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ヘイト・ヒーローズ  作者: タマナシ・カユウ
第2章 託される願い
10/37

第2章 1話 『守るべきもの』

 

 1


 こうして俺は『DE』のメンバーとして認められた。


「じゃあ私は部屋に戻っておくから案内を冷さんにしてもらいなさい」


 とういうことで組織の案内をしてもうらことになった。


「そういえば正式な名前を聞いてなかった気がします」

「教えていなかったか? だが必要か?」

「もし良かったら教えてくれませんか?」


 これから一緒に働くことになる相手だ。

 知っておく必要があると思う。


「まぁ面倒だが、仕方がないな。私は日陰(ひかげ)(れい)だ」


 そう彼女は淡々と言い切る。

 俺は以前、他者の名前になんて興味は無かった。

 だが俺を助けてくれた灯さんをきっかけに覚えることを意識し始めた。

 そうやって少しずつ外の世界に慣れようと努力している。


 まずは地下に降りる。


「ここはトレーニング場だ。必要な機材は揃っている。あとは勝手にやっておいてくれ」

「指導してくれる方はいないんですか?」

「とりあえず、ココロにでも教えてもらえ。あいつは強いからな。十分に鍛えてくれるだろう」


 やっぱりこの人は適当にしか説明していない。

 本当に人任せだな。

 日陰冷、その人の性格が大部、分かって来たかも。


 次にエントランスに向かい奥のドアを開ける。


「ここは司令室だ。重要な時以外、君たちは来ることはないだろう」

「俺たちにはあまり関係ない場所だということですか?」

「あぁ君たちが来るのは作戦を伝える、もしくは対抗策を練る時だけだ。それ以外は私の仕事場だ。君たちが死なないようにサポートする。それが私の仕事だ。」


 さっきは勘違いしていた。

 この人はただの面倒くさがり屋では無い。

 俺たちを生かすためにサポートをしてくれる。

 それが彼女の仕事だ。

 きっとココロが生き続けられたのは彼女のおかげでもあるのだろう。


「私には戦闘中のサポートしかできない。だが君たちを簡単に見殺しにはしない。だから全力で戦って生きろ」


 この人の決意は固い。

 それでも多くの死を経験してきたはずだ。

 俺はこの人に命を預けることになる。

 その期待に応えて見せる。


「そして最後に案内するのがお前たちの部屋だ」


 俺はこの時はどれほど待ちこがれていただろうか。

 ずっと楽しみにしていた。


「じゃあ鍵を渡す。お前の部屋の番号は101だ。あとは自分で見てこい。

 必要があればこちらから呼び出す」


 俺は部屋を見たくてすぐに駆け出した。


 2


 ついに自分の部屋の前に到着した。

 俺は興奮している。

 自分が落ち着ける場所なのに。

 今までとは違う景色が見られる。

 そしてついに部屋とのご対面だ。

 俺は鍵を差し込む。


 だが差さらない。

 おかしいな?

 よく見ると番号は102となっていた。

 どうやら冷さんの、手違いのようだ。

 まったく雑な人だ。


 俺は102のドアに立ち、ついに部屋とのご対面だ。

 鍵を差しゆっくりとドアノブを回す。

 そしてドアを開けると目に見えたのは物で溢れ返っている部屋だった。

 テレビや本、そして見たことのない機械まで。

 すでに物が設置されているなんて思ってもいなかった。


 それにしても壁に設置されている可愛らしい絵の女の子はなんだろうか?

 それにこのベッドにプリントされている肌の多い女の子はなんだろうか?

 この部屋は物が設置されすぎている。

 余計なものまで。

 まるで誰かが住んでいるかのようだ。

 そして入口近くの方で扉が開く音がした。

 俺は急いでそこに向かう。


 そこで見たものは、タオルで体を拭いている裸のココロの姿であった。

 髪の毛は濡れていて艶のある髪が目立つ。

 そして程よく引き締まった足。

 最後に何故だか胸に目がいってしまった。


 この自身の行動には何らかの意味があるのだろうか?

 そして遺伝子に組み込まれているものだろうか?

