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五十一話 テベリアの悲劇

転生してる主人公はともかく、エストとか年齢を忘れそうになります。

序でに主人公の転生設定も忘れそうになります。


ちょこちょこ修正しました。


「作戦開始。各隊は前進して敵を駆逐しろ」


 明け方、兵団の赤服が曙光に照らし出される頃、俺の命令が下されて攻撃が開始された。

 兵団各隊は昨夜の内に俺の出した情報と作戦案に従い、日の出と角笛の音と共に行動を開始した。

 攻撃は南北に展開していた歩兵部隊の攻撃から始まる。

 門の付近まで接近した歩兵部隊は数回の斉射を行い、二分割した戦闘工兵を支援して領都の門を破壊する。

 この間に予想される敵の反撃を、射撃によって封じ込めつつ、同時に東側からライフル中隊が攻撃を行う。

 領都を西側以外の三方から攻撃して、徐々に東側に敵を追い込む作戦だった。


「報告です。第二大隊は南門を奪取に成功。付近の掃討を開始しました」


 俺は第一大隊と共に前進したが、大隊の指揮はエストに任せ、伝令からの報告を聞きながら指示を飛ばした。


「了解した。ハンスには撃ち漏らしが無いように確実に進めと伝えろ」


「了解!」


 伝令の兵士に命令を伝えると、彼は元気よく返事をして走り去っていった。


「エスト!南門が破れたぞ!コッチはまだか!」


 俺がそう聞くとエストは、簡潔に答えた。


「敵の反撃が激しい!もう少し掛かりそうだ!!」


「どれくらいだ!!」


「オーガよりはマシさ!」


 そう言ったきっりエストは戦闘に戻る。

 北門では建物の上から石が飛んできて、時折熱湯等も降り注いだ。

 幸いな事に此方の攻撃が強力で為、目眩に投げる物だから、当たりはしないのだが工兵が近づくことが出来ず、敵を黙らせようにも遮蔽物に隠れているせいで思った様に行かなかった。


