表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/149

七十二話 リベンジ

 街に降りてきて港へと歩みを進める俺は、港に近づくほどに気分が重くなっていく。

 しかし、1人の指揮官としては弱気な所は見せていけないと、成るべく顔に出さない様に務めた。

 そして、砲弾で抉られたボロボロの港に着くと、俺の心配は全てが杞憂であったと思い知らされた。


「来たか旦那!」


「おう!大将のお通りだぁ!!」


 最初に俺を見付けたジョルジュが声を上げ、その次に、威勢の良い若い漁師が港に集まる男達に向かって叫んだ。

 その声に呼応して、皆口々に声を上げた。


「行くのか!大将!」


「大将!準備は出来てるぜ!」


 予想とは違う彼等の様子に面食らって反応に困っていると、後からレッドが声を掛けてきた。


「カイルは心配しすぎなんだよ・・・俺ちゃぁ生きるか死ぬかで生きてきたんだ・・・今更この程度で怖じ気づく様なら漁師は務まんねぇよ」


 そう言って俺の肩をポンと叩くと、レッドは港に集まった漁師達に向かって声を張り上げた。


「おめぇら静かにしろ!!カイル大将の景気付けだ!!」


 その言葉が港に響き渡ると、先程までの喧騒が嘘の様に静まり返って、視線が俺に集中する。

 体格の良い荒海で鍛え上げられた漁師達から見詰められると、その迫力に戦いて後退りそうになる。

 しかし、そこで俺は留まって男達に向かって意気を吐いた。


「ここに兄弟を殺された者は居るか!!」


「兄貴がやられた!!」


「俺は弟をやられたぞ!!」


 最初の一言を叫ぶと直ぐに返事の声が上がった。

 その返事に負けない声で俺は更に叫ぶ。


「ではここに親を殺された者は居るか!!」


「俺がそうだ!!」


「子を殺された者は居るか!!」


「ワシだ!!」


「今ここで俺達が戦いに行けば、残された者達はお前達と同じく家族を失った者となる!!それでもお前達は戦うか!!」


「勿論だ!!」


「俺達が帰ってきた時、敵の家族はお前達と同じ者になる!!それでもお前達は敵を殺すか!!」


「やってやらぁ!!」


「ならば行こう!!お前達の生きてきた海へ行こう!!敵の死に逝く海へ行こう!!生の源で死を造ろう!!」


「おおおおお!!」


「今日!!この海に新たな魚礁が誕生する!!それは奴等が自分で持ってきた武器で、奴等自身が叩きのめされて造られる!!奴等の妄想する栄光の勝利を我らの手で屈辱の敗北に塗り替えてやるのだ!!」