 胸には確かな膨らみがあった。

 男とは違う形だ。

 お互いに固まって動かない。

 とにかく何かしなければ。


 先に動いたのはココロだった。

 すると強烈な蹴りが飛んできて、いつの間にかドアの前に飛ばされていた。

 どうせならもう少し見ていたかった。

 しかし避ける暇もなかった。


 まさか彼女の蹴りを俺が受けることになるとは思ってもいなかった。

 俺の目には星がいくつ飛んでいるのが見えたような気がする。


 しばらく目を回していると、彼女が服を着て俺の前に飛んで来た。

 髪の毛がまだ乾ききっていない。

 そしてほのかに甘い香りがする。

 シャンプーの匂いなのだろうか。


「あんたいきなり入ってきて何をしているの⁉ 男って生き物はやっぱり覗きが趣味だったりするわけ⁉」


 言い訳はできない。

 女性の裸は初めて目にしたが、どこか惹かれるものがあった。

 もう一度チャンスがあるなら見てみたい。

 出来ればじっくりと。

 そして触れてみたいかも。


 とりあえず部屋に入ったことは謝罪しよう。


「ごめん。部屋を間違えたんだ」


 俺は頭を下げた。

 出来ることはしておこう。

 かなり怒っているのが分かる。

 最悪、殺されるかも……


「部屋を間違えた⁉ そんな嘘が通じると思っているの⁉」

「本当なんです。冷さんに間違った鍵を渡されたみたいで……」


 人に罪を押し付けるようで悪いが、俺は悪くないはずだ。

 多分。

 沈黙の時間が流れる。

 頼む殺さないでくれ。


「まぁ冷さんならあり得るわね。あの人、仕事以外は適当だもん。部屋に入ったことは許してあげる」


 良かった。

 許してもらえて、これで首の皮一枚繋がった……

 でも、まだ怒っているような気がする。


「でもね。女の裸を見て許してもらえるなんて大間違いよ。簡単に許す女なんて、ちょろインぐらいよ」


 やっぱり、まだ怒っていた。

 それにしても知らない単語が出てきたな。

 チョロイン?


 何それ、この世界の共通言語なのだろうか?

 ともかく、まだ怒っている。

 どうすればいいのだろうか?

 戦いだったら何とかなりそうなんだが、トラブルというものはどうやって対処したら良いのだろうか?


「この仮は必ず埋め合わせしなさいよ!」

「えっと何をすればいいのかな?」


 何かすれば許してくれそうな雰囲気なので、それに乗っかることにした。


「そうねぇ? 新作のゲーム機でも買ってもらおうかしら? それとも課金に使うカードでもいいわね」


 もう言っている単語の大半の意味が分からない。


「で、何か言うことは無いの?」


 こういう時は何を言えば良いのかな?


「ありがとう」


 そうするともう一度、蹴りが飛んで来た。

 今度は観察する余裕があった。

 綺麗な足をしている。

 無駄な肉付きをしていない。

 これが美脚というものか。

 観察をしすぎて避ける暇も無かった。


「死ね、このセクハラ野郎! ここから追い出すわよ!」


 分からないことが多すぎる。

 やっぱりこの世界は残酷だ。

 俺はとうとう意識を失ってしまった。


 3


「おーい生きてる?」


 呼びかけによって意識を取り戻した。

 さっきまで、俺は何をしていたんだっけ?


「さすがにやりすぎたわよ。でも悪いのはあんたなんだから。」


 思い出した。

 俺はこいつに蹴り飛ばされたんだった。


「悪い? 許してくれたから礼を言っただけだろ」

「え? そうだったの。それは悪かったわね」


 ココロも申し訳なさそうな顔をしている。

 責めるつもり無い。

 元々の原因は俺なのだ。


「はぁ……」

「どうした、ため息なんかついて?」

「まさか、あんたに裸を見られるとは……まさにラブコメであり得そうなシチュエーションね。現実で起こるとは思ってもいなかったわ」

「さっきから意味の分からない単語が飛び交っているんだが、それは一般常識なのか?」

「えっと……」


 ココロが言葉を(にご)す。


「大丈夫。知らなくても生きていけるから。なるべくあんたの前では使わないようにするから」

 あまり納得のいく答えではなかったが、とりあえずは知らなくてもいいようだ。


「早く、冷さんから鍵をもらっておいでよ。自分の部屋を早く見たいでしょ?」

「そうだな。でもどうして部屋を見たいって分かったんだ?」

「私もここに来たときに、早く自分の部屋を見たかったからよ。私の唯一、落ち着ける場所。それは自分の部屋だったから」

「ココロはいつからここにいるんだ?」


 ココロが黙る。

 聞いてはいけない質問だったかな?