「ダズル!」


「おおっ!!」


 俺がダズル中尉を呼ぶと彼は直ぐに反応して俺の下へと走ってきた。


「中尉!ドワーフを集めてラムを作れ!あの門を破るんだ!」


「おうさ!!」


 返事を返したダズル中尉は、五人のドワーフを引き連れて林の方へと走った。

 しかし、如何せん脚の短いドワーフでは距離があり、時間が掛かる。

 俺は、そんなダスル中尉達の作業をより早く済ませるために、伝令の黒人を近くに寄せた。


「伝令!今すぐに本部に行って輜重隊のエド中尉にダスル中尉の手伝いをするように伝えろ!急げ!」


「了解!!」


 伝令の黒人兵は、まるで矢の様に本部のある俺達の背後に走った。

 物の十数秒ほどで到着した伝令によって、エド中尉は直ぐに動き出し、手空きの兵士を引き連れて荷車を牽いて林に向かい、伐採を始めた。

 寡黙で身体の大きなエド中尉は大斧を振るって気を倒し、ソレを荷車に乗せる。

 漸くダズル中尉が着いた頃には荷車の上には三本ほどの伐採された木が乗せられて枝も払われていた。

 エド中尉は、到着したばかりのダズル中尉達を荷車に乗せて、此方に凄い勢いで走ってきた。


「団長!来たぞ!」


 息も上がらせずに到着を知らせたエド中尉に、俺は礼を言ってから指示を出す。


「良くやってくれた!ダズル中尉!やれ!!」


 ダズル中尉と五人のドワーフが急拵えのラムに取り付くと、力一杯押して門に叩きつける。

 ミシミシと言う木製の門の軋む音が聞こえ、明らかに目に見える程の亀裂が入り、期待感が高まった。


「門が破られるぞ!阻止しろ!」


 門の内側から危機感を募らせた叫び声が上がり、ラムを操作するダズル中尉達に攻撃が集中した。


「ダズル中尉を援護するんだ!」


 エストが声を張ってダズル中尉を援護するように命じると、近くに居た中隊が門の上や近くの建物の屋根に向かって斉射を浴びせ、支援を行う。

 その間に、ダズル中尉達がラムを十分に門から遠ざけて助走距離を稼ぎ、再びラムを押して走り出した。


「熱湯を掛けろ!!」


 ラムが門に近づいた瞬間に、門の上から熱湯が降り注いでラムを操作していたダズル中尉達が湯気の中に消えた。


「ダズル!!」


「中尉!」


 俺とエストが心配して叫ぶと、湯気の中から、ラムを引き摺ったダズル中尉達が出て来た。


「大丈夫かい?中尉」


 心配そうにエストが訪ねると、ダズル中尉は豪快に笑いながら答える。


「なあに心配いらん!ワシ等には温いくらいだ!!」


 事実、ドワーフ達には火傷をした様子は無く、至って平然としてラムを動かしている。


「そんな事よりも、あと一回突っ込めば破れるぞい!準備は良いか!」


 ダズル中尉のその言葉を聞いたエストは、一瞬唖然とした表情を直ぐに引き締めて答える。


「分かった。君たちに続いて突入しよう。思いっきりやってくれたまえ」


「おうさ!!」


 南側は既に突破している。

 ここで北側まで破られれば、殆ど素人集団の敵は大きく士気を挫かれて戦意を失うだろう。

 士気を失い潰走する軍隊と言うのは誰の言うことにも耳を貸さず、自分の状況も見えないまま集団心理に流されるだけの群衆と化してしまう。

 そうなったが最後、いかな名将英雄だ在ろうとも、コレを押し止めて戦線を立て直すことは不可能に等しい。

 そして、今、その最後の一撃が下された。


「突っ込め!」


 蝶番が爆ぜ、閂が砕け散り、轟音と土煙と共に門が崩れ落ち、その向こう側に敵の姿が現れた。

 驚愕の余りに動きを止めて唖然とした表情をしていたのが、徐々に恐怖に染まって行く様子が何とも滑稽であり、また敵を前にして動きを止めてしまう事が間抜けだと言うほか無い。


