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三十話 戦争は男の仕事

どうも何とか投稿できました。

今回もしばらくの間お付き合い下さい。

 俺の命を受けたフィオナ少尉は騎兵中隊200騎の内、半数の100騎を引き連れて森の中を通る街道を進み始めた。

 俺はカリス殿に頼んで騎士団を後方で停止させてもらい、この先で待ち伏せている敵の対処は、俺達だけで行うことにした。

 部下の兵達の中からは、何故、騎士団と協力しないのかと言う声もあったが、今この段にあっては、騎士団を頼る事は出来ない理由があった。

 確かに帝国騎士団は世界最強の戦闘集団であるが、結局の所その兵種は、重装騎兵なのである。

 騎士を初めとした重装騎兵は、その衝撃力と機動力故に陸戦最強の兵種だあるのだが、今回の様な機動の発揮もままならない森の中では、衝撃力抜群のランスチャージが行えず、強みが全て殺されてしまい、森の中ではかえって邪魔になってしまうと判断したのだ。。

 それを理解しているからこそ、カリス殿も俺の進言を聞き入れて騎士団を停止させたのだ。


「彼女達だけで大丈夫か?必要なら騎士団からも囮を出しても良いが」


 前進するフィオナ少尉と騎兵を見ながらカリス殿がそう言ってくれたのだが、俺はそれを断った。


「いえ、あいつらだけで大丈夫です。少尉も自分の役目というのを弁えている筈です。大丈夫・・・」


 俺は自分に言い聞かせるようにそう言って、遠ざかる部下達の背中を見詰める。


「・・・そうですか」


 前を見続ける俺にそう言うと、それ以上は何も言わずに騎士団の方へと歩いて行った。


「カイル・・・準備が出来たぞ」


 カリス殿とのやり取りから暫く経ってから、ワルドが俺の下に来て報告を上げた。


「よし、分かった」


 ワルドの言葉にそう言って頷いた俺は、最後の確認にと再度カービンの動きを確かめて、ヘンリーから降りた。


「散兵隊、前進。音を立てるな」


 俺とワルドは、ライカンとダークエルフからなる散兵隊を率いて街道の左右の森の中を進み始めた。

 隊は数名の分隊毎に10~20mの間隔を開けた大きめの半円を描いた状態で進み、街道の先でフィオナ少尉達を包囲している敵を逆包囲するように動いている。

 もしも、ただの人間だけでこの作戦を実行しようとすれば、相当な練度と装備を持った部隊で無ければ、かなり困難だっただろう。

 森林での行動に秀でたダークエルフと、夜間戦闘能力の高いライカンが居たからこその作戦と言える。

 俺は、そんな彼らの高い能力を内心で褒め称えながら、会敵の時を待つ。


「団長・・・」


 そうして歩いている内に、一人のライカンの青年が小声で話しかけてきた。


「どうした」


 俺が問うと青年は答えた。


 「ワルドの旦那からの報告だ。敵発見、排除する・・・だそうだ」


 実に明瞭簡潔な報告は、彼らの耳によってしか聞き取ることの出来ない特殊な鳴き声で伝えられた物だが、その短い報告が俺の意識を戦闘の為の物に切り替えた。


「定位置に付いたら別命あるまで待機と伝えてくれ」


 俺が青年にそう頼むと、青年は何も言わず上を向いて口を開け、俺の耳には聞こえない声を上げて、俺の命を実行してくれた。

 それから暫くして、俺の方も敵の警戒部隊を突破して所定の位置に付くと、そこからは敵に包囲されたフィオナ少尉と部下達の姿が見えた。


「円陣を崩すな!協力して敵を返り討ちにしろ!」


「おお!!」


 自ら矢面に立ちながら仲間に檄を飛ばす彼女の姿は、コレまでに見たことが無いほどに指揮官然としていて、今見る限りでは、闘志あふれる素晴らしい士官の様だった。


「おい」


 その様子を見ながら、俺は先程の青年を呼んだ。


「ライカン全員に伝えろ。俺の射撃を合図に攻撃を開始、以降は予定通りに行動せよ」


 俺がそう言うと、やはり青年は無言で頷いてから上を向き、さっきよりも長く声を上げ続けた。

 その間に俺はカービンを構えて、敵の指揮官らしき姿を捜し、全ての準備が整った瞬間に、躊躇いなく引き金を引いた。


「おおおおおおおおお!!!!」


 一度だけ乾いた発射音が響いた瞬間、隣に居たライカンの青年が声を張り上げて敵に突進していく。

 それに続けとばかりに全員が敵の群れの中に突き進んで行き、鋭い爪やトマホークをふるって、ゴブリンモドキを物言わぬ亡骸に作り替える作業に入った。


「今が好機!全員敵を押し返せ!!」


 突如現れた俺達に、一瞬驚いた表情を浮かべたフィオナ少尉だったが、直ぐさま意識を切り替えて部下達に反撃を指示して敵に切り込んだ。

 この時点で、敵部隊と此方の差は、多少混乱状態にあるとは言え三倍程度の兵力差があり、包囲されていたフィオナ少尉達を助け出した頃には、完全に体勢立て直されてしまっていた。


「少尉!フィオナ少尉!隊を纏めて俺の方に来い!」


 森の中から街道上に移動して指示を出した俺を、フィオナ少尉は一瞥すると、俺のことを無視して敵の方にどんどんと斬り込んでしまった。


「少尉!クソッ!・・・ワルド!少尉を頼む!!」


 もう一度少尉に声を掛けようとしたとき、俺が指揮官である事に気がついた敵が斬り掛かってきて余裕を無くした俺は、銃床でゴブリンモドキを殴りながらワルドに聞こえるように声を上げた。

 幸運な事に、俺の声はワルドに届いたらしく、敵中で孤立仕掛けた少尉をワルドが救い、指揮官不在で混乱し掛けた騎兵隊の方も俺が掌握した事によって、状況は乱戦から、徐々に双方の戦列が形成され始めていた。