「3年ぐらい前よ。腕を無くして彷徨っていた時期に冷さんに拾われたの」


 そう言えば彼女の腕は義手だった。

 近くで見てもそれは義手には見えない。

 でも一度、触れてしまえば分かってしまう。

 でもそれを彼女は隠そうともしない。


「そして同時期に『鎧』の力に目覚めた。その時はよく覚えていないわ」


『鎧』の力に目覚めてそれを覚えていないはずが無い。

 あの力は簡単に手に入れられるものでは無い。

 何か壮絶な体験をしていたはずだ。

 その時、ココロは俺の顔を見て何かを察したようだ。


「隠してもしょうがないから言っておくね。私は3年前の記憶が無いの。その時に腕と記憶が消えてしまったと思っているわ。だから私は能力保持者だけど、どんな能力を持っているか分からないわ」


 そんなことを聞かされて、気にせずにはいられない。

 彼女は以前に「気にしないで」と言っていたが、そんなのは無理だ。


「記憶を取り戻したいとは思わないのか?」

「分からないわ。私は今の生活に満足しているから、取り戻したところでどうなるのかも分からないからね」


 それは彼女の選んだ答えだ。

 それについて口出しする理由もこちらには無い。

 もう、この話は終わりだ。

 彼女の中で決着が付いているなら、なおさらだ。


「そろそろ冷さんの、ところに行ってくるよ」


 俺は話を切り上げ、走り出す。

 記憶喪失か……彼女の中でどういう心境なのだろうか?