「突撃!」


 エストの発した号令一下、丁度門の正面にいた第三中隊を先頭に第一大隊各中隊が北門に殺到し、逃げ惑う群衆に向かって第三中隊の斉射が襲い掛かった。


「エスト!余り急いで進むな!慎重に行動しろ!」


 口うるさく俺がエストに注意すると、エストは俺の方を振り向いて、笑みを浮かべて答えた。


「分かっているよ団長!」


 その様子を見て、俺は今のエストならば任せて大丈夫だろうと胸を撫で下ろして、後は二にも言わなかった。


「兄さん」


 不意にアルフレッドが話しかけてきた。

 アルフレッドは国境の街での戦いの後、暫く街の近くに残ると言っていたので置いてきていたのだが、今になって追い付いてきたらしい。


「来たのか」


「はい」


 俺が振り向かずに前を見たまま言うと、アルフレッドは俺の隣まで歩いてきて短く答えた。

 俺の隣に立ち、門の奥柄と移る戦闘の様子を見ながらアルフレッドが訪ねてきた。


「コレから如何するのですか?伯爵の仇を討つのですか?」


 その問い掛けに対して、俺は視線を一切動かさないまま答える。


「それは勿論の事だ。お前の言う通りに伯爵を殺したのがメイドで無いのなら、犯人は別にいる事になる。それは必ず見つけ出して思い知らせてやらなければならない」


 アルフレッドは俺の答えを聞くと、直ぐに次の質問をしてきた。


「街の人達はどうなるのですか?」


 今度は俺の横顔を見ながら訴えかけるように訪ねてきた。

 それに対する俺の答えは、やはり決まり切っていた。


「あそこにいる者達だけは何が何でも殺す。例え便所の中に隠れていようとも、必ず見つけ出して最後の一人まで捻り潰してやる。俺と俺の部下にしたように容赦なく」


 強い決意と共に俺が答えると、アルフレッドが身体を俺の方に向けて、頭を下げて言った。


「御願いします。どうか彼等にお情けを下さい!」


「・・・」


 俺はアルフレッドの懇願に何も答えずに領都の方を見続けた。

 そんな俺に、アルフレッドは尚もすがる様に声を掛けた。


「御願いします!せめて・・・せめて女性や子供だけでも助けてあげて下さい!御願いします!!」


 アルフレッドが頭を下げ続ける中、戦いに動きがあった。

 俺の狙い通りに西側の障害が破壊されて、住民が西側から領都の外へと出て来たのだ。


「・・・!兄さん!」


 縋り付くアルフレッドを無視して、俺は合図を出した。

 その合図から一拍置いて、角笛の音が響き渡ると、アダムスを先頭に騎兵大隊が姿を現して、逃げ惑う敵を蹂躙していった。

 運良く騎兵の間を潜り抜けられた者、騎兵に見逃された者、そう言った者達は安堵したのもつかの間に、シモン達の矢に射抜かれて屍を晒した。

 そして、周辺にけたたましい悲鳴と怒号が響き渡って、反逆者達が血溜まりに沈む。

 突然現れた騎兵に、一度領都の外に逃げ出した者達は再び領都の中へと逃げ込み、狭い街の中を逃げ惑った。


「・・・」


「兄さん!待って下さい!」


 俺は無言で領都に向けて歩き出し、その後をアルフレッドが着いてきた。

 破壊された門を潜り、大通りを真っ直ぐに進んだ。

 領都の市街地では既に両歩兵大隊が合流を果たしており、侵入してきたライフル中隊と合わせて、市街地の掃討に入っていた。

 通りにはとどめを刺されて動かなくなった住民が転がり、少し離れた所から銃声と悲鳴が木霊する。

 何処かで火が着いてしまったのか黒煙が上がり、人の焼ける独特の悪臭が漂った。


「・・・酷い」


 俺の後を歩くアルフレッドが呟いた。

 既に見慣れてしまった光景も、見た事の無い者からすると、そんな感想が浮かぶようだ。

 何度も見た俺からすると味方の優勢を感じ取れる一つの指標でしか無く、それ以外には特に感想は浮かばなかった。


「眼を背けたくなるか?」


「・・・はい。正直言って」


「その内慣れる。そして、最初そんな事を思った何て事も忘れる」


 俺がアルフレッドに言うと、弟から言葉が返ってきた。


「例え・・・例え、そうなるとしても、僕はそんな風には思いたくありません・・・誰が何と言おうと命は尊いのですから」


 そのアルフレッドの言葉に俺も言葉を返した。


「それで良い・・・そう思う事は大事だ」


