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六十一話 苦手な船上

これは面白いのか自信が無くなるこの日この頃、次は早く投稿できれば良いなと思います。

「この機を逃すな!」


 俺は、今まで何度もこの言葉を叫んできた。

 しかし、叫んでみて、本当にチャンスだった事は余りにも少なく、どちらかと言えば、その時その時の味方の士気を上げるための方便の様な物だった。

 俺は忘れていたのだ。

 今、この場所に居るのは頼りになる部下達では無いと言う事を。


「敵は無勢だ!落ち着いて対処しろ!ラインを保って相互に援護するんだ!」


 勢いに任せた俺の言葉と、その後に続く此方の攻撃に対して、敵は予想外の強靱さを持って対応してきた。

 奇襲に浮き足立った敵は、一瞬背を見せて逃げるかと思った矢先、一人の若い士官が声を上げた。

 その言葉が敵の内に浸透すると、冷静さと士気を取り戻して俺達の攻撃を受け止めた。

 数においても、装備においても、圧倒されている此方は、冷静に対処されてしまえば、最早打つ手は無いと言える。


「っ!下がるな!背中を見せれば死ぬぞ!」


 簡単に士気を削がれてしまった者は、直ぐさま背を向けて逃げようとする。

 しかし、そうしてしまえば後に待つのは死だけだ。

 何とか一人でも味方を生き残らせ様とする俺の思いとは裏腹に、次々と討ち取られてしまう。


「クソっ!生きている奴は海に飛び込め!この際武器は捨てても構わん!」


 俺に言う事が出来たのはそれが最後だった。

 この直後に、俺は襲い掛かってくる敵に対処するので精一杯になってしまい、味方の事を気に掛ける余裕は無くなっていた。


「っ!つあああ!!」


 一人の兵士が俺に向かって斬り掛かってくる。

 正に遮二無二と言った風な攻撃を、俺は身を捻って躱すと、カウンターにサーベルで胴を薙いだ。

 相手の勢いを利用した居抜き胴は、簡単に相手の命を奪うが、それを最後まで見届ける事を、状況が許さない。


「あああああ!!」


 さっきの一人を皮切りに、二人目、三人目と次々に向かってきた。


「っ!!」


 息する間も無く対処する俺は、一人目の上段からの一撃をサーベルで弾き、二人目の突きをバックステップで躱す。

 一歩身を引いた事で間合いに余裕が出来ると、手首を返してスナップを利かせる様に小さな切り上げを、突きを出して動きを止めた敵の顔に見舞う。

 左の顎から右の額までを切り裂かれた敵は、剣を取り落とし、両手で傷口を押さえると背中から倒れて、のたうち回る。

 それを間近で見たもう一人が脅えたような表情で俺を見るが、それは俺にとってはチャンスでしか無かった。


「フッ!!」


 今度は、息を吐きながら一歩踏み出して首を目掛けて突きを繰り出す。

 その一撃は、寸での所で躱されてしまうが、俺は空かさず体勢を崩した敵に前蹴りを食らわせた。

 尻餅を着く様に倒れた敵に留めを刺そうとするが、それは、新たな敵によって阻止されてしまった。

 俺の前に現れた新手は、中々に戦いになれた奴で、左肘を此方に向ける様に左手を首に巻き付け、やや半身になって右手で剣を構えている。

 腰を落として円を描くように腰を使った一撃を、繰り出してくるが、先程とは違って、弾く事もカウンターを掛ける事も出来ずに避ける事しか出来ない。

 その調子で二度三度と攻撃をしてくるが、四度目の攻撃の寸前、左脇からの切り上げを出そうと下瞬間に、剣の石突きを目掛けてつま先で蹴りを入れると、上手い事剣を叩き落とす事が出来た。