 俺は昔のことを覚えていないだけだ。

 それは、単純に自我が芽生えていないからだった。

 でも記憶を失うには何らかの原因が必要となる。

 それは俺が考えても仕方が無い。

 決して何も解決しないのだから。


 4


 彼が私の過去を気に掛けるのは分かる。

 だから別に知りたいなら話してあげるし、それに対して不満を見せる必要も無い。

 だができるだけ触れて欲しくないこともある。

 私は気にしないふりをするのが精一杯だ。


 私はこの腕を見ていつも思い出す。

 感覚の無い腕。

 ただの義手。

 取り繕うだけの腕。

 鎧化した時には消えてしまう。

 それが私の今の姿だ。


 本当の腕のことなど忘れてしまったはずだ。

 だが、たまに甦る腕の感覚。

 蘇るのは痛みでは無い。

 失ったはずなのに、まだ存在するという感覚だ。


 戦うこと、命を奪うこと。

 様々なことに慣れてきた。

 だがこの感覚はいまだに慣れない。

 一体、いつになったら完全に消えてくれるのかな。


 5


 エントランスにいるところをつかまえて鍵を受け取る。

 今度は101の番号だった。

 念のため、確認をしておかないと。

 仲間内のトラブルは勘弁だ。


「あぁ悪い。別の鍵を渡してしまったか」


 全く悪びれもしない冷さんであった。


「本当勘弁してくださいよ。とりあえず危険な目に合いましたので」

「で、どうだ。ココロの体は良い体だったろ」

「はい!」


 俺は自信を持って言い切る。


「――……以外な反応だな。赤面するかと思ったが……そうかお前にはまだそういう知識が無いのか」


 何を言っているのかは分からないが、確かにココロの体は見惚れるほどの肉体だった。

 ずっと見ていたい気分だ。


「どうやったらまた見せてもらえますかね? 頼んでもいいと思いますか?」

「頼んだら本当に殺されるぞ。他のもので我慢できないか?」

「それは分からないです。ただ今はココロにしか興味が無いですね」

「勘違いされるから、その台詞は絶対にココロの前では言うなよ。 これは命令だ。上司の命令は?」

「絶対です!」

「よろしい。では初仕事を正式に与える。君には」


 大きなサイレンが館内に響き渡り、言葉を遮られた。


『『ヌル』の出現を確認。鎧主の方々は現場に急行してください』

「またか……この話は後だ。これはいつもの日課だ。続けていくために、こんなことで死ぬなよ」

「はい!」

「ココロを同行させる。協力して敵を排除しろ。あいつといればやられることはないだろう。それにお前の実力はココロからもお墨付をもらっている。施設での戦闘は初めてとは思えないほどであったと聞いているぞ。だから自信を持て」