「カイル!敵の追加だ!」


 ワルドの声に反応して敵の方を見ると、森の中から続々と増援が現れて、その勢力を拡大すると、一挙に押し寄せてきた。


「総員退却!逃げるぞ!」


 もはやコレまでと機を見計らった俺は、全員に退却命令を出して、騎兵の後ろに続き最後尾を走って逃げ出した

 その様子を見た蛮族どもは、奇声を上げて興奮しながら俺達を追跡し始める。

 幸いな事に、脚の早さでは此方に分が有ったため、追いつかれる事は無かったのだが、俺達を追う最中にも数を増やした蛮族どもは、執拗に追いすがってきた。

 既に息は上がり、胸が苦しく、背中に痛みが走る様になっていて今すぐに座り込みたい気分だが、それでも脚を動かし続けた。


「見えた・・・!」


 そして、遂に俺達は騎士団や残りの部下達の居るポイントまで戻ってきた。


「小銃隊構え!!」


 俺は走りながらそう叫んで、最後の力を振り絞って仲間達の下へと走る。

 その最中に、肺の痛みを無視して次の言葉を絞り出した。


「撃て!!」


 次の瞬間、俺は勢いよく地面に倒れ込むように伏せて、銃声と共に飛び出してきた光弾をやり過ごした。


「ゴギャ!」


「装填!ライフル中隊構え!」


 後ろから聞こえてくる気味の悪い断末魔を聞きながら立ち上がった俺は、再び味方の方に近づきながら命令を出した。

 そして、とうとう味方の下までたどり着くと、振り返ってカービンを構えながら言った。


「撃て!」


 再び放たれた光弾は、今度は先程よりも正確に敵の急所に目掛けて空を切り裂き、血肉を飛び散らせる。


「再装填!以降は各自で撃て!」


 そう言う間にも、俺はカービンのレバーを動かしては引き金を引いて、敵を次々に撃ち殺す。


「少尉!隊を射撃に参加させろ!」


 一切視線を動かすこと無く、カービンを構えたままの姿勢でフィオナ少尉に命じると、背後で少尉が隊の者達に指示を出すのが聞こえた。


「全員射撃に混じれ!銃を出すんだ!早く!」


 そう言われた騎兵隊は、ワタワタと慌てながら背負っていた銃を取りだして、装填を始める。

 やはり普段から訓練している訳では無い彼らの射撃は狙いも不正確で、装填の速度も遅いのだが、それでも尚、銃の火力は凄まじかった。

 騎兵隊が各個でまばらに射撃を行い、一定の間隔でライフル中隊が比較的纏まった射撃を敵に浴びせる。

 僅かに50mの距離での銃撃は、敵の方に銃口を向けて引き金を引くだけで、簡単に敵を地獄に送ることが出来た。


「騎兵中隊着剣!散兵隊突撃用意!」


 既に死屍累々となっている敵の一群が、それでも前に進もうとしている様子を見て、俺は最後の一押しにと指示を出す。

 戦闘の最終段階、最後の決を決めるのはどんな状況下に置いても部隊の突撃による敵戦列の破壊である。

