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十六話 ガラの戦い終局

少し遅くなりましたが、何とか投稿です。

相変わらずの駄文ですが、ご容赦下さい

「長槍構え!!」


 そう言って構えさせたのは、槍とは名ばかりの4m程の棒の先にナイフや包丁、中には先を削って尖らせただけの物である。

 しかし、それが800も並べば、その迫力たるや、中々の物である。

 本当ならばガラの町に立て籠り、万全の体制で敵を迎え撃ちたかったのだが、ガラの町は門が壊され、堀も埋められていて、籠城出来る状態ではなく。

 また、野戦築城している時間も無く。

 不本意な事に、戦力で劣る状態での平原会戦と相成った。


「敵勢接近!五分前!」


 敵の接近を知らせるハンスの声が耳に入る。

 やはりこの瞬間は決して慣れる事がなく、近づいてくる敵軍の足音は実に恐ろしい。

 それは目の前に並ぶ彼等も変わらない。

 いや、彼等の方がよっぽど恐ろしかろう。

 そんな彼等を鼓舞するために、俺はヘンリーの背で踏ん張って声を張り上げた。


「怯えるな!」


「「「!!!」」」


「恐れる事は何も無い!奴等も人間だ!胸を一突きすれば死ぬ!!」


 声を張り、身体中に気合いをみなぎらせ、心に浮かんだ恐怖心を吹き飛ばす。

 敵の姿が見えた。


「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」


 敵軍は声を上げ、顔の表情が見える位の距離で止まる。

 隊列は中央に軽装歩兵の横隊を置き、右翼に騎兵を、左翼には弓兵を配置している。

 弓兵は数は少なく、ショートボウを使い、歩兵の方は短槍が主な武器で、どちらも練度はあまり高くは無さそうではあるが、精鋭の重騎兵は鼻息を荒くして攻撃の瞬間を待ち構えている。

 一方の我々の戦列は、歩兵の横隊の中央に第一中隊と第二中隊を配置し、戦列の最右翼には第三中隊から出した二個小隊の弓隊を置き、横隊最左翼にガラの衛兵隊を配置、第四中隊は戦列の最左翼、敵騎兵正面に配置し、第三中隊の残りの三個小隊は、平原の左側の森の中かに隠した。