「兄さん・・・」


 俺は背後のアルフレッドに顔だけ振り向いて、少し笑いながら更に言う。


「俺は、もう遅すぎた・・・」


 視線を前に戻して更に進み、俺は伯爵邸を目指した。

 騎兵に襲われた外に出た者、じわじわと追い詰められた市街地の生き残りの者は、皆揃って丘の上の伯爵邸に逃げ込んだ。

 今のこの状況は、あの反乱の起こった夜を立場を変えて再現したかの様な状態で、ここに至って反逆者側には、もう勝ち目は無いと言える。


「カイル団長」


 大通り中央、丘の方へと通じる交差点の広場に着くと、エストが声を掛けてきた。


「状況は?」


 俺が訪ねると、エストは直ぐに説明をする。


「市街地は完全に制圧。後は丘の上に逃げたのだけだよ」


「では屋敷を包囲しろ。予定通りだ」


「了解」


 そのやり取りの後、エストは部下に命じて大隊を集結させて丘を登り始めた。

 俺も一緒になって丘を登り、頂上に着くと門の上に白旗が掲げられているのが見えた。


「頼む!此方に抵抗の意志は無い!」


 声を上げているのはミハイルだった。

 第一大隊と騎兵大隊に屋敷を包囲されて、完全に戦意を喪失したらしく、降服を願い出てきていた。

 俺はそれに対して返答を返した。


「降服は受け入れられない!お前達は全員ここで死ね!」


 そう俺が返すと、屋敷から悲鳴が聞こえてきた。

 女の物が殆どの悲鳴の合唱の中、ミハイルが再び声を上げる。


「此方はもう戦う事が出来ない!此方には女子供しかいない!」


 そんな事を言われても俺の答えは決まっている。


「自分の都合が悪いから許せとは都合が良い事を言う!そんな戯れ言が通じる等と思っているのか!!」


 俺には彼等を許すつもりも生かすつもりも無かった。

 最早、義務だとか罰だとか、そんな事はどうでも良くなっていて、俺の頭の中には俺自身と部下を苦しめて生きながらに焼いた連中への憎しみしかなかった。


「攻撃用意!」


 俺が号令を出すと、エストが大隊に攻撃用意を命じる。

 抵抗力を失った連中には、何も出来る事は残されておらず、ただ死を待つのみだ。

 そして、俺が最後の攻撃命令を出そうとした瞬間、門が内側から開け放たれて、ミハイルが進み出てきた。


「頼む・・・頼みます・・・せめて、子供だけでも見逃して下さい」


 ミハイルは苦渋に満ちた表情で俺の前に両膝を着き、両手を突いて土下座で懇願した。

 そんなミハイルの様子を見て、アルフレッドも俺に懇願する。


「僕からも御願いします。もう、こんな事をする必要はありません」


 二人が俺に懇願し、周囲にいる全ての視線が俺に集まった。


 そんな状況の中、新たに現れた人物が俺に話し掛けてきた。


「そんな言葉に惑わされてはいけません。カイル大佐」


 俺が声の方を向くと、そこには、あの夜に伯爵の死を伝えてきた執事見習いの青年が、あの人同じテイルコート姿で立っていた。

 服の端々がほつれ、中のシャツには汚れが目立ち、タイもしておらず、大分荒んだ雰囲気を纏っていた。


「カイル大佐。奴等は反逆者です。奴等にされた事を思い出して下さい。子供達も貴方に石やゴミを投げ付けて来たじゃ無いですか」


 そう言われた俺は、広場で柱に括り付けられた時、罵声と共に石を投げ付けられた事を思い出す。

 生きたまま焼かれていった俺が見捨ててしまった彼等の事を思い出す。

 された事を思い出す度に、俺の中の憎しみが大きくなるのが感じられた。


「カイル大佐・・・伯爵の仇を討つのです。伯爵の事を思い出して下さい。貴族としての騎士としての名誉を奪われる、卑劣な方法で命を奪われ、有りもしない汚名を着せられた伯爵を」


 そう、この青年が伝えてくれた伯爵の最期。

 暗殺者に殺されると言う、騎士にとって不名誉な最期を遂げた伯爵は、この先永遠に反逆を起こされた無能な領主と言う汚名を被り、嘲笑と共にその名を呼ばれる事になる。


「胸を刺し貫かれて息絶えた伯爵の仇を討って下さい。コレは伯爵に使えていた使用人として、その最後の生き残りとしての御願いです」


 あの上品な老執事も他の使用人達も殺されて、最後の生き残りとして主人の汚名を少しでも晴らしてくれと言う言葉に、俺は心動かされ、彼から伝えられた伯爵の最期に思いを馳せた。

