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ヘイト・ヒーローズ  作者: タマナシ・カユウ
第2章 託される願い
13/37

第2章 4話 『成長を遂げる者』

 1


「これをお願いできますか?」


 私は『鎧』の改造書類を提出していた。


「良いんですかぁ? こんなことしてぇ?」


 とりあえずの心配をしているが、喜んでいるように見える。


「大丈夫です。そろそろ限界が来ていた頃だから……それに私は負けちゃったから……このままでは終われないですから」

「分かりましたぁ。脚部の改造ですねぇ。すぐにでも始めますか?」

「出来るだけ早い方がいいので、すぐにお願いします。」

「じゃあ早速やってしまいましょう‼」


 どうやらテンションが上がってきたようだ。

 科学者は大抵おかしい人が多いと聞くが、その通りだった。


 これで出来ることが増える。

 後は、『鎧』の活動限界まで耐えるだけだ。


 2


 今日もまたトレーニング。

 だが、ココロはまだ来ていない。

 ということでマモリと二人でトレーニングをすることに。


 昨日よりも動ける気がする。

 そしてそれは確信へと変わった。


 マモリと模擬戦闘を開始し、昨日は開始数秒でKOされたが今日はしぶとくも耐え抜いて見せた。

 まぁそれでもマモリの勝ちではあるが、自分自身で成長がしていること気付けるのは嬉しい。

 それにしてもココロは遅いな。


 その後はマモリの能力を見せてもらうことにした。

 ココロを包みこんだ球体の能力。


 能力を見せてくれるよう頼み込むと、素直に見せてくれた。

 マモリは俺に手をかざすと、俺の周りを球体が包み込んでしまう。


 その球体は無色だが、そこにあることは分かる。

 俺を守ってくれているのだと感じることが出来る。

 能力を仲間内でじっくりと見るのはこれが初めてだ。


 こうして見ると不思議なものだ。

 いつもは敵の能力を気にしてばかりなのに、能力を頼りにする日が来るなんて。


 そして体を包む球体を解除し、今度は俺の右手を包み込んだ。

 そしてマモリがジェスチャーで何かを伝える。


 どうやらサンドバッグに打ち込むよう伝えているようだ。

 俺は試しに球体で包み込まれた右手をサンドバッグに打ち込む。

 そうすると、一目で威力が上がっていることが分かった。


 どうやら、これで攻撃を防ぐことも出来、さらには攻撃力を上げることもできるようだ。

 俺の能力と違って便利な能力だ……


 俺が能力の力を見せつけられ、物思いにふけっていると。

 マモリは俺の袖を引っ張り、今度は俺の能力を要求する。


 まぁ別にいいか……


 俺は手を強く握りしめ、血を滲ませる。

 そして、拳に意識を集中し血で包み込む。

 相変わらず能力を使うと体内で痛みが発生する。


 そして血で包み込んだ拳をサンドバックに打ち込む。

 結果はマモリの能力には届かない威力だった。


「はぁー」とため息を漏らす。

 我ながらどうしてこんなに使えない能力を持って生まれてしまったのか。


「使えない能力だろ?」


 俺はついつい皮肉を言ってしまう。

 そう言うとマモリは首を横に振ってくれる。

 その行動は嬉しいけど事実だ。

 俺の能力は誰の役にも立たない。


 敵の能力を受け、そのまま自分の物にする事が出来るなら、その能力は素晴らしい能力だ。

 でも結果は違う。

 敵の能力を受け、その能力を劣化させて使うことが出来る。


 それに痛みを伴ってしまう。

 こんな能力は使いたくない。

 でも使わなければいけないんだ。


 結局、俺の能力は誰かの使い回しでしかない。

 一つの能力を持ってそれを極めることが出来ればいいのに。

 そう考えるとあの血液マニアが羨ましく感じるよ。


 俺はこの先どうすればいい?

 この前の爆弾魔に対しては無力だった。


 誰かの力を使わなければ勝つことどなできない。

 灯さんの時はなんとか1対1で勝つことが出来た。

 それは勝たなければならないという思いから生み出すことできた力だ。


 どうやら時間切れのようだ。

 血の能力が消えてしまい、血がこぼれ落ちていく。

 駄目なとこばかりをマモリに見せてしまう。

 これでも俺は先輩なのかよ!


