと」
すぐに即答できた。
「お前には目的がある。だがそいつには何もない。それは人間だろうと、『忌能者』だろうと、関係は無い」
彼女は『忌能者』に関わる仕事をしている。
私よりも『忌能者』に詳しい。
だからその言葉には説得力があった。
「だったらどうすればいいの?」
「1つは目的を与えることだ。何かないのか? そいつの興味がありそうなものとか」
「それで試してみたけど、駄目だったよ」
「結局はその日暮らしが希望か……」
「で、あと1つは?」
「もう1つは危険な目に合わせる。そうすれば生への執着心に目覚める。それなら生きることが目的でも構わないぞ」
生への執着心。
そこに辿り着くには、死に近付かなければならない。
私は死に近付いたことがある。
あれは恐ろしいものだ。
何もかも消えていってしまう気がする。
そして本当に死ねば消えるのだから。
「流石にそれは出来ないよ!」
私は強く反対する。
そんなことをさせるわけにはいかない。
「そうか、私としても都合が良いのに」
「残念だけどあなたには渡さないよ」
その後はただの雑談で終わった。
悩みは解決したが、問題が増えたという結果になった。
彼女は必ず答えをくれる。
でも同意できない答えも多い。
それでも助けにはなる。
あとは彼しだいだ。
もうそろそろ会いに行こう。
6
もう精一杯悩んだ。
この一週間は辛かった。
悩むことが辛い。
今まではこんなに悩むことがなかったかもしれないからだと思う。
でももう決めた。
以前にも辛いと思うことがいくつかあった。
あるとすれば、読んでいた本が休載してしまったこと、作中の登場人物が死んだこと。
あとは最近になって何故か心が寂しく感じること。
しかしそれらにははすぐに慣れた。
単純にその本の代わり見つければいいだけだ。
心の寂しさの場合は時間が解決してくれる。
ただそれだけだった。
しかしこの辛さは中々消えてくれない。
なんでこんな辛い思いをしなければならない。
誰かと会うと思い出が増え、楽しみも増える。
でも同時に辛い思いをすることもある。
こんな思いをするなら……
いや、それだけは否定してはいけない。
彼女は俺のために尽くしてくれた。
それだけは感謝しなければならない。
でも、もうこれで終わりだ。
彼女とはお別れだ。
俺はここで静かに生きる。
彼女は外で幸せに生きてもらう。
それで十分だ。
多分、罪悪感はお互いに残るだろう。
でも時間が経てば忘れてしまうことだ。
これでいいんだ。
さぁ早くきてくれ。
心の準備は出来ている。
早く終わらせよう。
「久しぶり! 元気にしてた⁉」
彼女の笑顔を見るのは久しぶりだ。
いつみても誰かのための笑顔はまぶしい。
きっと期待をしてくれている。
俺はその期待を裏切る。
最低の行為だ。
「それでどうする? ここにいてもいいし、ここから出てもいい。どっちでもいいよ」
質問はシンプルだった。
でも答えは決まっていた。
「俺はここに残ります」
「そう分かった」
意外とあっさりとした返答だった。
「私はもうコウ君とは会うことができない」
「今までありがとうございました」
「特に何もしてないよ。君に迷惑をかけたと思うし、でもこれだけは言っておくね」
彼女は一呼吸置いて、言葉を発した。
「これからどの道を行くのかはあなたが決めなさい」
「じゃあね」と一言、彼女は帰っていった。
俺はその言葉に揺さぶられた。
そして激しい後悔に襲われた。
一緒についていけば良かった。
ついそんな考えが浮かんだ。
これは時間では解決しなさそうだ。
彼女は最後まで俺のことを考えていてくれた。
本当に優しい人だ。
灯さん……さようなら
7
「はぁ……」
施設からの帰り道、思わずため息が出てしまう。
やっぱり、説得は駄目だったか。
結局は彼が決めたことだ。
それは自由にするべきだ。
アドバイスも役に立たなかったし、仕方の無いことだと思う。
最後の一言で何か変わってくれたらいいけど……
彼が何か見つけてくれるといいな。
『HCT』に到着し、上司に結果を報告する。
別に上司は怒ってもいない、落胆しているわけでもない。
結果だけを聞き、「分かった」と一言。
さて別の問題を片付けるかな。
いつだって問題は山積みだ。
コウ君の件もごく一部でしかない。
だが、心残りはある。
私は彼を救うことができなかった。
立ち直るのに時間がかかりそうだ。
上司から今日は早く帰っていいとお達しを受けたので、さっさと帰ることにする。
さて家に帰って何をしようか?
