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二十三話 駐屯地の攻防

「第一小銃中隊射撃用意完了!」


「第二小銃中隊準備良し!」


「了解!別名有るまで待機しろ!」


 城壁の上、俺の左右に歩兵大隊から引き抜いて来た小銃中隊とライフル中隊が整列している。

 彼等は俺の直属の射撃部隊として直に指揮を取り、弓兵隊と共に城壁上で敵を迎え撃つ。

 城壁上の中央に二個の小銃中隊を列べ、右側にライフル中隊、左側に再編した弓兵中隊を配置し、各隊の間に軽装歩兵を置いた。


「団長!全部隊の準備が終わりました!」


 オーガは既に動き出している。

 ゆっくりと歩いて来るオーガ達は、昨日よりも更に数を増していて、報告に有った武器や防具も装備している。

 俺は、この時に改めて思い知った。

 昨日の攻撃は単なる前座に過ぎなかったのだと。


「距離300に入りました!」


「ライフル中隊構え!」


「矢を、つが、えろ」


 次の瞬間、ゆっくりと歩いていたオーガが一斉に走り出す。 

 大地を揺らし空気を震わせて、奴等は走る。

 その迫力たるは、これを例える物が無く、これに勝る物は無い。

 そんな風に思えた。


「っ!」


 一瞬、敗北の二文字が思い浮かぶ。

 心が折れてしまい、逃げ出したい気持ちに駆られるが、それを必死に抑えて脚に力を込める。

 そして、部下達を鼓舞するために声を張り上げた。


「怖じけるな!!武器を構えろ!!」


 幸いにも兵達は号令に従い、射撃部隊の全員が銃を構え、その銃口を敵に向ける。


「距離100!」


「撃て!」


 報告と射撃命令を出すのは、ほぼ同じタイミングだった。 その後に続いて銃声が鳴り響き、放たれた光弾が迫り来るオーガ達に吸い込まれて行った。


「小銃中隊はランニグファイアの準備!ライフル中隊は武器を持っている奴を狙え!」


「全員、兎に、角、射て!」


「全弓兵は全力で射撃!」


 この時、この瞬間のシャウスク駐屯地北門付近の城壁は、間違いなく世界最硬を誇っていただろう。

 この二個の小銃中隊が行うランニグファイアとは、中隊に所属する射撃小隊が交互に射撃を行い、連続して一斉射撃を敵に叩き付ける射撃方法で、極めて高い火力を発揮出来る。

 本来は、この射撃方法は非常に高い練度と、高度な訓練によって実施される物で、付け焼き刃で出来る事では無いのだが、俺は二個中隊、六個小隊を使って交互射撃を行う事で、不足している練度を補う事にした。

 これに加えて、弓兵とライフル兵も総動員動員して、兵団の全火力を最大限に発揮する事によって、この突撃破砕射撃を実現する事が出来た。


「撃て!撃ちまくれ!俺が良いと言うまで絶対に退くな!」


「「「応っ!!!」」」


 しかし、優勢は長くは続かなかった。

 やはり訓練不足は如何ともし難く、徐々に射撃のタイミングがずれ始め、敵に付け入る隙を与えてしまった。


「「「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」


 遂には昨日の死体の山に到達し、城壁に取り付くのを許してしまう。

 奴等は死体を踏み台にして城壁の上までかけ登り、俺達に襲い掛かって来た。


「歩兵隊抜刀!俺に続け!」


 ここで小銃中隊に対する攻撃を許せば、俺達の敗北は確定してしまう。

 それを防ぐために、腰に履いたサーベルを抜き放ち、果敢にオーガを迎え打つ。


「命を惜しむな!意地を見せろ!」


 オーガと言うのは恐ろしい敵で、その巨大な身体もさる事ながら、強靭で屈強な肉体と、そこから発揮される剛力と胴を貫かれようとも怯まない高い生命力、奴等は例え手足を切り落とされようと、例え顔の半分を吹き飛ばされたとしても、命有る限り此方を殺そうとしてくる。