 俺なんかがマモリを守れるのか……

 出来もしない約束なんてするもんじゃない。

 そうやってマイナスの考えばかりを思い浮かべていると、俺の手を誰かがそっと握ってくれた。

 そこにいるのはマモリしかいない。


「触れると血で汚れるぞ」


 マモリは俺の血で汚れた手を握ってくれている。


「痛くない?」


 小さな声で心配してくれていた。


「大丈夫だよ」


 俺はその問いに答える。

 とりあえず今、出来ることをやっていこう。

 そうやって考えていると『ヌル』出現の警報が鳴り響いた。


「じゃあ行くか⁉」


 マモリは頷く。

 ココロは現在、出動出来ないようだ。

 今回は二人での戦闘だ。


 俺たちのコンビネーションはよく取れていて、アイコンタクトや身振りで十分に理解することが出来た。

 俺たちはココロがいなくても、現場でトレーニングの成果を存分に発揮し、その結果『ヌル』撃退に成功した。


 少しずつ強くなっているのが分かる。

 だがまだ灯さんには届かない。

 早く上を目指さないと……このままでは何も出来ずに終わってしまう。


 3


 帰ってくるとココロが出迎えてくれた。


「おかえり。私がいなくても大丈夫だったみたいね」


 ココロは見た目は元気そうなのだが内心疲れているように見える。

 一体、何があったのだろうか?

 とりあず気付かないふりをしておこう。


「マモリがいてくれたから何とかなったよ。あとは二人のトレーニングのおかげだよ。ありがと」


 マモリが顔を赤らめている。

 マモリも褒められていないようだ。


「あんたが強くなってくれないと私も困るからね。だからこれからも鍛え続けるわよ」

「あぁ二人ともこれからも頼むよ」


 俺は部屋に戻り休息をとる。

 まずはお風呂に浸かって、疲れを取る。

 相変わらずの心地の良さだ。


 仕事を終えてからのお風呂はさらに格別だ。

 施設を出てからどのぐらいたっただろうか?

 もう忘れつつある。


 俺にとってはここが居場所だと認識し始めている。

 実際にそれは間違いでは無い。

 でも忘れられないことがある。

 灯さんのことだ。


 これだけは決して忘れてはならない。

 俺の命を救ってくれた人物。

 自身が強くなっているのは分かる。


 だが、灯りさんの情報は何も出てこない。

 もしかしたらという余計な考えが宿る。

 俺は頭の中でそれを全力で否定する。

 灯さんはどこかにいる。

 そう信じるしかない。


 4


 お風呂から上がると、まだ午後五時。

 まだ夕食までには時間がある。

 今日はココロが作ってくれるようだ。

 楽しみに待っておくのも良いが、夕食の時間まで散歩でもしようという気分になった。


 いざ、外に出ても知らない風景ばかりだ。

 結局、辿り着く先はいつもの公園だった。

 俺はベンチに向かう。

 だが、先客がいたようだ。


「よぉ、久しぶり」


 相変わらずこの人は相手が『忌能者』だろうが、関係ないようだ。

『HG』の若い青年だ。

 いつものスーツを着ている。

 まだ仕事中なのか?


「あ、お久しぶりです」


 とりあえず挨拶を返す。


「ここは落ち着くな」

「そうですね」


 適当に相槌を打つ。

 灯さんのように楽しいわけではないが、不思議と気まずくはならない。


「『DE』の仕事はどうだ?」

「入ったばかりですけど慣れましたよ。『ヌル』を倒すことも出来るようになりましたし、特に困っていることはありません。『HG』の仕事はどうですか?」


 俺には疑問がある。

 いつも『DE』に先を越されて、どうとも思ってもいないのだろうか?


「まぁ『ヌル』に遭遇することはあまり無いが、能力を持っていない『忌能者』との戦闘には良く起こるよ。『ヌル』や危険な鎧主を倒すことだけが仕事ではないからな。まぁ上層部はお怒りのようだが……」

「なんだかすいませんね。協力とか出来ないんですか?」

「今の時代じゃ無理だな。まず上層部は『忌能者』を嫌っている。この前、一緒にいた俺の上司が良い例だな。あれよりもさらにひどいのが上層部だ。『忌能者』はすべて危険な存在だと認識している。俺たちは所詮下っ端だ。とありあえず上に従うしかないんだよ」


 俺たちが『忌能者』が嫌われている理由がよく理解できた。

 そして『忌能者』には敵が多いことが分かった。


「「はぁー」」


 二人してため息をつく。

 だが次の瞬間、周りの空気が変わった。

 正確には青年の雰囲気が変わった。

 青年は立ち上がり、当たりを見渡す。


 そして『ヌル』が目の前に現れた。

 この人は『ヌル』の出現に気付いていた。

 人間であるにもかかわらず。

 この人は本当に人間なのか?