 最後の瞬間までにできる限り敵の士気を挫き、然る後に旺盛な意欲と不屈の攻撃精神を持って、最大限に能力を発揮して敵を打ち砕く。

 その瞬間に俺は勝利を確信できるのだ。


「全員突撃用意!、最後の意地を見せろ野郎共!」


「「「応っ!!!」」」


 待ちわびた時は直ぐに来た。

 幾度目かのライフル中隊の一斉射撃が敵を薙ぎ倒した時、敵の方に変化が現れた。

 一体のゴブリンモドキが背を向けて武器を放り捨てて逃げ出したのだ。

 その情けない姿が敵の目にどう写ったのかは知らないが、後に続く様に背を向ける奴が徐々に増えていき、遂には敵の前線が崩壊して、後続を押し退けながら潰走を始めた。

 俺は、その機を逃さなかった。


「敵の士気は完全に崩壊した!この機を逃すな!!突撃だ!!」


 有らん限りの声を張り上げて命じた俺は、サーベルを振り上げて走り出した。

 その俺に続いて兵達も走り出し、俺達は一塊の鉄槌となって蛮族共を叩き潰した。

 既に逃げ腰になった敵などは恐るるに足らず、僅かに踏み止まっていた勇敢な命知らずをも退かせて、敵を完全に追い散らし、俺と俺の兵達は任務を果たす事に成功した。







「包帯をもっと持ってきてくれ」


 脚に矢を受けた騎士の傷口を押さえながら俺がそう言うと、見覚えのあるライカンの青年が包帯を差し出してきた。


「ありがとう」


「・・・」


 礼を言って包帯を受け取った俺は、傷口を押さえていた手を退けて包帯を巻き始め、その様子をライカンの青年が何も言わずに見詰めていた。


「カイル殿!?何をしているのですか?」


 包帯の端を結んで手当が終わったところに、驚いた様子のカリス殿が声を上げて走り寄ってきた。


「何とは?・・・見ての通り手当ですが?」


 俺がそう言うと、カリス殿はそんな事を聞いているんじゃ無いと言いたげな様子で俺を見てくる。

 そんなカリス殿に俺は言った。


「人手が足りない時は指揮官だ貴族だ等と言っていられんでしょう」


「いや、しかしですね・・・」


「それに・・・俺にはこんな事ぐらいしか出来ませんから」


 尚も言い募ろうとしたカリス殿だったが、俺が気勢を制して言うと何も言わなくなった。


「森から出た以上、我々は極少数の軽装歩兵と騎兵の集まりでしかありません。平原で殴り合えるだけの装備も兵もいません。だから、後は貴方の指示に従います」


 あの後、何度かの小規模な襲撃を受けた物の、騎士団と俺達は無事に森を抜け、待機していた騎士団の残留部隊と合流を果たした。

 騎士団は、その兵力を3000にまで戻し、一番力を発揮出来る場所に来て士気を取り戻しつつあったが、多数の負傷者を抱えている現状では、此方が不利であると言わざるを得ない状況である。