「カイル殿!」


「・・・なんだ、フィオナ嬢」


 結局、フィオナ嬢を追い返すことが出来ず、彼女に押し切られる形で戦いへの参加を許してしまい、今はこうして俺の周りをうろちょろしていた。


「本当に大丈夫なのですか?」


「問題ない!」


 心配そうに聞いてきたフィオナ嬢にそう言い切って見せたが、自信など全く無い。

 数で劣り、装備で劣り、練度で劣り、一体何で勝る物があるのであろうか。

 俺達が唯一勝る事の出来るのは、ただ、僅かな地の利だけである。


「弓隊構え!」


 号令に従った兵達が矢をつがえ、弓を引いた。

 第三中隊の弓兵は長弓を装備しており、威力、射程共に相手よりも優位に立てる。


「放て!」


 百にも満たない通常よりも長い矢が、空に放たれ、放物線を描いて飛んで行く。

 風に流された矢は、まばらに散らばって、敵の戦列に落ちていった。


「第四中隊に伝達!作戦を開始しろ!」


 俺の言った事を伝えるべく、ナジームが走る。

 それから僅ばかりの時間で四中隊が動き出した。


「「おおおおおおおおお!!」」


 第四中隊は声を上げて、敵の騎兵目掛けて突っ込んでいく。

 それから間もなく第四中隊が敵騎兵とぶつかり合い、第四中隊が逃げ始めるまで数分と掛からなかった。


「か、カイル殿!ま 、負けているではありませんか!」


「前進!」


 これで良い。

 作戦通り進んでいる。

 アダムス率いる第四中隊が林の中に向かって馬を走らせると、敵の騎兵もそれを追っていく。

 それを見届けて直ぐに歩兵隊を前進させ、その援護を弓隊にさせた。


「戦闘用意!!」


 俺達の動きに合わせて、共和国側も動き出す。

 両軍の戦列が徐々に近付いていき、遂には、槍の穂先が敵を掠めた。


「構えぇ!!槍衾を作れ!」


 六列横隊の歩兵は前列と二列目が千鳥になり、三列目以降の列が斜め上に槍を構えて後ろから押した。


「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」


「もっとだ!もっと声を張れ!!」


 自らを奮い立たせる為に、敵を威嚇し挫く為に、高らかに声を上げる。

 されど、この程度で怖じ気づく敵ではなく、士気が上がれど練度と装備は変わったりはしない。

 それでも尚、戦いは続き、我々は否応なく戦わなければならない。


「槍を振り上げろ!」


「「「応っ!!」」」


 最前列に命じて槍の穂先を高く上げさせる。

 それを隙と見た共和国兵が前に進み出てきた。

 俺は直ぐ様、次の命を発する。


「降り下ろせ!!」


 長槍の利点は、間合いだけではない。

 長槍は勢いよく降り下ろし、敵の体を叩ければ、例え刃が当たらなくても鈍器として十分強力なのである。

 皮と僅かな青銅の鎧を纏う軽装な共和国歩兵が相手ならば、これだけで被害を与え殺害する事が出来た。


「怯むな!敵はただの農民だ!」


「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」


 一瞬だけだった。

 一当たりして挫いたと思った敵軍は、その士気を直ぐ様に取り戻して再び前へと出て来て、我々を圧倒した。


「怯むな!落ち着いて戦え!」


 必死になって兵を鼓舞して戦列を維持していたが、それでも尚、押し負け始め、一直線だった戦列は中央が押し込まれて徐々に湾曲していった。


「もう少しだ!もう少しで中央突破だ!」


 敵の指揮官の声に、敵の兵達が奮い立ち、戦列中央に更なる圧力を掛けてきた。


「中央を固めろ!戦列を維持するのだ!」


 なんとしても突破を阻止せんと激を飛ばし、時には抜いた拳銃の引き金を引いて敵を撃ち殺す。

 そんな命懸けの戦いの最中にフィオナ嬢が話し掛けてきた。


「カイル殿!このままでは負けてしまいます!」


「今は話し掛けるな!忙しい!」


「クッ!」


 忙しいのが見てわからないのかと思いつつ、怒鳴り返して黙らせて、再び前を見据えるのだが、その後に信じられない事が起きた。


「ハアッ!!」


「はあっ!?」


 いきなり後ろから一騎の騎馬が飛び出した。

 その背に乗る騎手は肩まで伸びた赤毛を靡かせて、剣を振りかざして走った。


「ばっ!誰か止めろ!」


 結局、止める事は叶わず。

 中央の第一中隊を飛び越えて、敵に斬り込んでしまった。

 その操馬の手腕には目を見張る物が有るのだが、いかんせん、剣技が未熟な上に兜を被らず、甲冑も薄っぺらな皮の鎧である。

 なんとかせねばと思った次の瞬間、今度は第一中隊の指揮を執っていたエストが馬に乗って飛び出した。


「だあっ!あの馬鹿!」


 ヘンリーの背に乗り叫びながら俺は前に出た。

 そして、第一中隊のすぐ後ろまで進んできた。


「第一中隊!俺が指揮を執る!あの馬鹿を救うぞ!!」


「「応っ!!」」


「第二中隊!ハンス!暫く耐えろ!」


「了解!中隊!若様を援護するぞ!!」


 俺は乗り慣れたヘンリーの背で足に力を込め、鐙を踏んで手綱を短く巻いて握り直す。

 サーベルを鞘から抜き放って確と構える。


「行くぞ!一中隊前進!」


「「うおおおおおおお!!」」


 戦列を飛び出した瞬間に突き出された槍をいなして、一人を切り捨てる。

 更に返す刀で一人、槍をかわして更にもう一人切り捨てた。


「俺に続け!一中隊!俺に力を見せてみろ!」


 俺が発する激に反応した彼等は、怒声を上げて敵を殺す。

 荒々しくも頼もしい彼等は、次々と敵を殺し、道を開けた。


「エスト!早く来い!」


 俺と一中隊が切り開いた僅かな道の先で、エストとフィオナが互いに見事な操馬で敵をかわしながら助け合っている。


「はい!」


 俺の掛けた声に応じたエストがフィオナの乗った馬の手綱を握り、無理矢理に連れて来る。


「離せ!私はまだ戦うぞ!」


「良いから来い!」


「一中隊!退くぞ!戦列に加わり維持しろ!」


 何とか二人を助け、再び戦列に加わり戦う第一中隊。