「おおおおおおおおお!!」


 俺は、右手にサーベルを、左手にはトマホークを持って、一体のオーガに斬りかかった。

 オーガは、俺を近付けまいと棍棒を降り下ろして来るが、その攻撃を掻い潜り、懐に飛び込んで左膝の裏にサーベルを叩き付ける。


「グッ!!」


 膝裏の筋を斬られたオーガは方膝を着いて声を上げる。


「おおおお!!」


 更に追撃を掛けるべく、今度は右膝の上に飛び乗って首を切りつける。

 しかし、オーガの首は太く固く、一撃では切り落とす事が出来ず、俺を振り落とそうと身体を震わせ腕を振り乱して抵抗した。


「だあっ!!」


 ハンマーの様な拳を避け俺は、背後に回って首の付け根にサーベルで斬りかかった。


「ゴオッ!!!」


 しかし、それでも尚オーガは倒れず、身体に力を込めて勢いよく立ち上がって見せる。

 この時、サーベルの刃が食い込んで離れず、俺はそのまま肩にしがみつき、大きく揺れるオーガの肩の上で、肩にトマホークを叩き付けた。


「グオオオオオオオ!!」


 痛みに呻き、身体を大きく振って暴れるオーガの身体から落ちない様、必死になってトマホークとサーベルの柄に掴まって耐えた。


「クソォッ!大人しくしろ!!」


 暴れるオーガに、肩の上から苦し紛れに、何度もトマホークを叩き付け、そうしている内に疲れてしまったオーガの動きが鈍った。


「っ!」


 その瞬間、首に食い込んだままのサーベルの峰に、トマホークを勢い良く叩き付けた。


「!!!!!!」


 遂に刃が気道まで届き、オーガの口から声に成らない叫び声と共に血のアブクが吹き上がった。

 俺は最後の止めとばかりに全体重を刃に伝える様に飛び降りた。


「っあ!!」


 首を失った身体が、地響きを立てて崩れ落ち、人の胴程もある頭がその側に転がった。

 身体が軋み、悲鳴を上げる。

 それでも己を奮い立たせ、オーガの首を踏みつけて言った。


「見ろ!オーガと言えども首を落とせば死ぬ!俺一人でも殺す事が出来る!俺に続け!」


「「応っ!!」」


 俺に触発された兵達は更に励み、一時的にとは言えオーガ達を圧倒した。


「押せ!押して押して押しまくれ!」


 遂に奴等を一旦押し返し、城壁上から追い落とすと号令を掛けた。


「今だ!火を放て!」


 今日の戦いに置いて、俺は敢えて死体の山を崩さずに残し、敵を誘導した。

 その理由の一つは、予め撒いておいた大量の油で死体の山をよじ登ってくるオーガ達を火を使って追い払うためだった。


「射撃止め!全隊移動開始!第二作戦を発動する!」


 俺は城壁上に配置していた部隊を全員城壁から下がらせ、次の作戦に移行する。


「重装歩兵隊構え!お前達が鍵だ!」


「「「応っ!!!」」」


 この、今日の戦いに置いて、俺は城壁際での防衛は難しいと考え、意図して敵を城壁内に誘い込み、そこにキルゾーンを作り出して効果的に迎撃する事を考えた。

 第一波をある程度の所まで凌いだ後は炎の壁で侵入を防ぎ、一番攻め込みやすい城門からの侵入を誘う。

 駐屯地の東西が高く険しい山に挟まれていて、この北側から攻めるしか選択肢が無い以上、奴等は炎を避けて、入りやすい門から入ってくると俺は考えた。


「備えろ!」


 案の定、奴等は開け放たれた城門に殺到し、次々と中に入って来た。


「撃て!!」


 その瞬間、入り込んできたオーガに銃撃を浴びせ、次々と討ち取っていく。


「「「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」


 それでも前進してくるオーガを今度は、重装歩兵が迎え撃った。

 射撃部隊の支援を受けながら、オーガに相対した重装歩兵隊は、敵の攻撃に対して良く耐えて、見事に受け止めた。


「押せぇ!押し返せぇ!!」


 オーガの力は凄まじい。

 押し返そうと思っても、簡単には出来ない。

 力で負けている分を小銃やライフルを使って圧倒し、弓兵は城壁の外に向かって矢を放ち、敵の戦力を削いだ。

 その甲斐あってか、戦況は有利に進み、順調に推移していった。