 俺の部下達にも多少の犠牲は出ていて、騎兵中隊からは30程の死傷者を出しており、その他も会わせると50の損害を負っていた。

 死者の遺体は今回も持ち帰る事はかなわず、装備と僅かな遺品だけが回収できただけだ。

 やはり、部下が死ぬというのは何度経験しても慣れるものではなく。

 俺は、少し感傷的になっていた。


「カリス団長!」


 互いに無言になってしまった時、騎士クリストフが走り寄ってきて、膝に手をついて喘いだ。


「何だ?クリス。報告か?」


 至極落ち着いた様子のカリス殿がクリストフに言うと、クリストフは一端、息を整えてから口を開く。


「敵の大群が接近しています!」


「・・・そうか。数は分かるか?」


 カリス殿は、クリストフの言葉を聞いても尚、冷静な態度を崩さずに詳細な報告を求め、クリストフもできる限りの情報を伝える。


「・・・」


 そんな二人のやり取りを聞いていた俺は、立ち上がって、隣に居てくれたライカンの青年に向いて、彼に指示を出す。


「ワルドに部隊を纏める様に言ってくれ。それとフィオナ少尉を俺の所に連れてきてくれ」


「分かった」


 彼はそう言うと、俺の前から走り去って命令を実行に移してくれた。


「・・・また、名前を聞くのを忘れたな」


 そう呟きながら腰の弾囊を開いて残弾を確認して溜息をついた。

 もう残り少ない弾数は、そのまま俺の残りの命につながっている。


「剣術をもっと練習しときゃ良かったかな」


「今からでも遅くはありませんよ」


 カリス殿が茶化すように俺の呟きに返してくれた。

 それだけで、少し俺の気分が晴れて前向きになれたのが自覚できる。


「命令を聞きましょう」


 気を引き締めた俺がカリス殿にそう言うと、カリス殿も気持ちを切り替えて俺に命を出した。

 その命は、俺と部下達にとっては光栄で名誉な事であると同時に、とても残酷な物だった。


「貴方たちには最右翼について貰います。貴方たちが崩れなければ私達は負けません。全ては貴方と貴方の部下に掛かっていますよカイル中佐?」


「・・・意地の悪い事で」


 苦笑を浮かべながらそう言った俺は、カリス殿に背を向けて歩き出した。


「・・・すみません」


 背後のカリス殿が何かを口にした様な気がしたが、俺は気にせず前に進む。

 ただ、自分のするべき事を全うするために、前を見続けた。

 それから暫くして、俺の前にフィオナ少尉が姿を現した。


「何か御用でしょうか中佐殿?」


 相変わらずの態度を取る彼女に対して、思わず苦笑が漏れ出てしまい、それを見た彼女は余計に気分を悪くして、俺に対する当たりを強めてくる。


「早く要件を伝えて下さい。今話時間がないのですよ?」


 いらだち混じりにそう言ってきた彼女に、俺は今、漸く向き合って口を開いた。


「少尉・・・」


「何ですか」


 何時にない態度の俺をいぶかしんだ彼女は、少しだけ眉間の皺をほどいて俺の顔をジッと見詰めてくる。

 俺は、そんな彼女に言葉を続ける。


「命令だ、君はこれから騎兵中隊を率いて負傷者の後方への移動を支援し、その任務の達成を持って我が兵団における軍務を解く」


 そう言った瞬間、彼女は何を言われたのか理解出来ないと言う表情で少し考えて、漸く理解出来た瞬間、今度は烈火の如く怒りを露わにして詰め寄ってきた。


「あ、貴方は一体何を言っているのか!何故そんなことを!?」


「今言ったとおりだ。今すぐにここから離れて家に帰れ」


「そんなことは出来るわけがない!私は我が領の民達を見守る義務が・・・」


「戦争は男の仕事だ。お前は帰って平穏に暮らせ」