「!!?」


 武器を失った事に、一瞬驚いて動きを止めてしまった所、俺はサーベルを袈裟に振り下ろした。


「グッア!! 」


 しかし、その一撃では仕留めきれず、左の肩にサーベルの刀身がめり込んで抜けなくなってしまった。

 敵は然る者だった。

 サーベルが抜けない事を見るや、自分から間合いを詰めて俺に抱き付くと、俺はそのままはぎ倒されてしまい、更にはマウントまで取られてしまった。


「フンッ!!」


 右手の鉄槌撃ちが振り下ろされると、ガードのために上げていた前腕に当たって骨まで響く衝撃が襲う。

 痛みに顔を顰める俺を知ってか知らずか、そのまま何度も鉄槌撃ちを続けてくる。

 だが、そのままやられている訳にも行かず、反撃に出ようとガードを下げると、奴は留めとばかりに右のストレートの振り下ろしを繰り出してきた。

 それこそが俺の狙いとも知らず。


「ダラッ!!」


「っ!」


 顔面狙いの拳を、顔を逸らして頬を掠めるように避けると、右手で伸び着きった相手の腕を取り、肘の関節を極める様に横に倒してマウントから抜ける。

 そして、左手で腰に差していたナイフを抜いて胸に突き刺し、捻りを加えてから手を放した。


「ぐがあああ!!」


 俺は痛みに悲鳴を上げるソイツを無視して、近くに落ちていたサーベルを拾い、背中に背負っていたトマホークを左手で抜いた。


「おおっ!」


 気合いを入れるために短く声を出すと、手近な一人に襲い掛かった。


「ズッ!?」


 牽制に繰り出すのは手首を使った小振りのサーベルの一撃で、相手がそれを後退るように避けると、今度は踏み込みながら大きく円を描く様に袈裟斬りを繰り出す。

 この一撃は、バランスを崩していた相手が対処できずに綺麗に当たり、首を斜めに切り裂いて血を吹き出しながら倒れた。

 周りを見渡せば、最早味方は居らず、俺は完全に敵に取り囲まれた様態だった。


「・・・」


 無言で周りの敵を睨むと、敵の中から一人の男が現れた。

 ソイツは、さっきの反撃を指揮した若い士官で、金に近い栗色の髪をした二枚目だった。


「降服してくれないか?もう勝ち目は無いはずだ」


 現状で俺が取れる手段は何も無かった。

 喉が渇き、身体が重く、目の前で無防備に立つ士官すらも殺せそうには無く、両手から力を抜けば直ぐに楽になれると言う誘惑が頭に浮かんだ。

 恐らく、身分を証せば捕虜として過不足無い扱いを受け、暫くの間の虜囚生活の後に釈放されるだろう。

 その後は国に帰り実家に帰って、そこから廃嫡されて穀潰しになるだろうが、それが途轍もなく魅力的に思えて仕方が無い。


「・・・」


 少なくとも、今この場で死ぬよりは遥かにマシな判断の筈なのだ。

 その筈なのに、俺の手からは力が抜けず、口を吐いた言葉はあり得ない言葉だった。


「まだだ」


「何?」


 何を言っているのかと聞き返す相手に、俺は堂々と言い放つ。


「まだだ、戦いは今始まったばかりだ!」


 身体は疲れ果て、味方は一人も居らず、それで敵にぐるりと囲まれて、それでも尚、俺は降服はせずに挑発的に言葉を投げ掛けた。


「・・・それが最後の言葉で良いのか」


 憐れで愚かな人間以外の何かを見るような眼をする士官に、俺は更に言葉を放った。


「最後?馬鹿を言うな。俺はまだ生きているぞ?まさか、もう勝った気で居るのか?おめでたい奴だ・・・」


「何だと?」


「獲物の前で舌舐めずりは三流のやる事だ・・・そう言った男がいる」


 最早話す事は無い。

 そう言わんばかりに士官は溜息をついて、周りの兵に命じた。


「殺せ」


 その瞬間だった。

 俺は珍しく、神様に感謝した。

 何故ならば、俺の耳に聞こえてきたのだ。

 夜の海に波を切り裂いて進む船の音を、俺を罵りながら声を上げる馬鹿の声を聞いたのだ。


「カイル!!良くも置いて行きやがったな!!」


「っ!新手だ!戦闘用意!」


 士官の意識が俺から離れ、突然の事に敵の中に動揺が走った。


「フッ!!」


 その瞬間、俺の身体に活力が戻って来た。

 士官は今、俺に背を向けている。

 俺は、その背中目掛けて鋭く二歩踏みだし、サーベルを振り上げた。


「っ!」


