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九十五話 現状

 レンジャー18名、歩兵33名、パイクマン24名、騎兵3名、合計78名。

 コレが現在の俺に許された兵力の全てだった。


「武器は出来るだけ回収した」


 そう報告を上げるワルドの差し出した装備の目録には、ライフル20挺、小銃180挺、他サーベルと弾薬、食料などと記されており、兵力に対しての装備は十分にあると言える。


「何にしても兵力が足りなすぎる。コレでは殿下を助ける処か、攻撃を受ければ明日にでも全滅してしまう」


「序でに言えば、負傷兵が400人以上います。続々と合流する殆どは負傷兵ばかりで戦力には成りません」


 戦傷による疾患の誘発、不衛生な状況による感染症の危険、装備は兎も角としてその他の物資の不足と、兵の訓練不足、雑多な兵科による編制不良、作戦行動を起こす以前に、部隊として最低限の体裁すら整える事が出来ていなかった。


「必要な物事を上げ始めると切りが無いな・・・何か明るい話題は無いのか?」


 ウンザリしてハンスに尋ねてみると、意外な事に、俺の求めた明るい話題が届けられた。


「では、我々に取って喜ばしい情報を一つ・・・イオナ夫人から聞いたのですが、西部と南部の諸侯が中心となって対ロムルス同盟が整いつつあるそうで、また、公国から南部の諸侯に協力の打診があったそうです」


「同盟の概要は?」


「はい、まず中心となったのがチェスター家だそうで、取り潰しになったペイズリー家の家人の受け容れと、騎士団の大部分とオーガスタ公爵のいないローゼン家に2000人から成る領軍を派遣したとの事です」


 ローゼン公爵は殿下と共に騎士団を率いてロムルスに対抗した物の、敗走して現在は行方不明となっている。

 近代的な銃火砲を装備していたロムルス軍に対して、騎士団中心のアレクト殿下の軍は効果的な攻撃を実施できないまま後退、騎士団は散り散りに成って各個撃破を許してしまったと聞く。

 唯一、ロムルス軍に対しても優勢を保って戦った赤いコートを着たアレクト殿下の親衛隊の話も伝わって来ており、それは間違いなくアダムスと元兵団の事だろう。

 話を自分の中で噛み砕いて想像し、俺は更にハンスに訪ねる。



「ライノ中佐の実家か・・・西部の動きはどうだ?」


「西部は未だに前回の戦いの爪痕が残っているため、目立った反抗作戦は計画されてはいない物の、西部諸侯は一貫してアレクト殿下指示の姿勢を取ると・・・ただ、幾つかの新興の家からはロムルスに着くべきとの声も上がっている様ですね」


 西部は二年前の共和国との戦いの主戦場であり、このガラを始めとした国境の領では特に被害が甚大であり、領主一家全滅や世継ぎの戦死などで断絶の憂き目に遭った家も少なくは無い。

 アレクト殿下が外交や国政に力を注いでいる間に、ロムルスは自分の息の掛かった者を空いた領に滑り込ませる等していた様だ。

 アレクト殿下も、戦災に遭った領を回っては慰撫行動を行い、特別に復興予算を議会に承認させるなどした様で、良いようにされた訳では無かったが、つけいる隙を与えてしまったのも事実だった。


「実際、共和国への侵攻のルートも、奇襲を受けた場所も、ロムルスの通ったルートも、全てロムルス派と言える新興家の領でした」


「南部は固く結束し、西部は弱り目にシロアリが入り込むか・・・北部と東部はどんな様子だ?」


 俺が尋ねると、ハンスはバツの悪そうな表情で答える。


「あ~・・・北部なんですが、北部が一番熱烈にロムルスに傾倒しているのですが・・・どうやら、その原因が若様の様なんです」


「どう言う事だ?」


「北部は元々、結び付きが強い土地柄で、その~アレです。二年前に暴れたのが反感を買っているみたいで」


「ああ・・・」


 テベリアの悲劇と呼ばれる様になった二年前のテベリア平定は、ここに来ても俺の脚を引っ張ってくれる。

 俺は苦虫を噛みつぶした様な気分で呟く。


「今度は北部全体を焼き尽くさねばならん様だな・・・」


「・・・」


「お、おう・・・」


 俺の呟きを聞いたハンスとワルドが歯切れの悪い反応をするが、俺は全く気にせずにハンスに聞く。


「で、東部は?」


 俺が自身の故郷でもある東部の様子を尋ねると、ハンスは更に気まずそうに眉間に皺を寄せ、唸りながら答えた。


「・・・ほぼ、ロムルス派・・・と言った所です。それで・・・筆頭がメディシア家になります・・・」


「・・・そうか」


 ハンスの言葉を聞いた俺には、別段、大きな驚きは無かった。

 あの家の人間達ならばロムルス派に着くのも納得出来る物であったし、アレクト殿下の下に付いている俺の事を気にしないのも、何時も通りの事だ。

 実家が敵に回ったからと言って、俺のする事に変わりなど有るはずも無く、俺の前に立ち塞がると言うのならば徹底的に叩きのめし、殿下に対して反旗を翻すならば容赦なく攻め滅ぼしてやるだけだ。