お酒を飲むにはまだ早いし、昼寝でもしようかな。
最近、忙しくて仕事中にウトウトすることが多い。
久しぶりに昼寝でも満喫しよう。
人生を楽しむには休息も必要だ。
特に嫌なことがあった日には特にね。
だからとりあえず寝て心のリセットを行う。
ということで久しぶりのベッドにダイブ。
ふかふかで心地の良いベッド。
本当なら仕事をしている時間だ。
仕事は好きだがプライベートは別だ。
たまには休む必要がある。
現在、午後一時。
五時には起きたいところだ。
目覚ましをセットしてお昼寝タイム。
さぁ、安らぎの時間へ。
私は眠りへと落ちた。
8
私は夢を見ている。
いつもの夢だ。
今まさに、家族と車に乗り出かける瞬間。
父と母、そして私を乗せて車が動き出す。
しかし辿り着く先はいつも決まっている。
父と母の死。
そして怪物との遭遇だ。
私たちは怪物に襲われた。
全身を黒いモヤで覆われた何かだ。
そう、これは単なる夢では無い。
過去の出来事だ。
あの日から私が見る夢はこれだけだ。
走行中の車を襲い、父と母を殺した怪物はついには私に手をかけた。
もう終わりだと思ったその時、突如現れた黒い腕が私の手を掴んだ。
いや、私が掴んだのだ。
その瞬間に私の人生は変化した。
それが良いことなのか、悪いことなのか私にはどうでも良かった。
結果、見事危機を脱出することができた。
しかし、私に残ったものは黒い腕と心に残ったこの世界を変えたいという気持ち。
失ったものが多すぎる私にはそれに頼るしかなかった。
その後『HCT』に所属し、世界を変えたいと願った。
復讐心なんてものは浮かばなかった。
誰にぶつければいいか分からないからだ。
突如、夢から覚めた。
今は午後七時。
どうやら目覚ましを勝手に止めてしまったらしい。
少し寝すぎたようだ。
体中に汗をかいている。
久しぶりのことだったため油断をしていた。
あの夢は何回見ても慣れる気はしない。
気分転換にベランダに出る。
風は心地よく吹いている。
しかし気分はあまり良くない。
今にも吐いてしまいそうだ。
まさか昼寝でこんな思いをするなんて、思ってもいなかった。
お酒を飲む気分にもなれない。
仕方がないからトレーニングでもするか。
どうせ眠れそうにない。
だったら疲れきるまで走ってやる。
そう思い、軽装に着替えリュックに荷物をつめ外へ飛び出した。
思い切り走ってやる。
そう決め込み体力を気にせず走る。
嫌な記憶から逃げるために走る。
でも結局、到着した先はコウ君のいる施設だった。
やっぱり簡単に見過ごすことは出来なかった。
あきらめきれない。
施設に入るのは簡単だ。
手続きさえすればすぐに入れる。
向かう先はコウ君の部屋。
「さようなら」と言った手前、少し恥ずかしいがそこはどうでもいい。
今は仕事では無い。
ただのプライベートだ。
話をしに来ただけだ。
しかし突如、大きな音が館内に響き渡る。
その音はすぐに爆発だと分かった。
事件か事故か分からないが私の神経は警戒モードに突入する。
頼むからただの事故であってくれと願う。
しかしその願いは届かなかった。
9
銃声が聞こえ、すぐさま身を潜める。
これはまずい。
連絡を試みるも圏外となっている。
間違いない、これは誰かが通信妨害をしている。
そして悲鳴が聞こえ始めた。
耳を塞ぎたくなるような悲鳴だ。
でも怯えているだけでは私は殺される。
ここの者たち全員とともに。
それだけは嫌だ。
何もせずに殺されるようなことがあってたまるか!
まずは敵の視認。
隠れながら敵の数を確認する。
ざっと九人かな。
銃を所持している奴らが八人。
あと大男が一人。
黒い革ジャンを着ている大男、いかにもボスっぽい。
身長が2mはあるだろうか?
武器を装備してないところを見ると、おそらく能力保持者だろう。
おそらく奴らは『忌能者』の回収に躍起になっている連中だ。
生きていようが、死んでいようが構わない。
とりあえずは持ち帰ればいい。
そして気が合うならば、つまり反撃をしてくる『忌能者』だ。
素質のある者をあらゆる手を使って仲間に引き込む。
それが奴らの目的だ。
でもまさか施設を襲うなんて、一体奴らは何を考えている?
取りあえずは武器を奪い抵抗手段を得ないと……
奴らは別れて行動するだろが、一人では行動しないはず。
同時に二人か……だったらやることは決まっている。
「おいあっちで音がしたぞ!」
「逃がすな、追い込め!」
トイレに追い詰められた私はドアの裏に身を潜める。
「おい行くぞ」
否、私がトイレに誘い込んだのだ。
一人が先に行ったのを確認し、そしてドアから出てきて二人目に右肘を顔面に叩き込む。
その後ふらついたところに首根っこを掴みトイレの固い壁に叩き付ける。
どうやら動かなくなってくれたようだ。
そしてもう一人にすぐさま近づく。
異変に気づき、銃を構え始めたがもう遅い。
私は間合いに入り込んだ。
顔面に一発、右前腕を打ち込む。
ひるんだその隙に銃を持った腕を曲げてはいけない方向に持って行き、その腕をへし折った。
この行為は念には念を入れてみたいなものだ。
「――ぁぁぁぁ!」
|悲鳴を上げるが関係ない。
私は悪人には一切容赦はしない。
奪い取って銃を向けるなんて無駄な動作はせずに、そのまま相手の体を振り回しトイレの便器に叩き付ける。
頭からいった。
痛そうだ。
まぁしばらくは動けないはずだ。
これで武器は手に入った。
大きな銃は要らない。
慣れていないので他人を傷つけるかもしれないからね。
拳銃が一丁、ナイフが二本。
あとは手榴弾が一つ。
これで十分だ。
必要最低限でいい。
結局、私の得意分野は素手での戦闘だ。
でもたまには銃も必要になるときもある。
そう上司から教わった。
使い方ぐらいは覚えておけと、まさかここで使うことになるとはね。
リュックから黒い腕を取り出し、手にはめる。
もしもの時はこれがある。
これは私のお守り。
さて作戦開始。
最大の目的はコウ君の救出。
そのために、少しずつ敵の数を減らしていく。
そしてリーダーの大男を倒す。