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五十二話 堕落したブタ

今回は短いです。

普段も長くは有りませんが

 拝啓、アルフレッドへ、お前とお前の周りは息災で過ごしているだろうか、私はこの地に来て以降、日がな一日をノンビリと過ごす事が出来ている。

 一年半前までと比べて遥かにゆっくりと時間の過ぎるのが感じられる今は、私に取っては実に良い日々であり、己と気と体が弛んで行く様が良く感じられる。

 やはり、人という物は日々を忙しく剣呑に過ごすよりも、ゆとりを持って自堕落に過ごすことを至福とするのだ。

 王国に比べて遥かに温暖なこの地は海の幸が豊富で、それに加えて海外の珍味の多くを味わうことが出来て、私は大変に満足している。

 お前もいずれ旅行をする事があるのならばこの地、アンゲイル公国を訪れるのを薦めよう。

 それでは息災に過ごせ。

 兄、カイルより。


「・・・」


 弟へと向けた手紙を書き終えた俺は、ペンを置いて琥珀色の液体が注がれたグラスを手に取り、その中身を煽った。

 口に入った瞬間にピリッとした辛味が舌を刺激し、その後にほのかな甘みが口いっぱいに広がる。

 そして、口の中の液体を呑み込んで深くゆっくり鼻息を吐くと、独特の香りと風味を楽しむことが出来る。


「はああああ・・・」


 極上の快感を感じた俺は目尻が垂れ下がるのを感じながら瞼を閉じて、上を向いた。

 声を出しながら息を吐くと全身の力が抜けるのが感じられて、何もかもがどうでも良いと言う思考に全てが支配された。


「自分で言うのも何だが・・・堕落したな・・・くっくっ」


 全く反省している様子無く口を吐いた呟きに、何故だか笑いがこみ上げてきて、俺は喉を鳴らして笑った。


「何をしていらっしゃるのですか?」


 そんな俺に声を掛けてきたのは、幾分背が伸びて顔立ちに精悍さが現れ始めたナジームだった。


「また昼間から酒など吞んで・・・随分と良いご身分ですね」


 そう毒突くナジームに対して俺は笑い名が等答えた。


「おう、何てったって貴族で大佐殿だからな・・・」


「ええ、そうですね。まあ、今の貴方には一人の兵も居ないですし、完全に左遷されて階級も御飾りですがね」


 酔っ払った俺の言葉にナジームが痛い事を言い返してくる。

 しかし、俺は全く堪えない。

 何故ならば、そんな事はここに来て一月で吹っ切れてしまっているからだ。

 そんな、俺の様子にナジームが言葉を掛ける。


「全く・・・少しはご自身の現状に不満は無いのですか?名誉も誇りも奪われて、取り返そうと言う気概は無いのですか?」


「無いな」


 ナジームが発破を掛けてくるが、俺は全く意に返さずに、グラスの中の酒を煽る。


「ダメだコレは・・・」


 その飲んだくれた俺の様子に諦めた様に呟いたナジームは部屋から出て行った。

 そんなナジームの後ろ姿を横目に見ながら、俺は少しだけ昔の事を思い出した。

 テベリアの戦いの後、街に着いてしまった火を消し止め死体を集めて焼いて、事後の処分を行っていた俺達の下に、騎士団がやって来た。

 話によると囮として走らせた馬車はそのまま逃げ切る事が出来たらしく、別の領の領主に保護され、その報告を受けた中央が騎士団を派遣してきたのだ。

 俺は、到着した騎士団に報告と引き継ぎを行い、再びエスペリア皇女の護衛の任に戻って、彼女と兵団を連れて王都へと入ったのだが、そこで俺を待ち受けていたのは罵声の嵐だった。

 一体何故こんな目に遭わねばならないのかと思っていると、アレクト殿下から次の事が伝えられた。

 曰く、俺がテベリアの領都で行った虐殺が尾鰭胸鰭を着けて広く伝わった挙げ句、俺の噂について有ること無いことが王都中で話題になっているのだと言う。

 噂の内容としては、俺は冷酷無比で邪知暴虐の限りを尽くす悪党で、行く先々で街を焼き女子供を陵辱した挙げ句、口に出すのも憚られる方法で殺し、その様子を楽しみながら人肉を食らう。

 兵団の兵士達は全員が俺に逆らえない様に魔法を掛けられた奴隷で、死ぬまで扱き使われながら、しばしば娯楽のために拷問され、最後には精神を崩壊させられるのだと言われている。

 テベリアでは高笑いしながら街が焼けて行く様子を楽しみ、男共を皆殺しにした後に女子供を嬲り殺しにしていたと言われている。

 確かに敵を皆殺しにして、テベリアでは降服の意識を示した女子供を撃ち殺すように命じたのも事実だが、テベリアの場合は反逆を起こしていたし、高笑いしていたつもりも無かった。

 兎に角、国としては真実を伝えて噂を払拭仕様としているのだが、どうにもならず、王家の力を削ぎたいと考えっている一部の貴族が穿り出してきたアダムスの件を持ち出してきて追求をしてきた。

 更に軍及び騎士団内での俺に対する嫉妬と、最近問題になり始めてきたアレクト殿下と第三王子の継承権争いによる俺を攻撃する動きまで合わさった結果、兵団は解体し俺は隣国へ左遷される事になった。

 大佐の階級はコレまでの功績からそのまま残す事になり、表向きには南の沿岸に在るアンゲイル公国の駐在武官として派遣されるとされているが、公国自体は元々アウレリアの一部だった上に殆ど傀儡政権で大使館は名前だけ存在する物であり、仕事は何も無かった。

 文官としても武官としても何か功績を挙げるような事は何も起こらない平和な国で、特に動向を見張る必要も無ければ外交交渉をする必要も無い完全な飼い殺しである。

 で、余りにもやる事が無くて暇だった俺は、酒食に楽しみを見いだした。

 幸い軍人としての恩給と駐在武官としての給与が二重に支払われているし、物価が王国の半分程度の国のために悠々自適の暮らしぶりをしている。

 一年半で腹は膨れて顎に脂肪が付き、体は随分とだらしない体形になってしまった。


「もう、戦いとか嫌だな・・・」


 精神もかなり緩んでしまって、今更戦争なんか出来る筈も無かった。

 そして、俺は酒瓶を持ち上げると、グラスを使わずに直に口をつけて琥珀色の酒を煽って飲み干すと、そのまま眠りに着いた。

ここから2章始まりと言うかんじです。

お目汚しにお付き合いいただければ幸いです。

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