 そして、俺は命令を下す。


「撃て」


「っ!」


「兄さん!」


 俺の命令に兵達は忠実に従った。

 塀の中に犇めいていた女子供の群れに向かって銃口が向けられて、銃声と共に吐き出された光弾が容赦なく撃ち貫いた。


「ひいやああああああ!!!」


「ああああああ!!」


 寿司詰め状態の彼女達に逃げ場所など有るはずも無く、血しぶきと肉片をまき散らせ、悲鳴と共に地に伏した。

 子は物言わぬ母に縋り付き、母は首を失った我が子を抱きしめながら咽び泣く。

 地獄すら生ぬるいと言わざるを得ない光景を俺は一切視線を切らずに見続けた。


「止めろおおおおおお!!!」


 ミハイルが立ち上がり、拳を振り上げて俺に向かってくるが、それはエストによって取り抑えられてしまう。


「コイツは如何するんだい?」


 エストの問い掛けに俺が答える。


「取り敢えず首謀者として色々聞きたい事がある」


 そう答えると、エストはミハイルの首筋に拳を振り下ろして、その意識を奪い、兵士に縛って連れて行くように命じた。


「兄さん!」


 それまで兵士に押し止められていたアルフレッドが俺に向かって殴りかかって来る。

 左頬に衝撃を受けて尻餅をついた俺は、アルフレッドを見上げて言った。


「何のつもりだ」


「それは此方の台詞です!何故こんな事を!」


 俺が殴り倒された事に兵の注目が集まり、何時の間にか射撃が止まっていた。


「何故そこまでして、人を殺したがるんですか!」


 勝手な事を言うアルフレッドに対して、俺は強い怒りを覚えて立ち上がって怒鳴り返した。


「貴様に何が分かる!!」


「っ!」


 俺の声に気圧されて黙ったアルフレッドに俺は更に言葉を続ける。


「人を殺すのが好き!?アイツらを許せ!?ふざけるな!!コレは全て奴等が自分で招いた結果だ!!俺に喧嘩を売った結果だ!!俺の部下を焼き殺した結果だ!!その報復に殺して何が悪い!!」


