二十九話 信頼
どうもお待たせいたしました。
二月ぶりの投稿です。
例によって例のごとくクオリティはお察しの上、文章量も少ないです。
既に愛想を疲れているかも知れませんが、よろしければお付き合いください。
驚くカリス殿を余所に、俺はホルスターから拳銃を抜いて構え、ためらいなく引き金を引いた。
引き金の動きに少し違和感があったが、それでも引き金を引ききると、その動きに連動して、起こされていたハンマーが勢い良く撃針を叩くと、銃口から光弾が吐き出された。
「!!」
「グギャッ!」
高速で飛翔した光弾は、カリス殿の頭の直ぐ横を通過して、その後ろに迫っていたゴブリンモドキの額に吸い込まれていき、汚物をまき散らした。
「・・・」
後ろを振り向いて状況を確認したカリス殿は、地面に転がる頭の無いゴブリンモドキを見て絶句して、それから俺の方に向き直ると、俺に礼を言ってきた。
「本当に殺されるかと思いました」
「すまない。急いでいたもので」
そう言いながらホルスターに拳銃を納め、カリス殿に近付いた。
次の瞬間、電光石火の如き勢いでカリス殿が剣を振るい、俺に目掛けて突きを繰り出してきた。
「!!」
一瞬、本当に死んでしまったかの如き錯覚に陥った後、俺の背後で何かが倒れる音がして、後頭部にベットリとした液体がかかった。
「!?」
振り向くと、そこにはゴブリンモドキが倒れていて、カリス殿に向き直ると、笑みを浮かべながらカリス殿が口を開いた。
「すいません。急いでいたので」
等と言っている間に、周りに次々とゴブリンモドキが現れる。
「うじゃうじゃうじゃうじゃ、しつこい連中だな!」
俺がそう愚痴ると、カリス殿は笑顔を浮かべながら言う。
「貴方は来たばかりでしょう?」
「・・・結構嫌みな事を言うのですね」
「意外でしたか?」
互いに背を向けて敵に対峙していると、既に数体のゴブリンモドキを引き裂いたワルドが声を掛けてきた。
「カイル!大丈夫か!」
「・・・」
「・・・」
俺とカリス殿は、そのワルドの凄まじい戦いぶりを見て絶句して、それから二人顔を見合わせて無言の内に目の前の敵に攻撃を始めた。
「カリス団長!」
周囲の敵を粗方片付けて、俺はワルドに部隊を集めるように命じて、二人きりになった俺達の下へ、カリス殿の部下の騎士が走ってきた。
「カリス団長!報告です!」
「聞かせてくれ」
「戦闘は概ね終結しました。敵は森の奥に逃げていきます」
明瞭簡潔に報告をする騎士に対して、カリス殿は報告を聞いて直ぐに味方に集結の指示を出す。
「団長・・・彼は?」
カリス殿の指示を聞いた騎士は、直ぐに立ち去るかと思いきや、俺の方を見てからカリス殿に訪ねた。
「ああ、彼はカイル殿だ。今回我々を助けてくれた部隊の指揮官だ」
そう言うカリス殿の説明を聞いた騎士は、胡散臭げな視線を俺に送ると、俺に向いて言った。
「別にあなた方が来なくてもこの程度事には対処できた・・・礼は言わない」
「クリス!」
「指示を出してきます」
カリス殿がクリスと呼ばれた若い騎士を叱り付けるが、彼は堪えた様子も無く、足早に去って行った。
「すみません。彼はクリストフと言うのですが、プライドが高い奴でして」
「いえ、彼が言ったことは事実でしょうし、私の様な若造が指揮官と言うのも思う所があるのでしょう」
「・・・すみません・・・」
申し訳なさそうに言うカリス殿は、以前会った時よりも大分やつれた様な印象を受けた。
「・・・と言う事がありまして」
「・・・そうでしたか」
アレから数十分後、俺とカリス殿の部下が集まって、俺はカリス殿にコレまでの経緯を話し、カリス殿はそれを聞いて少し黙った。
「とても信じられませんね。未来の事が分かるとか、公爵が我々をそんな風に扱うとか」
そう口を挟んできたのは、あのクリストフという若い騎士だった。
彼の言うことも最もだろう。
いきなり現れたかと思えば、訳の分からない荒唐無稽な事を言う外国人の言葉なんて、少なくとも俺なら絶対に信じられない。
しかし、カリス殿は、そんな俺の言う事を最後まで聞いて、良く考えてから答えを出した。
「信じましょう」
「カリス団長!!」
カリス殿がそう言った瞬間、クリストフのみならず、周囲に居た騎士達が目を見開き、声を上げて驚愕をあらわにした。
「良いのですか?そんなに簡単に信じても」
俺がそう問うと、カリス殿が笑って答えた。