 俺は褒められることに慣れていない。

 それを聞かされて胸が熱くなるのを感じた。

 熱いが不快ではない。

 それは初めての経験だった。


「さてと、私も仕事をするか。私は司令室へ向かう。お前とココロは現場へ迎え」

「はい!」

「あとこれを着ていけ。これは制服だ。仕事中は常にこれを着ていろ」


 そうやって渡されたのは黒い制服。

 そして服には『DE』という文字が刻まれている。


「それは防弾や防刃といったありとあらゆる機能を付けている。まぁどれも中途半端で死ぬのを防ぐ程度だから過信はするなよ」


 早速、敵との戦闘が始まる。

 施設で何度も経験したが、正式に『DE』に所属してからだと緊張感がまるで違う。

 少し過呼吸になり、心音が早まる。


「心配するな。簡単に死なせはしないさ。生きて帰らせるそれが私の仕事だ」


 その言葉に安心し、俺は現場へ向かう準備を行う。

 制服に袖を通し、しっかりと着込む。

 施設では簡素の服しか着てこなかったから、まともなものは初めてだ。


「では、行ってきます!」


 6


 現在、俺とココロは現場へ向かうため、車内にいる。

 これはトレーラーという車のようだ。

 一見普通のトレーラーだが、車は頑丈に作られており、

 さらには偽装性も高く、周囲の者たちに気付かれにくいよう工夫をこらしてある。


「なぁこれから戦いが始まるんだよな?」

「えぇそうよ。」

「じゃあ何で遊んでいるんだ?」


 ココロは機械をいじっているが、どうにも仕事をしているようにも見えない。


「いつも気張っていたら仕方がないでしょ。まだ戦いは始まっていないわ。だからリラックスをしておくのよ」


 確かにそうだな。

 本でも持って来れば良かったかも。

 まだ本は買ってはいないが……

 施設と一緒にすべて無くなってしまったな。

 また手に入れることはできるかな。

 だが、今は本があったところで緊張のせいで集中ができないだろう。


「ところで何をして遊んでいるんだ?」

「知らないの? ゲームよ。ゲーム」

「げいむ?」


 彼女は俺が知らない言葉を使ってくる。


「こうやって、この機械に入れて遊ぶことが出来るのよ」


 ココロは機械の画面を見せてくれる。

 とても可愛らしい女の子の絵が移っている。

 それに動いている。

 とても興味深い。


「その機械はどうすれば手に入れられる?」

「お金がさえあれば誰でも買えるわよ」


 お金、この世界で物の取引に使われるものらしい。


「この仕事を続けていれば自然と貯まるわよ。まぁその前にさっきの埋め合わせをしてもらうけど」


「ねぇここを押してくれる?」


 ココロが画面の金の枠を指差す。


「押すといってもボタンが無いぞ?」

「そこを触ればいいから」


 とりあえず言われた通りに触れてみる。

 すると映像が切り替わり、様々な絵が現れる。


「えっ虹色!」


 ココロが急に声を上げる。

 次の瞬間。


「やったぁ! これでGET。コウ、あなた運がいいわね」


 ココロは何故だか喜んでいた。


「やっぱり無欲な人に引かせるのが一番かもね。えっ嘘でしょ……」


 ココロは急に黙る。

 さっきから感情の起伏が激しいな。


「コウ、あなたのおかげで私は今、幸福に包まれている。もう埋め合わせは十分にしてくれたわ。これで許してあげる」


 何故だか許されてもらった。

 あの機械で幸せになれるのかやっぱり欲しいな。


 そうやっているといつの間にか緊張は解けていた。


「ココロちゃん、コウくん到着したよ」

「ありがと。黒浜さん」

「じゃあ二人とも、頑張ってね。終わったら迎えに来るから」


 ついに現場に到着した。


 俺たち二人は降ろされる。


「さっきの人とは仲がいいのか?」

「あぁ黒浜さん? もう長い付き合いだからね。」

「あの人は人間だろ?」

「ええそうよ。『DE』の人たちは私のことを嫌ったりする人は少ないわ。でも現実は違うから勘違いしないほうがいいわ。私たちに味方してくれる人間なんて、ごくわずかよ」


 それは俺たちに付けられた首輪が証明してくれている。

 これは発信機の役割を持っている。

 そして飼いならされている『忌能者』の証。


「ココロ以下一名、現場に到着しました」

『了解。では周囲の捜索に当たれ』


 冷さんの、声が聞こえてくる。


「さて仕事を始めるとしますか」


 7


『ヌル』の反応はこの近くから出ている。

 どうやら大まかな位置は分かるが、正確な位置は分からないらしい。

 だから目視で確認をする。

 周辺の避難は完了している。

 あとは見つけるだけだ。


「『ヌル』を発見しました」


 いつ見ても黒いモヤは間違えることは無い。


 間違いない『ヌル』だ。


『了解。そのまま動かず監視を続けろ。そしてココロを待て』

「了解!」


 見つからないように、隠れる。

 この行為はまた戦闘とは別の緊張感を味わう。

 発見されれば、危険を伴う。

 早く来い、ココロ!


「遅くなって悪いわね」


 ようやくココロが到着した。

 1分も経ってはいないが、長い間、待っていた気がする。


「相手は普通のタイプ?」

「他とは違うタイプがあるのか?」

「『ヌル』と化した時に元々の持ち主が能力保持者の場合とかはかなり危険ね。それに『ヌル』は命を喰らい続けると成長を遂げる。それが一番厄介ね。まぁ今回はごく普通のタイプみたいね。」


「じゃあ始めるわよ」


 ――『『解放』』


 ココロに合わせて鎧化を始める。

 お互いの体は光に包まれ、『鎧』へと姿を変える。


『では作戦開始』


 冷さんの合図で戦闘に移行する。


「コウはサポートをお願い。また前みたいに頼むわよ」


 そういって両腕の無い『鎧』で敵まで一直線に走りこむ。

 またできるかな?

