有名
「歴代最強の勇者様、なんですよね?」
「まあね」
「ということはかなり有名なんですよね? 変装とかしないで街を歩いても大丈夫なんですか?」
そう思うなら宿でだらだらさせていて欲しかったな。
まぁ、この国では勇者が二年前に召喚されたことは知っていても、その勇者の顔を知ってる人間はそういないんだけどね。
「この国は、俺が召喚された国から離れてるから大丈夫だよ。アリスも俺が勇者だって見ただけでは気づかなかっただろ?」
「へぇ、そうなんですか。ちなみに勇者様が召喚された国だとどうなんですか?」
「大騒ぎになるね。お祭りの時より道が混むよ。召喚された当時なんて、勇者様召喚セールとかそこらじゅうの店がやってたからね」
うん、あの時の混みぐあいは酷かった。
召喚された当初、俺は異世界の物珍しさに惹かれて街に出たのだ。
するとまぁ、混むわ混むわで酷かった。
俺の通る道全てが満員電車よりも混むし、そのほぼ全てが握手やらサインやら求めてくる。
まだ、召喚されたばっかりでレベルも1でステータスもたいしたことがなかった当時の俺は、まさに死ぬかと思ったね。
「でも、この国ならほぼ誰も俺の顔なんて知らないから大丈夫。知ってるとしたら国王ぐらいじゃないかな」
「国王ぐらいしか顔を知らないというのも逆にスゴいですね……」
と、アリスは呆れた顔で呟いた。