「いえ、別に完璧に信じている訳ではありません。しかし、此方も大分損害を受けてしまいましたから立て直しを図る必要があります」
カリス殿は森に入る際に騎士団を二分しており、森の中には半数の2000程度を率いていて、残りは負傷やその護衛、制圧地域の事後処理のために残していた。
作戦の強行も検討したのだが、カリス殿は更なる被害の拡大と泥沼化を嫌って一時的に森からの撤退を決めた。
「それに、もしも罠だったとしても今の私達でも貴方達を始末する事が出来ますし、多少進行が遅れても問題は無いですから」
「・・・そうですか」
カリス殿は笑いながらそう言うが、すさまじい圧力が全身から発せられて、俺は完璧に圧倒された。
「・・・そう言う訳だクリス。全隊に森から出る様に伝えてくれ」
「・・・了解しました」
カリス殿の命令を聞いたクリストフは苦渋の表情で了解の意を示すと、走って行ってしまった。
「・・・で、これからの予定はどうなっているのですか?侵攻は中止ですか?」
そう訪ねてきたカリス殿に、俺は答える。
「いえ、貴方を助ける様に言われた以外は特に何も命を受けてはいません。取り敢えず私達は貴方の指揮下に入ろうと思います」
それからのカリス殿の行動は迅速だった。
早急に残存兵力を纏めると隊列を組み直して、来た道を戻り始めた。
俺は部隊を小部隊に分散させて隊列の各所に配置し、周囲の警戒に当たらせた。
「正直なところ、優秀な斥候役がいてくれるのはありがたいです」
隣で馬に乗って進むカリス殿がそう言ってくる。
その言葉に嘘偽りは無く、カリス殿は要望があれば遠慮無く言い、俺としても非常にやりやすい上官となっていた。
「カイル」
そんな時、ワルドが俺の下に来て声を掛けてきた。
「どうしたワルド。何かあったか?」
「うむ、選考する隊から、待ち伏せの兆候が見えると報告があった。如何する?」
そのワルドの報告を隣で聞いていたカリス殿がワルドに訪ねた。
「敵の規模などは分かりますか?」
「詳しくは分からんがさっきの敵よりは数は少ないだろう」
「ふむ・・・」
カリス殿は押し黙って少し考え込むが、次の瞬間、俺に話しかけてくる。
「カイル殿なら如何する?」
いきなり聞かれてかなり驚いた俺だったが、カリス殿の問いかけに答えた。
「カリス殿。全体を停止させて頂けますか?」
「良いでしょう」
そう言ったカリス殿が合図をすると、隊列が一斉に動きを止めて、待機する。
それから、カリス殿は俺の方を見て、ここから如何するのかという風な視線を向けてくる。
「ワルド」
「何だ?」
「部隊を招集してくれ」
ワルドにそう言うと、部隊は直ぐに集まった。
俺は部隊が集まるなりフィオナ嬢に話しかけた。
「少尉」
「何でしょうか」
「銃の扱いは心得ているな?」
「はい・・・一応」
「なら、これから騎兵隊を率いて前進してくれ」
「なっ!」
俺の言葉を聞いた瞬間、フィオナ嬢は絶句した。
敵が待ち伏せしていると分かっている状況で、それでも前へ進めと言うのは、囮になれと言っているのと同じ事であり、ともすれば半ば死ねと言っているような物だ。
彼女もそれを理解していて、自分にその役目が任された事に驚きを隠せない様子だった。
「少尉、確りと役目を果たしてくれ」
「・・・邪魔者の私を排除するためですか?」
俺にはそのような意図は特に無く、ただ単に俺の立てた作戦の都合上、こうするのが一番だと考えたための判断である。
それを、何を思ったのか変な勘ぐりをしてそんな事を言ってくる彼女は、実に滑稽で、思わず笑ってしまうのを堪えながら、彼女に言った。
「少尉・・・君は想像力が豊かだな・・・ハッキリ言っておこう。俺がお前を始末するのにこんな回りくどい事をする必要は無い。お前を始末するなら適当に頭に数発打ち込めばすむことだ。分かったら黙って言われたとおりにしろ」
俺の言葉を聞いたフィオナ嬢は、不承不承と言った風に騎兵隊の下に行ってその、隊列の戦闘に立って前へと進み始めた。
「良いのか?」
ワルドが後ろから話しかけてくるが、俺はそれに無言で答えてカービンを取りだした。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
携帯をスマホに変えたのを機に一話から二十話までを加筆修正いたしましたので、よろしければ、そちらも読んで頂ければ幸いです。