 いや考えるな。

 ココロに合わせようとすれば自然にココロが合わせてくれる。


 最初はココロに任せて、必要になれば手を貸す。

 完全な役割分担が出来ている。

 ココロは敵に接近すると、攻撃をあえて誘う。

 敵は咆哮をあげながら黒い爪で攻撃を繰り出す。

 しかしココロはその攻撃を軽く後ろに回避し、そのまま相手の隙を利用し素早く近付き、左蹴りで敵を壁際に吹き飛ばす。


 彼女に心配にする要素など無い。

 その足技に見惚れてしまう。

 もう彼女一人で大丈夫そうだ。


 でも必ず何かを要求してくれるはずだ。

 だから俺も気を抜けない。

 ココロの動きを見て、自身に取り入れる。

 それが素人の俺にできることだ。


 ココロの攻撃はまだ続く。

 壁際まで追い詰めた敵に向かって走りこむ。

 いや、敵では無い。

 壁に向かって走りこんだ。

 そのまま壁を跳躍し一回転すると、敵の後頭部に勢いをつけて蹴りこんだ。

 敵は倒れこむ。


 だがココロは容赦しない。

 そのまま倒れた相手を蹴り上げた。

 そして敵を無理やり立たせる。

 もう敵は為す術も無いことは俺にも分かった。


「コウ!」


 呼びかけに応じて走りこむ。

 ココロは右膝から刃のようなものを出している。

 あんな武器は見たことがないが、やるべきことは分かった。

 俺は敵の顔面めがけ、飛び膝蹴りをお見舞いする。

 と同時にココロも刃の加わった飛び膝蹴りを顔に突き刺す。


 そして『ヌル』は動かなくなり、黒い血を噴き出して消滅する。

 これが本当の『ヌル』のあるべき姿だ。

 灯さんのように生きてはいられない。


「イキぴったりね。二人で決めるとやっぱり気持ちが良いわ」

「褒めてもらえるとうれしいよ。ところでさっきの刃は何だ? 足技だけだと思っていたけど、『鎧』にはあんな機能もあるのか?」

「あれは『鎧』を改造したのよ。」

「改造……?」

「まぁ今は余計なことをするよりも自身を理解し、出来ること、出来ないことを知らないとね。じゃあ帰ったらトレーニングでもしますかね。」

「トレーニングか……」

「実戦の経験はある癖にトレーニングの経験が皆無だからね。生き残るためには必須よ」


 帰ったら体を鍛えるのか。

 ココロの教え方は厳しそうだ。


「ねぇコウ。私たちはこの町を守ったのよ。それってとても素晴らしいことじゃない?」


 そうか俺は人を守ったのか……

 生きていれば誰かを守れる。

 灯さんが言っていたヒーローの意味が少し分かった気がする


 戦闘の余韻に浸っていると、一台の車が立ち入り禁止のテープを無視し、近付いてきた。


「面倒なことになったわね」


 8


 車が止まると三人の人間が降りてきた。


「お前たちか『ヌル』を倒したのは?」


 最初に言葉を発したのは全身を装備で固めている。


 兵士のイメージを連想させ、装備の上からでも鍛えているのが分かるほどだ。


「ええ、そうよ。私たち『DE』が倒したわ。」

「『忌能者』の分際で生意気な‼」

「あんたち『HG』が遅いのが悪いのよ!」


 嫌な予感がする。

 とりあえず止めておこう。


「ココロ。怒りを抑えて……」

「豪田さんも抑えて実際に俺たちが遅かったのは事実ですし」


 相手の方にも止めてくれる人がいて助かった。

 若い青年で、体は小柄だが一切隙が無さそうに見えた。

 そしてスーツをきちっとこなしている。


 灯さんとは真逆だ。

 そして若い青年と目があった。

 その目には何となく親しみやすさを感じてしまった。

 勘違いするな。

 相手は人間だ。

 それも組織同士、仲が良いものでもない。

 余計なことをする必要は無い。


「もう終わったみたいですし、帰りましょうよ。先輩」


 もう一人が呼びかける。

 眼鏡をかけている少女は二人の人間を慕っているようであった。

 若い青年と同じくらいの背丈だろうか?