 エストをさっさと指揮に戻らせた俺は、じゃじゃ馬を引っ張って後方に下がる。


「戦列を維持しつつ後退しろ!」


 俺がそう命じると、フィオナ嬢が噛みついて来た。


「何故下がらせるのですか!」


「五月蝿い!黙れ!」


 噛み付いて来たフィオナ嬢を怒鳴り付け、更に後退を指示する声を上げる。

 戦列は先程よりも中央が押し込まれ、戦列全体を後退させつつ完全なU字を描き、敵を包囲した。


「全体前進!敵は袋の鼠だ!圧倒しろ!」


「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」


「クソッ!押し返せ!」


 左右を取り囲む農兵は、槍を並べて敵を中央に押し込み、第一中隊と第二中隊が前へと出る。

 たったそれだけの事で敵の士気は大きく崩れ、我先に出口へと殺到した。

 味方同士で押合いになり、弾き出された奴は止めを刺され、内側にいる奴は押し潰されて圧死する。

 共和国兵達が敗走を始めた時、森の中から笛の音が響いてくる。


「ナジーム!合図だ!」


 コクリと頷いたナジームが笛を取り出して息を吹き込んだ。

 独特の低い笛の音が響き、それを聞いた第四中隊と第三中隊が森から飛び出して来た。


「目標!敗走する敵歩兵!中隊チャージ!!」


「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」


 先頭を走るアダムスが叫び、後に続く兵達が吼える。

 逃げる敵の隊に騎兵が突っ込んで行った。







「被害報告です」


 戦闘終了後、俺は町の中に用意された家の中で、事後処理に移った。

 今回の戦いにおいての兵団内で最も被害が大きかったのは第二中隊で、約40程が戦死している。

 兵団以外の農兵の戦死者も300程度出ており、全体での戦死者は約450、負傷者は200程である。

 対する共和国軍は、騎兵は完全に全滅させ、歩兵も殆どが討ち取る事が出来た。


「ご苦労」


 今回の戦いは、どうやって敵の騎兵を倒すかが最大の問題だった。

 もしも此方に騎兵がいなかったら、それだけで全滅させられる程に強力な敵であり、第四中隊も正面切った戦いは勝ち目なしと判断し、馬に乗った状態では、どうやっても勝てない。

 そこで、俺達は第四中隊を囮にして森の中に誘い込み、隠していた第三中隊の三個小隊で奇襲を掛けた。

 その際に第四中隊も馬から降りて白兵戦を仕掛け、騎兵の最大の武器である機動力を削いで、これに当たった。

 この作戦は見事に成功し、第四中隊は敵の騎兵を見事に釣り上げて森の中に誘い込み、殲滅する事に成功した。



「・・・疲れた・・・」


 はっきり言って。

 今回の戦いに勝てたのは奇跡だと俺は思う。

 もしも敵の騎兵を釣り上げられなければ、もしも中央を突破されていたら、農兵が逃げ出していたら、何か一つ上手く行っていなかったら、その時点で敗北が確定していただろう。


「私からも報告するよ」


「聞こう」


 部屋に入ってきたアダムスの報告に耳を傾ける。


「今回の戦利品は軍馬が300と手槍が600、剣が200、盾と矢、それと食料が少し手に入ったよ」


 軍馬が手に入ったのは、とても喜ばしい事だ。

 売って良し、乗って良し、体格も良いから荷引きにも使える。


「それと、捕虜が二十人いるけど、どうする?」


 捕虜の扱いが一番厄介だったりする。

 殺したり虐待しようにも意味の無い事はしたくないし、解放しても盗賊に成るのが目に見えている。

 生かしておいても飯代はタダじゃない。

 いっそ前世のジュネーブ条約やハーグ陸戦協定の様なルールでも在れば良いのだが、生憎そんなものは無い。


「取り敢えず奴隷にでもするか」


「それが良いね」


「他に何かあるか?」


「それは、もうすぐ来るよ」


「?」


 アダムスの言う事を疑問に思い、首を傾げていると、騒がしい足音が扉の外から聞こえ、それが段々と近付いてきた。

 そして、蹴破らんばかりの勢いで扉が開けられた。


「カイル殿!御説明を頂きたい!」


 入ってきたのは、フィオナ嬢だった。

彼女は入ってくるなり早口で捲し立て、俺を責める。

 要約すると何故、戦いが終わった今も徴兵を止めないのかと言う事らしい。


「何を言うのか、徴兵などと人聞きの悪い事は言わないで頂きたい。私はあくまで許された権限の中で兵の募集をしているだけだ」


「では何故徴兵した者達を解放しないのですか」


「彼等は望んで残っている者達です。私はちゃんと離隊希望を認めています」


 事実である。

 俺は辞めたいと思う者は止めはしない、働きに対する退職金の支払いも行っている。

 ただし、除隊の希望を取ってはおらず、その事に着いて敢えてその事を伝えていないだけである。

 それに、若者を中心とした半数は自分の意思で残ってくれている。

 だが、それでも尚、兵力が不足している。

 現在の兵団の兵力は約1000で変わらないが、戦力的には、ここに来る前よりも下がっている。

 それに、これからの事を考えると、最低でも後600は欲しい所だ。

 何と言われようとも、今ここでの募兵を止める訳にはいかない。


「我々には兵力が足りない。貴女方にはすまないがこの領の若者を兵団に引き抜かせて頂く」


 俺が強気に出れるのにも理由がある。

 それは、戦時中の現在、余程の事がなければ兵団の募兵権の行使を断る事は出来ず、更に一度制式に許可している以上、取り下げるのも難しいからである。

 仮に許可を取り下げたり、禁止するにはそれ相応の理由を提示した上で、国に申請しなければならず。

 現状では、ほぼ不可能であった。

 俺は心の中で勝ち誇っていると、思わぬ反撃に会い、思わず面食らった表情を顕にしてしまった。

 その反撃とは、彼女の一言だ。


「では、私も一緒に着いていきます!貴方の兵団に入ります!!」

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