 携帯電話が鳴る。

 恐らく『ヌル』の出現の連絡だろ。


『『ヌル』の出現だ。しかもお前の目の前にいるようじゃないか』

「分かっています。ここは俺一人でやらせてください。応援の必要はありません」

「了解した。危なかったら逃げろ」


 俺は発動キーを唱える。

 だが青年に止められた。


「ここは俺に任せろ。人間の力を見せてやる」


 そういって青年は前に立つ。


 ――『リベレーション』


 5


 俺の『鎧』は敵から奪ったものだ。

 そして、それを改造し自分のものにした。


 正確には『鎧』では無い。

『HG』が忌能者と同じものを使うなんてことは出来ないというどうでもいい理由で単純に英語化され『アーマ』と名付けられた。


『忌能者』は鎧化すると光が出てくる『アーマ』の場合はそうはならない。

 単純に体内から兵器が出てきて、それが体を覆うのだ。

 銀に輝く『アーマ』の名前は『リベンジ』。

 自分の目的から付けた名前だ。


 俺は目の前の『ヌル』をにらみつける。

 こいつらが近くにいると不快に感じる。

 早く消してしまわないと。


 そう考えていると『ヌル』は咆哮をあげながら走り出した。

 ヌルは鋭い爪で引き裂こうとする。

 だが俺はその一つの爪を叩き折った。

 腰に下げている特殊警棒で。


 警棒は便利だ。

 生身でも使える。


 だから、『アーマ』となっても普段と変わらない動きが出来る。

 もちろん、そのまま使っているわけではない。

『ヌル』や『鎧』相手に効くようにこの警棒は作られている。


 爪を叩き折られた『ヌル』は怒りの咆哮をあげる。

 その行動には何の意味も無い。

 俺はそんなことでは(ひる)みもしない。

 あるのは殺意だけだ。


 あの時に決めた。

 俺の家族を殺した奴を皆殺しにする。

 それが俺の生きている理由だ。


 そして『ヌル』が最終的にとった行動は突撃だった。

 それは無謀な突撃。

 爪を折られた怒りに任せた行動。

 もう一度、折ってやろうと思ったがやめた。


 時間の無駄だ。

 警棒を腰にしまい、構えをとる。

 そして『ヌル』の爪が通過した。

 体内では無い。


 俺の脇下を通過したのだ。

 正確には俺が体を逸らし、そうするように仕向けた。

 俺は爪を脇で挟みしっかりと固定する。


「残念だったな」


 次の瞬間には『ヌル』の体勢を崩し地面に落とした。

 ホルスターから銃を取り出し、頭部に引き金を引く。

 そして『ヌル』は黒いモヤと一緒に消え去った。

 やっと不快が消えた。


 俺は安堵する。

 これで安心して休める。


 そういえば『DE』の奴もいたな。

 完全に忘れていた。

 こいつには不快や違和感を覚えることも無い。


 むしろ『HG』の者よりも安心できる。

 相手が『忌能者』だからという理由で危険視や差別を出来ないのはこの力のおかげなのかもしれないな。

 例えそれが事件による副産物であっても。


 6


 目の前にいた青年は『鎧』に似た何かに姿を変え、『ヌル』を消滅させた。

 俺は人間でも『ヌル』を倒すことができる人を知っている。

 日向灯だ。

 彼女は『仮想鎧』の力を借りて『ヌル』を倒した。

 それでも必死に戦い成し遂げたことだ。

 だがこの人は敵に対しての余裕を見せつけた。


 全く無駄のない動き。

 そして容赦無く敵を殺す。

 それがさっき時のギャップに俺は驚きを隠せなかった。

 俺はこの人から殺意を感じとったからだ。


 青年は生身の状態に戻った。


「大丈夫か?」


 俺は無言で頷く。

 俺はこの人に恐怖を感じた。

 この人は何かを隠している。

 いや隠しているのではない。

 深い闇を感じる。


「俺、もう帰りますね」


 と言って俺は『DE』に向けて走り出した。

 とても怖い思いをした。

 あれは人間なのか?