 まだ組織に染まっていない印象を抱けた。


「そうだな。帰るぞ、二人とも」


 ようやく帰ってくれる気になったみたいだ。

 ここで戦うことになったら大変だ。


「おい『忌能者』あまり調子に乗るなよ。これは人間の仕事だ。邪魔をするな」


 帰り際にそう言い残した。


「本当にムカつく!」

「同感」


 現在、警報が解除され人の数が増え始める。

 みんな俺たちのことを奇異な目で見てくる。

 これが現実か。


「あんな頭の固い奴がいるから世の中、上手く行かないのよ」


 ココロは未だに沸点が下がらない様子。

 さっきから、ずっと文句を言い続けている。

 まさに触らぬ神に祟りなしだな。

 今は『鎧』を解除して、迎えの車を待っている。

 ココロはずっとイライラしている。


「ちょっと気晴らしに買い物に行ってくる」


 まだ怒りが収まってないようだ。


「あんたも来る?」

「じゃあ、行くよ」


 俺は買い物という行為をしたことが無い。

 お金を使って物を交換するとういう行為に興味がある。

 ということでココロについて行くことにした。


 ドアの前に立つと自動でドアが開いた。


「おお……すごい!」

「あんた、何でも驚けるのね。何か欲しいものがあったら買ってあげるわよ」

「いいのか⁉」

「今回、頑張ってくれたご褒美かな」


 ほとんどの功績はココロのおかげなのだが……

 でも、その好意を無下にするのは勿体無い。


 ここはコンビニというものらしい。

 ここでは様々なものが売っているそうだ。

 初めてみるもので溢れている。


「なぁココロ、これは食べ物なのか?」


 俺が施設の時に食べていたものは冷えたお米や生の野菜、後は何かの魚。

 大抵はそれの繰り返しだった。


「こんな食べ物を見たことが無い」

「あんた施設で暮らしていて良くストレスが溜らなかったわね」


 幸せを知らないから、不幸を知らない。

 だからストレスなんてたまるはずも無かった。


「結局、何を買うの?」

「ちょっと待ってくれ。急ぐから」


 とりあえず本を買うか。

 本には外れは無い。

 小説を買うかな。

 これさえあれば暇を潰せる。

 どれにしようかな。

 あ……いい本を見つけた。


「ココロじゃあこれを買ってくれ」

「はいはい……ってなんて物を持ってくるのよ‼」

「駄目なのか?」


 俺が持ってきた本は綺麗な女の子が肌を露出している本だ。

 さらにはおまけも付いているようだ。

 これはお得だ。


「駄目に決まっているでしょう!」


 冷さんから他の物で我慢するようにと言われたので持って来たのだが、ココロは怒ってさらに赤面している。


「返してきなさい。それに私たちはその本を買える年齢じゃないから買うことはできないわ」


 苦言を呈されて、渋々返すことにした。

 結局、買った本は小説にした。

 別にこれでも構わないが、どうせなら綺麗な女の子が肌を出している本が欲しかったな。

 他の人に頼めないかな?


 どうやら迎えの車が到着したようだ。

 俺たちは乗り込み、買ったものをあさる。

 ココロは黒い泡立つ飲み物を飲んでいる。

 とても奇妙だ。


「これ、気になる? もう一本あるから飲む?」

「美味しいのか?」

「ええ、とても美味しいわ。これを飲むとスッキリするから」


 ココロからそれを受け取る。

 そして蓋を開ける。

 そうすると「プシュ」と音がした。

 俺が驚いていると、ココロは笑っていた。


 それを思い切って口に含む。

 そうすると口の中が爆発した。

 だが何とか耐えて飲み込む。

 これは危険な飲み物だな。

 だが癖になる味だった。


 コンビニか今度、行ってみようかな。

 そうやって俺達はさっきまで戦っていたことを忘れ、戦場を後にする。


 9


『DE』に帰って来て結果を報告する。

 そこに『HG』までもが現れたことを伝える。


「あいつらも必死なんだ。こっちは『ヌル』や能力使用時の感知器があるがあっちには無い。それに人間としてのプライドっていうのがあるからな。『忌能者』のことなんて信用してない」


 必死になる理由が分かる気がする。

『HG』は危険な『忌能者』なんかに任せられない。

『HCT』は『忌能者』と人間の関係を取り持つ。

 灯さんが目指した『HCT』の理想は、『HG』の思想を持った連中には理解できないのだろう。


 ただ、あの青年だけは何かが違った。

 人間なのに人間ではないような気がした。

 そして『HG』の思想に染まらないものを感じた。


「とりあえず、お疲れ様だ。あとは自由にするといい。では解散」


 俺とココロは出口に向かった。


「コウは残っておいてくれ」


 そういえば話が途中で中断されたからな。

 冷さんの前に立ち、待機する。


「実は今日、もう一人新入りが来るんだ。君の後輩だ」

「そんな話、聞いていません」

「さっき決まったんだ。では入ってくれ」


 十秒ほど経ったが入って来る気配が無い。


「もう入ってもいいぞ」


 冷さんがさらに促す。

 だが入って来る様子も無い。

 結局、冷さんが直接連れて来た。

 連れて来られた新入りは女の子で、以下にも大人しそうで、背丈は小さく、そして俺やココロと年齢は近いのであろう。


「今日から『DE』のメンバーになった子だ。君が教育し、守ってやってくれ」


 俺にはいきなり後輩が出来て、先輩になってしまった。

 そして守るべきものが出来た。

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