 噛み付かんばかりに怒り狂う彼女は、遂に俺に掴み掛かって襟を締め上げてくるが、俺は彼女の手首を掴むとひねり上げて押さえつけ、兵を呼んで拘束する様に命じた。


「おとなしくして下さい少尉!」


「クソッ!離せ!私にはまだ!」


 手を縛られて両側から押さえ付けられているにもかかわらず、それでもフィオナ嬢は怒声を上げて抵抗し続ける。

 俺はそんな彼女の言葉を無視して、2人の兵士に言う。


「彼女は上官反逆の罪を犯した。現状での判断は保留として後方に移送しろ」


「離せ!離せぇ!!」


「・・・連れて行け」


 2人の兵士は俺の言葉に従い彼女を連れて負傷者の集まっている場所へと向かった。


「・・・すまない」


 誰に聞こえる訳でもない言葉が、自然と俺の口から零れた。

 その言葉が一体誰に向けられたのか、何に対しての言葉だったのかは、俺にも分からなかった。







「それでは頼んだ」


「了解しました」


 およそ400人の負傷者の護衛を命じた騎兵中隊は、取り合えず一番年かさの東方人に指揮官代理を任せた。

 暴れないように両手を縛られているフィオナ嬢は馬には乗せず、ある程度の所までは歩かせるように言いつけて、その後の指示を書いた手紙を隊長代理に渡して、後の事を託す。


「では気をつけて言ってくれ」


「了解」


 そのやり取りを最後に、退却組は移動を始めた。

 ゆっくりとだが遠ざかっていく彼らの姿を、俺は無事を祈りながら見詰め、そんな俺の下へワルドが後ろから近づいてきて声を掛けて来る。


「これで良かったのか?」


 何が?等という疑問など一切わかずに、ワルドの言葉に対する返事は直ぐに出た。


「問題ない」


 俺がそう言葉を返すと、ワルドは軽く溜息をついてから言った。


「・・・面倒くさい男だな。お前は」


「否定はしない。不器用なのは自覚している」


「・・・恨まれるぞ?」


「だろうな・・・だが、死なせるよりは良い」


 元々、俺は彼女を兵団から追い出すつもりで、今回連れてきたのも直ぐに逃げ出すだろうと踏んでの事だったのだが、俺の予想を裏切って、彼女は順応してしまった。

 だから、俺は多少強引な手を使ってでも、彼女を後方へと連れて行かせられる様に仕向けたのだが、それは一重に、俺が個人的に女の子に戦場に立って欲しくないと言う思いからの行動だった。


「甘いかな?俺は」


 ワルドに俺の行動をどう思うか訪ねるようにそう言うと、ワルドは幾ばくも考えずに答えた。


「かもしれん・・・だが、悪くない」


 この瞬間に、二人の間に流れる不思議な空気が何故か心地よく、一瞬だけ戦場に居ることを忘れさせてくれる。

 そして、彼も俺と同じように思っていてくれたのが、何だかうれしく思えた。


「ありがとう」


 そんな心境が自然に口を開かせたのかは分からないが、気がついたら俺は感謝の言葉を口にしていた。


「・・・礼を言われる様な事じゃない」


 そう言ってワルドは去って行った。


 遠ざかっていく者達は無事に帰る事が出来るのだろうか。

 ここに残っている者は、どれだけの者達が生き残ることが出来るのだろうか。

 俺がしたことは正しいことだったのだろうか。

 その答えを知るものは何処にも居ない。

 だけど、俺は、この時の決断を決して後悔はしない。

 彼女には家に帰ってゆっくりと平穏に暮らして貰いたい。

 そう思いながら、去って行く者達を見詰め続けた。


「一体・・・どうしてこうなったのか・・・いや、成るべくしてなったのかな?」


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