 そんな時、青天の霹靂とも言うべき伝令が届いた。


「カイル兵団長!伝令です」


「何だ!」


 伝令は、駐屯地の南側から来た。

 急いでやって来た伝令は泥にまみれ、所々に血の後が着いていた。


「伝令です!南側より敵襲来!現在苦戦中!」


 報告の内容は、突如としてゴブリンの軍勢が南側に出現し、帝国軍がこれに対応しているが大分押し込まれており、このまま行けば、防衛線が破られる恐れがあるとの事だった。

 もしも、南側が破られれば、俺達も直ぐに全滅の憂き目に会う。

 それは何としてでも阻止しなければならなかった。


「・・・どうする・・・どうすれば良いんだ・・・」


 何かしなければならない。

 それが分かっていながらも、何も手が浮かばない俺の下にアダムスが声を掛けてきた。


「カイル団長、意見具申良いかな」


 自信に満ちた表情で作戦を伝えてくるアダムス。

 その、アダムスの作戦は、現在遊兵となっている騎兵大隊を使って南側に展開しているゴブリンを後方から脅かすと言う物だった。


「この作戦の為には敵を一度城門の外まで押し出さないといけない。現状でそれは非常に難しい事だ。それに、どうやって南側まで行くんだ?迂回路はかなり遠回りになるぞ?」


 俺が問題点を言うと、アダムスはそれらに答える。


「確かに、押し返すのは大変な事だけど、一瞬だけでも隙を作って貰えれば、後は自分達で抉じ開けられる」


 アダムスは本気だった。

 重騎兵を前にして一気に突撃して道を切り開き、必要ならば自分が先頭を走るとまで言った。


「迂回路はどうするつもりだ?」


「それならもう目星は着いているよ」


 東へ暫く行った先に狭い山道がある事が分かっており、そこを通れば南側に出られると説明された。


「その道は俺も知っている」


 確かに道はあるし、そこを通れば人の足でもニ時間足らずで通り抜けられる事も知っている。

 だが、そこは人一人がかろうじで通れる程の道幅で、道の中腹からは片側が崖になっていて、一歩踏み外せば数十メートルの崖下に落ちていく事になる。

 そんな道を馬に乗ったままの兵士たちが通れるとは思えなかった。


「私を信じて欲しい」


 しかし、アダムスは俺に懇願する。

 自分にならば出来る。

 自分の部下達ならば、きっと通り抜ける事が出来る。

 だから、任せて欲しいと、そう言った。

「・・・」


 無言で佇む俺を不安げな面持ちのアダムスが見詰めてくる。

 次の瞬間、俺は檄を発した。


「エスト!騎兵隊が出るぞ!門の外まで押し出せ!ハンスは何がなんでも踏み留まって道を確保しろ!」


「「了解!!」」


「アダムス!何をボケッとしている!言い出したのはお前だぞ!」


「・・・了解!」


 俺は、アダムスに賭けてみる事にした。

 そこには何も根拠などなく、成功する確率も極めて低い。

 しかし、他に何も妙案は浮かばない。

 ならば、いっそ全てをコイツに任せてみて、駄目だったら、その時に考えよう。

 そんな考えの下で俺は動き出した。


「反撃開始!」


 俺の号令が掛かると同時に逆襲が始まった。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


「押せ!!押せ!!」


 重装歩兵が盾を並べて前に出る。


「撃て!」!


 その後ろからは、銃兵達が敵を撃つ。


「僕に続け!僕達が道を切り開く!」


 そして、エスト達が斬り込んで行く。

 この時の兵達の働きは、これまでで最高の働きであり、その働きがあったからこそ、オーガを押し出して道を作る事が出来たのだろう。


「行け!アダムス!」


 その声に反応して馬が駆け出し、勢いよく城門を潜り抜けて行った。







 それから半時も掛からない内に、南側のゴブリン共を蹴散らした歓声が聞こえてきた。

 俺は賭けに勝ったのだ。


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