 さっきの殺意は俺に向けられたものではない。

 あれは敵に対して向けたものだ。

 でもその殺意が俺に向く可能性もある。

 そのことだけは肝に銘じておこう。


 俺は『DE』に到着し、冷さんに起こったことを報告をする。


「敵を倒したのは『HG』の者か……まぁ問題は無い。こっちはあそこと争うつもりは無い。揉め事を起こすつもりはないからな。お前は大丈夫か? さっきから怯えているように見えるが……」

「俺は怖かったんです……知り合った人の新しい一面を見てしまって……俺も知り合いに殺されるんじゃないかって……」

「安心しろ。お前が敵にならない限りそうなることは無い。だからお前は目の前のことに集中しろ」


 胸の内に抱えていることを話して、少しは安心した。


「さぁ早く行け。ココロとマモリが待っているぞ」

「はい」

「あとマモリと仲良くしてくれて助かるよ。お前のおかげであいつは自分を取り戻し始めている」


 俺は急いでキッチンに向かう。

 もうココロとマモリは食卓についていた。


「遅いわよ!」

「遅くなって悪い」

「良いわよ。トラブルに巻き込まれたんでしょ。『ヌル』も出現してたみたいだし……それと、おかえり」

 ここは自分の居場所だ。

 そして自分の家だ。


「ただいま」


 初めて言った言葉だ。

 この言葉は自然と出てきた。

 これからもこれを繰り返すのだろう。


 他の誰かにとってはどうでもいいことなのだろう。

 でも俺にとっては幸せだ。

 そうやって今までの無駄な時間を取り返していきたい。

 今はこの日常を楽しもう。


 7


 朝のトレーニングを終え、自室でのんびりと過ごしている。

 この時間は好きだ。

 疲れた体を休めて、リラックスする。

 施設で何もせずにボーっとするよりもずっと有意義だ。

 トレーニングはかなり辛いけどな。

 今日も二人にぶちのめされた。


 しかし、終わりが唐突に訪れた。

 館内に警報が鳴り響き、敵の出現を知らせてくれた。


 俺たちは急ぎ司令室に向かう。

 そして冷さんの指示を受ける。


「今回の作戦を伝える。今回の反応は二つ『忌能者』と『ヌル』だ」

「二つの反応⁉ 『忌能者』の方は爆弾魔ですか?」

「そうだ」


 そろそろ来るころだとは思っていた。


「今回は二手に分かれて行動してもらう。だが問題が一つある。今回の『ヌル』はいつものとは違う」

「いつものとは違う?」

「えぇ。今回の『ヌル』は命を喰らい成長しているの。奴らは何者でもない。だからこそ生者を喰らって何かを得ようとするのよ。で、今回は少し手に余るってことよ」


『ヌル』は何者でもないか……奴らが何かを手に入れた先には何が待っているのだろうか?

 余計なことを考えるな!

 敵に同情しても仕方が無い。


「で今回ココロは『ヌル』を担当し、コウとマモリは爆弾魔を担当しろ」

「俺とマモリが爆弾魔を担当ですか?」

「そうだ。ココロは一度爆弾魔に負けている」

「それに私の手の内は読まれているし、あなたたち二人はまだあいつと戦ってないから手の内を知られていない」

「そうか……大丈夫かな……痛っ」


 悩んでいるとココロのデコピンが飛んで来た。


「あれだけ特訓したんだから大丈夫よ。それよりも自分を信じられないならマモリを信頼しなさい」


 そうだな。

 忘れていたよ。

 心強い仲間がいたことを。


「では至急現場に急行してくれ。ココロはどうする?」


 そうだ車は一台しか無いのだ。


「鎧化して飛んでいけば大丈夫です」


 その方法があったか。

 ココロの場合はその方が早そうだな。


「では健闘を祈る。生きて帰ってこい!」

「「はい」」


 マモリも小さな声で「はい」と返事をする。


 ――『解放』


 ココロは早速、鎧化する。

 足の形が変わっているような気がする。

 気のせいだろうか?


「早速、使ってみたかったのよね。この改造の成果をここで試してみるわ」


 といってクラウチングポーズをとる。

 すると両方の足裏から何かが飛び出した。

 その瞬間、ココロは遥か彼方に飛んでいた。

 そして建物の上を跳び、見えなくなってしまった。


「俺たちも行こうか」


 ココロは一人で戦う。

 俺たちも負けてはいられない。

 今度こそ爆弾魔を倒してみせる。


 そしてみんなで家に帰る。

 それが俺たちのやるべきことだ。


 8


 建物の上を跳び続けているとすぐに現場に到着した。

 そして同時に『ヌル』も発見した。

 いつものと違うのはすぐに分かる。


 一般的な『ヌル』は人間に近い形をしているが、今回は別の者の形をしている。

 例えるなら、より化物に近付いたといったところか……


 今回は成長体ということか。


 黒いモヤというところは共通点だ。


「ターゲット発見と……もう連絡している暇は無さそうね。あっちも襲いかかってくる気満々みたいだから」


 だが、その予想は少し外れた。


 本来なら突撃してくるはずだった。

 だが今回は口から針を射出してきた。

 油断した!