 寧ろ、どんな相手よりも酷く徹底的に攻撃して、全てを更地に戻してやろうとすら思うほどだった。


「心配するな。肉親風情が敵に回った程度で躊躇する様な神経は持ち合わせてなどいない。その時が来たら徹底的に破壊し尽くして見せしめにしてやるつもりだ」


「・・・」


「それよりも、殿下の事だ。足取りは掴めなかったか?」


 俺は殿下の情報は無いかと尋ねるが、ハンスは黙って首を振るだけで、殿下の事は何も分からずじまいだった。


「よし、取り敢えずの指針は決まったな」


 そう言って立ち上がった俺は、まず、ハンスに向いて命じる。


「ハンスは情報の収集と物資の調達を頼む。弾が無くても戦う事は出来るが、飯が無ければ兵は動かん」


「はい」


「ワルドは部隊の教練だ。レンジャーほどとは言わんが、最低限、散兵として使い物になる様に仕上げてくれ。それも、成るべく早く頼む」


「任せろ」


 二人に行動を命じた俺は、三人で行っていた会議を締めくくり、イオナ夫人に会うために、屋敷の中を移動し始めた。

 コレまでの話は全て、ダーマ伯爵家の領主館に用意された客室での事で、イオナ夫人の厚意で俺とハンスは屋敷に滞在する事になり、兵達も近くの宿や空き家等に入り、更には重傷者に屋敷の離れ等も貸し出してくれた。

 夫人は、命と領を助けられた恩返しだと言うが、自身とこの領もそれ程余裕が在るわけでも無いだろうに、そんな状況でも助けてくれると言うのは、とてもありがたい事だ。


「失礼する」


 ノックして夫人の居る執務室の扉を叩くと、直ぐに入室の許可を得る事が出来た。

 扉を開けて部屋に入ると、夫人は一人、黙々と書類に向き合っている。


「お時間はよろしいだろうか」


「・・・はい。大丈夫ですわ」


 手に持っていた書類に何事かを書いたかと思うと、それを置いて俺の方に視線を向けた。


「随分苦労なされて居る様ですね」


「・・・お恥ずかしながら、主人がいた頃は何もしてこなかった物ですから」


 夫人は眉を下げて恥じ入るように言う。


「いえ、こう言った事は普通で在れば家長たる男の役割でしょう。夫人が気になさる様な事でも無ければ、決して恥などでも無いでしょう」


 俺は、そう夫人に返して更に付け加えて言った。


「寧ろ、夫人は良くやっている方です。貴女は経験も無いながらも、良く貴人としての責務を果たし、それでいて母としての義務も果たされている。貴女はとても確りとしています」


「・・・ありがとう御座います。その様に言って頂けるのは、励みになりますわ」


 少し嬉しそうに微笑んだのは、僅かな光の加減に依るものか、それともただの気のせいだったのかは分からない。

 しかし、同じ歳の娘を持つ、二児の母とはとても思えないほど若々しく、それでいて成熟された色香を持つ夫人の微笑みに、俺は思わず赤面して視線を外しそうになるが、その気持ちを堪えて夫人の眼を見据えた。


「今後の行動方針が決まったので伝えに来たのです」


「はい」


「今後、私と部下の兵は反ロムルスの方針を取り、差し当たっては部隊の充足と友軍との合流を目指すつもりです」


「そうですか・・・わたくし達に出来る事は御座いますか?」


 夫人の申し出は非常に有り難い物で、正直心苦しくはあったのだが、俺としても部隊の体裁を整え、戦闘の準備の為にも彼女と領の協力は不可欠だった。

 その為、この領の現状を知っていながらも、言葉に甘えて助力を申し出た。


「では、心苦ししですが、御願いがあります」


「何なりと仰って下さい」


「まず、武器、装備と物資の補充の御願いをしたい」


「具体的にはどの様な?」


 現在、必要な物資は食料を始めとして、弾薬と医薬品、服、靴、背嚢、他、天幕等の野戦装備である。

 俺は、それらを伝えた後で更に無茶ぶりをする。


「・・・それと、武器に関してなのですが、銃の補充の必要があります」


「・・・食料に着きましては今すぐにでも融通は出来ます。医薬品は包帯程度なら何とか、服や靴も何とかなるでしょう・・・ですが、銃と弾薬は難しいかと思いますわ」


「やはりですか」


「申し訳ありません」


「いえ、夫人が気に病む事ではありません。寧ろ、その他の物資の提供をして頂けるのならば、それだけで非常に助かる事です」


「・・・他には何か御座いませんか?」


 更に何か出来ることはと尋ねる夫人に、俺は先程よりも更に伝えづらい事を要請する。


「徴兵、募兵の許可を頂きたい」


 この時の心境を現すのに一番的確な言葉を、俺は分からないが、兎に角気まずく、途轍もなく申し訳ない気持ちで一杯だった。

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