 奴が気が付いた時には手遅れだった。

 咄嗟に剣を抜いて俺の一撃目を受ける事が出来たのは賞賛に値する事だったが、それだけだ。

 俺の左手には未だにトマホークが握られているのだから。


「っ!ぐがあっ!!」


 下から振り上げられたトマホークは、士官の右腋に斜め下から突き刺さり、骨を砕いて肺を潰した。


「ゴハッ!!」


 その証拠に、士官は肺に入っていた全ての空気を、血反吐と共に吐き出して、床に崩れ落ち、ビクビクと痙攣して動かくなる。

 その光景は、とても鮮烈で、さっきまで自分達を指揮していた人物が死んでしまうのを目の当たりにした者達は、強い恐怖を抱いてしまった。


「ううっ・・・」


 恐怖はジワリジワリと伝染し、明らかに有利である筈にも関わらず、俺から逃げようと後退る。

 そして、最後の一押し、俺は右手に持ったサーベルを振り上げて叫んだ。


「レェェェッド!!」


「おおおおおおお!!」


 瞬間、船を強い衝撃が揺さ振った。

 レッドの乗ってきた船がどんな船かは良く分からなかったが、数人で動かす小舟と言う事は無く、レッドを先頭に十数人が乗り込んできた。


「カイル!後で落とし前は付けて貰うからな!俺はあんなのは望んでねぇぞ!!」


 俺に向かって不満の声を上げながら、レッドは逃げ腰になっていた一人に銛で襲い掛かり、顔面に突き刺した。

 最早、流れは完全に此方側にあり、指揮をする者が居ない敵は戦いに精細さを欠いている。

 しかし、尚も敵の方が数で勝る以上、油断は出来ない。

 勢いで押してはいても、結局の所、決定打に欠けていたのだ。


「押し返せ!!」


 その証拠に、敵の方で、ある程度経験のある者などが声を上げて士気を盛り返すと、息を吹き返した様に反撃に移ろうとしている。

 何とか敵の勢いが増すのを阻止しようと、サーベルを足下に刺し、拳銃を抜いて狙いを付けるが、敵の兵士が邪魔になって的確な狙撃が出来ない。


「クッソ!」


 悪態をついた俺は、ホルスターに拳銃を戻すとサーベルを足下から抜いた。


「全員撤退!船に戻れ!」


 この段階にあって、これ以上の戦闘は無意味と判断し、味方に撤退を命じた。


「ああ!?」


 たった今、来たばかりで血気に流行ったレッドなどは、あからさまに不満げな声を上げるが、俺はそんな声を無視して撤退を進めた。

 流石に無鉄砲な連中も敵の中に置いて行かれるのはイヤだったのか、渋々命令に従って後退する。

 敵の方は士官数名を含んだ損害に怯み、更なる出血を避けて積極的な反撃には出ず、船に戻る俺達に対しては、ほぼ見送る様な格好になった。


「船長は誰だ!」


 レッドの乗ってきた船は、それなりに大きなガレー船で、船内には数多くの漕ぎ手が乗っていた。

 そんな船の責任者は誰かと声を上げると、一人の男が名乗り出た。


「俺だ!何の用だ!」


 荒々しい漁師風の男は、怒鳴り付けるように聞き返してくるが、俺はそんな事に構わず言葉を投げ掛ける。


「全員が乗ったら直ぐに逃げる!出来る限りのスピードで蛇行しながら街へ戻れ!敵の砲撃を受ければ一発でやられるぞ!」


「分かってる!言われなくてもそうしてやるよ!!」


 そうこうしている内に、最後まで残っていたレッドが船に飛び乗ると、船長が声を張り上げて号令を出した。


「野郎共!尻を捲って逃げるぞ!クソ力出せ!」


 そうして、一瞬船が離れると、一気に速度を増して距離を取る。

 散発的な砲撃が時折近くの海に飛び込むが、幸運な事に、乗っている船には被害は無く、俺は何とか生きて逃げ切る事が出来た。


「ふう・・・」


 生き残る事が出来た安堵感から、小さく息を着くと、そんな俺にレッドが話し掛けてきた。


「カイル!テメェ良くも!!」


「黙れ・・・今は疲れててお前の相手をしている余裕は無いんだ・・・」


 行きも絶え絶えな現状で、レッドの相手をする気力など無く、適当に言い放つと深い闇の中へと意識が落ちて行き、意識を失う間際に次の事を思い浮かべながら眠りに着いた。

今回もお付き合い頂きありがとう御座いました。

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