 回避は不可能‼

 ならばそれを蹴って迎撃する。

 右足を思い切り振り上げる。

 それで初撃は何とか防ぐことはできた。


 だが攻撃はまだ続く。

 二本目、三本目と射出されたのが見えた。

 瞬時に足を振り下ろすのを止め、そのままの体勢で二発目を足裏で蹴り防ぐ。

 そして三本目は、下した足では間に合わない。


 そう理解し、空いている左足で軽く跳ねパルクールのようなパフォーマンスで回避する。

 本来ならば全身を使わないと出来ない動きだが、この『鎧』で強化された体なら可能だ。

 観客がいてくれたら拍手が起きるかもしれないが、ここには私と敵しかいない。


 私が向かって良かったな。

 間違いなくあの二人だったら負けていた。

 あの二人は無事かな?

 いや、今は目の前のことに集中だ。


 私は構える。

 目の前の『ヌル』は咆哮も上げない。

 それが無意味だと気付いているのだろう。


 また針の攻撃が始まった。

 だが今度は予測ができている。

 行動が読めれば、避けられない攻撃ではない。


 五本も飛んで来た。

 近付かせないための攻撃だろうか?

 だが近づくことは難しくはない。


 少しずつ近付いている。

 もう少しで間合いに入る。

 近付くたびに回避スピードの要求が上がっているが口先を見れば避けることが出来る。


 今だ!

 私は間合いに入り、敵に蹴りを食らわせる。

 そのはずだった。

 だが敵は口からでは無く、指先から爪を射出してきた。

 その爪は『鎧』に命中し私を軽々と吹き飛ばした。


 まずい……こいつには知恵が宿っている。

 備えとして爪の存在を隠していた。

 それが成長した証か……


 より化物に近付てる癖に知恵なんか持ってしまって……

 まぁ隠しているのは私も一緒だ。


 さて立ち上がって、仕切り直しだ。

 今度はフェイントでも仕掛けるか。

 今回の『ヌル』いつもよりも強い。


 だが頭の中は不思議と冷静でいられた。

 結局は近付かないと決定打にはならない。

 まずは相手の針を潜り抜け、なおかつ爪にも注意する。


 ご丁寧に爪の再生能力まであるとは……

 射出した爪が生え変わっている。

 しかしそれを抜ければ一撃で仕留められる自信が私にはある。


「行くぞ!」


 自身で声を張り上げ、気持ちを高ぶらせる。

 まずは地面を蹴り砕き、それを蹴り飛ばす。

 いくつもの瓦礫が敵に向かって飛んでいく。


 途中、針とぶつかるが針の威力はそれほど高くない。

 そのため瓦礫のほうが打ち勝ち、瓦礫のスピードは止まらない。

 だがその瓦礫は避けられる。


 それは想定済みだ。

 ただの足止めに過ぎない。

 そして私は走り出す。


 今度は大きく横に動きながら接近する。

 多少面倒だが、これで狙いは付けづらくなる。

 隠し玉は最後でいい。


 針は飛んで来るが、当たるはずが無い。

 これだけ動いているのだ。

 狙いは絞ることなど不可能。


 さらにこっちは相手の口元を見ている。

 どこに飛んで来るかもすぐに判別が可能だ。


 そろそろ間合いに入った。

 普段の私だったら高速で突っ込み終わらせるだろう。


 だが今回は()()()で突っ込む。

 両足を地面に付ける。

 まずは足裏に集中し刃を伸ばす。

 そして足の加速装置を発動する。


 これは空気を溜め込み噴き出すだけの装置。

 物凄い勢いでね。

 空気を溜め込むまでに時間はかかるし一瞬だがその威力、速さは自身の脚力を遥かに上回る。


 さらに相手に攻撃の準備を与えない。

 そのまま超高速で突撃し、足裏の刃を腹部に刺した。


「これで終わりよ」


 宣言通り『ヌル』は黒いモヤと一緒に消えていった。

 これでやっとあの二人の心配ができる。

 だがこの距離じゃ間に合わない。

 今はあの二人を信じよう

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