 溢れ出る俺の思いは、次々と口から吐き出されてアルフレッドに叩きつけられた。


「女だろうが子供だろうが関係ない!!敵であるなら皆平等に殺してやる!!俺の味わった苦しみを倍にして返してやる!!それが戦争だ!!」


 俺がそう言うと、アルフレッドが言い返してきた。


「コレは最早戦争なんかじゃない!!コレは虐殺だ!!」


「ああ、そうだ!!虐殺だ!!それが如何した!!こんな事は戦場では当たり前の事だ!!」


「戦争にもルールはあります!!」


 その言葉に俺は更に頭に血を上らせた。


「戦争にルールなど有る物か!!敵を全て殺して全て破壊するのが戦争だ!!何も知らないお前が知った風な口を利くな!!」


 言い合いを続けながら色々な事を思い出して行く中で、俺の心の中に妙な違和感が生まれていった。


「伯爵はコイツらに殺されたんだぞ!!それも、卑怯にも暗殺などと言う手段でだ!!」


 曲がりなりにも伯爵は戦友だった。

 戦友という特別な関係である故に特別な思いがあった。

 その、伯爵の事を思うと胸が一杯になり、それと同時に違和感も大きくなった。


「伯爵の最期は!!」


 大きくなった違和感の正体がより鮮明になってきて、頭の中に思い浮かぶ最後に見た伯爵の姿に何かが引っかかった。


「?」


 突然様子の変わった俺に、アルフレッドが困惑した。


「伯爵の最期は・・・胸を貫かれて・・・」


 そう言いながら俺は屋敷に視線を向けて、死体と負傷者に埋め尽くされた庭から、徐々に視線を持ち上げて三階を見る。

 それから、執事見習いの青年に視線を向けた。


「如何したのですか?カイル大佐?」


 その瞬間、俺は頭の中のパズルに最後のピースがハマるのを感じた。


「っ!!」


 全身が粟立った。

 そして、右手で腰のホルスターから拳銃を抜いて、構えた。


「!」


「兄・・・さん?」


「何をしているのですか?」


 いきなりの展開に着いていけず驚愕するアルフレッドを無視して、俺は銃口を胸に向けた。


「如何したのですか?大佐?」


 俺は執事見習いの青年に尋ねた。


「なあ、お前執事見習いって言っていたな・・・」


「はい、そうですが?」


「その服装は普段からそうだったのか?」


「ええ、執事ですから当然です」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は引き金を引いた。

 銃声と共に飛び出した光弾は、狙いを過たずに胸を貫いた。


「な、何・・・を?」


「兄さん!?」


 俺は、執事見習いの青年を撃った。

 そして、彼に言う。


「この国の執事はモーニングは着ない・・・ダブルのツーピースか、シングルのスリーピースしか着ない」


「なっ!?」


「お前は一体何だ?」


 今度はトドメを誘うと頭を狙い、引き金を引こうとした瞬間、人影が俺の目の前にとびだしてきて、青年に縋り付いた。


「お兄ちゃん!!」


「アイン・・・?」


「アイン!」


 青年とアルフレッドが人影の名を呼んで、俺もその正体を知る。


「お前は・・・」


 少女が息の弱くなる青年に縋り付いていて、トドメを刺せないでいると、青年が少女に言った。


「なんでここに来た・・・?」


「お兄ちゃんを捜してたんだよ!如何して居なくなるの!」


「お前の為に・・・皆の・・・為に・・・」


「そんなのはいらなかった・・・お兄ちゃんが居ればそれで良かった!!」


 訳の分からない兄妹のやり取りを見ていた俺は、銃をホルスターに納めて、エストを呼ぶ。

 エストは、直ぐに応じて俺の側に来る。


「何か?」


「屋敷の中を片付けろ・・・死体を片付ければそれで良い」


「生き残りは?」


「・・・もう良い・・・放っておけ」


 俺には、もうどうでも良くなっていた。

 何時の間にか憎しみの気持ちは萎んでしまっていて、生き残っているのを捕まえてまで殺す気力は無かった.


「兄さん・・・」


「何だ」


「兄さんは何を見たんですか?兄さんは一体如何してしまったんですか?」


 俺が何も言わないでいると、アルフレッドが更に続けて言う。


「如何してこんな事が出来るのですか・・・」


 その問い掛けに、おれは答えた。


「言っても分からないさ・・・」


 そう言いながら俺は、子供達の向ける視線に気が付いて、それらに近づいた。


「・・・」


「・・・何だよ!この人殺し!!」


 見覚えのある少年は俺を罵りながら、弟らしい子供を抱き寄せた。


「何か言えよ!人殺し!」


 その見覚えのある少年の正体に俺は気が付いた。


「・・・お前、俺に石を投げたな」


 処刑の火に俺に向かって石を投げてきた少年で、あの日も俺に向かって罵り声を投げ付けてきていた。

 俺は、少年に顔を近づけて睨みながら言った。


「俺が憎いか?俺を殺したいか?」


 そう問うと、少年は震えながらも虚勢を這う領に大声で答えた。


「当たり前だ!父さんも母さんもお前に殺された!必ずお前を殺してやるからな!!」


 その答えを聞いた俺は、彼に言ってやった。


「なら何時か殺しに来い。相手をしてやる。ただし覚えておけ」


「何だよ・・・」


「お前が喜んで石を投げて焼き殺された者にも子供が居る。お前等の親が殺した相手にも子供が居た。そして、ここの領主だった伯爵にもお前と同じくらいの歳の娘が居る」


「・・・」


「お前も何時か復讐される側に回るんだ。その時は覚悟する事だ」


「俺は直接殺してねぇ」


「俺も直接お前の親を殺した訳じゃ無い。それと同じように復讐する側に取っては関係の無い事だ」


「っ!」


「そしてお前が復讐に遭い、殺された時。今度はお前の弟が復讐する者になるだろう」


 少年は腕の中に抱いている男の子に視線をやって、再び俺を見る。


「俺は復讐を否定しない。お前には俺に復讐する権利がある。同時にお前には復讐される義務もある。どう生きるかはお前次第だが、覚悟はしておけ」


 少年からの視線を受けながら立ち上がった俺は後を向いた。


「弟と仲良くな・・・でないと俺と同じになるぞ」


 そう言い残して俺は立ち去った。

 そして、アルフレッドにもエストにも、誰にも何も言わずに、様々な視線に晒されながら立ち去った。

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