「「「おおおおおおおお!!!」」」


「さあ、船に乗れ!!錨を上げろ!!帆を一杯に張って敵に向かって真っ直ぐ進め!!」


「「「「おおおおおおお!!!!」」」」


 練度は低く、数で負けて、装備で劣り、しかして我らの士気は旺盛にして強靱不屈。

 ただそれだけで、勝利を得るに足りる余所となると俺は知っている。

 恐れを知らない兵士程、恐ろしい者は無いのだから。


「凄ぇな」


 レッドが一言俺に言った。

 そんな、レッドの顔は満面の笑みによって彩られていて、恐れる物は何も無いと言った様子だ。

 そんな、レッドに向かって俺は告げる。


「艦長は任せた。俺は部下と共に戦闘に集中する」


「えあっ!?」


「確りやれよ。俺にあんな無茶降りしたんだから、失敗したら許さないからな」


 驚くレッドに俺が更に言葉を掛けてやると、レッドは表情を一転させてニヤリと笑みを浮かべて言い返してきた。


「お前こそ振り落とされんなよ」


 そして、2人一緒にフリゲートに乗り込んだ。


「リゼ大尉」


 乗艦した俺は、最初にリゼ大尉に声を掛けた。


「はい!」


 大尉は俺に声を掛けられると、直ぐに返事をして挙手の敬礼をする。

 それに対して俺も挙手の敬礼で返礼をした。

 本来は騎士が兜のひさしを上げる動作が変じた挙手敬礼は、この世界にはまだ存在して居らず、俺が移動する前に兵団限定の敬礼方法として採用したのだ。


「大尉、今回は隊の指揮権を俺に委譲してくれ」


 俺が大尉に言うと、大尉は笑顔で答えた。


「貴方の指揮下で戦うなんて久し振りですね」


「もしも俺の求める実力を示せなければ再教育だ」


「精一杯に務めさせて頂きます」


 指揮下に入る事と指揮権を委譲するのでは微妙に違いがある。

 指揮下に入る場合は、俺を頂点にして、その直ぐ下に大尉、更に下に大尉の部隊と言う関係図になる。

 対して、指揮権を俺に委譲する場合は、俺の直ぐ下に部隊が来て、大尉の立場は副隊長もしくは普通の隊員になる。

 大した違いは無いと思えるが、この方が瞬発力が高くなるのだ。


「モケイネス!」


 リゼ大尉から指揮権を譲り受けると今度はモケイネスを呼んだ。

 彼は、俺に呼ばれると直ぐに走って俺の下に来た。


「何でしょうか団長!」


「ああ、海戦は早期の敵の発見が物を言う。それに戦闘に置いては、我々は敵艦の甲板上にいる敵を狙撃するのが主任務となる。どちらも目の良さが重要となる。分かるな?」


「はい!」


「お前は非常に目が良い、戦闘中の射撃に関しては俺の別命無く自己判断で撃って良い。当たると思ったら遠慮無く撃て。良いな?」


「了解!」


 そうして、俺が配下のレンジャーとコミュニケーションを取り、動きを確認していると、レッドが声を掛けてきた。


「カイル」


「何だ?」


「あの大砲は如何するんだ?」


「ジョルジュに任せよう。訓練している時間は無いから敵を見付けるまでに何とか使い方を説明するしか無いな」


 コレが一番の懸念事項だった。

 漁師達は鍛え上げられていて船乗りとしては一級品だが、肝心の大砲の使い方は一切分からないのだ。

 まだ心配な所はあるが、唯一使い方を分かっているジョルジュに任せるしか無かった。


「俺っちを呼んだ?」


 レッドと相談している所にジョルジュがタイミング良く現れた。

 俺は、一度レッドの顔を見た後、意を決してジョルジュに言った。


「ジョルジュ」


「何だ旦那?」


「お前の事を信じて頼みがある。砲の指揮をお前に託す」


「・・・」


 俺が言うと、ジョルジュは面食らった様な表情を見せ、それから言葉を発した。


「・・・良いのか?俺っちは敵国の人間だぜ?」


 ジョルジュがそう言うと、レッドが答えた。


「・・・別に信頼してる訳じゃ無い・・・」


「じゃあ・・・」


「だけど・・・信用はしてる」


「・・・」


「生まれた国は違うし、その国同士は敵同士だけど、同じ船乗りとして信用してやるよ」


 ジョルジュは、レッドの言葉を聞くなり何時も通りの笑みを浮かべて言う。


「船乗りとしてって言われちゃぁ仕方ないかな・・・任せろ。必ず勝ってやる」


 ジョルジュはそう言うと、直ぐに後甲板から降りて、上甲板の下の砲甲板へと降りて行った。


「どうだ?艦長。アイツに任せて大丈夫か?」


 俺が挑む様に質問すると、レッドは自信に満ちた表情で返してきた。


「アイツならやるさ。アイツは良い船乗りだからな」


 そう言った直後、レッドは甲板で作業する男達に向かって声を張った。


「抜錨!!出港だ!!」


「「「おおおおおおおお!!!」」」


 その言葉を合図に錨が上げられて、帆が張られると艦がゆっくりと滑るように進み出した。


「じゃあ、後は頼んだぞ」


 返事をしないレッドに言って、俺はリゼ大尉達レンジャーの下へとむかい、ライフルを持って舷側から水平線に眼を凝らした。


「如何してこうなった・・・ってね」


 不意に思わず俺が呟くと、直ぐ隣に来たリゼ大尉が声を掛けてきた。


「団長のその言葉・・・久し振りに聞きますが、一番団長らしい言葉ですね」


「・・・聞いてたのか」


「兵団の間では、団長の口癖って有名ですよ。団長の口癖が出れば必ず勝てるって」


 そう言われた俺は、頭を抑えて言う。


「如何してそうなった・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