十三話 兵団、次の戦地へ転進
今回の話しは短いです。
短い上にこれまで以上にクオリティが低く、見るに耐えません。
よろしくお願いいたします。
拝啓、父上、母上、私が戦地に出て早2ヶ月が過ぎました。
私はこの度、アスラン陛下の命により正式に兵団を持つ者として王国軍に席を置く身となりました。
恐れ多くも国王陛下から直々に軍旗を賜り、褒美まで頂く栄誉に預かる事が出来ましたのは、大変に光栄でありました。
さて、現在の我々はリーグ丘陵での戦いから約一月、集結してきた諸侯からの援軍と帝国軍の歩兵軍団を迎え入れ、三万を超す大軍で共和国と対峙しております。
対する共和国側も付近に散らばっていた兵をかき集め、増援等を含み二万人を国境沿いの穀倉地帯であるガラに集結させています。
ガラの領主であるケイン・ダーマ伯爵は侵攻の初期に既に戦死なされており、その家族が人質に取られている事も判明しました。
殿下は、この人質を助けたいとお考えのご様子で、陛下に上奏しているのですが、あまり芳しい反応はいただけないご様子です。
それはそうと、そちらの様子は如何でしょうか、皆息災でありましょうか、私はここに来てから随分痩せてしまった様で、服や鎧が大きくなってしまいました。
もしかしたら、私が帰っても一目では分からないかもしれません。
では、お元気で。
俺はそこまで書くとペンを置き、封筒に納めて封蝋を押した。
「この手紙を頼む。どうせ碌に読みもしないだろうが、一応送らなければな」
「・・・」
「どうした?」
封をした手紙を新しく着いた小姓に渡したのだが、反応が無くどうしたのかと顔を上げると、何か不思議そうに首を傾げている。
「婚約者さんには何も送らないんで?」
「ああ・・・受け取り拒否されるからな」
この小姓は東方移民の隊に紛れていた少年で、名をナジームと言い年齢は数えで十歳だそうだ。
俺の身の回りの世話をする奴が必要になった時に、見掛けて小姓にしたのだが、いちいち一言多いと言うか、余計な事を言う癖がある様で、度々俺を困らせてくれる。
「やはり嫌われているのは本当だったんで?」
「・・・まあな」
「顔ですかね?」
「早く行け」
俺がそう言うと、ナジームはパタパタ駆けて行く。
そこに入れ替わる様にハンスとエストが入ってきた。
「彼は元気が有りますね」
「有りすぎると僕は思うけどね」
「二人とも隊の調子はどうだ?」
と問うと二人は口を揃えて、良くも悪くも無いと言った。
あの後、俺の兵団は戦時特別編制から正式な常備編制の兵団として、軍旗を掲げるカイル・メディシア兵団として改めて結成され、それに伴って兵団を幾つかの中隊を内包する大隊とした。
王国には大隊や中隊と言う単位は無いため、兵団内で使う言葉であり、正規の編制単位としては、概ね部隊であり、二人は部隊長に就任した事になる。
現在の兵団は凡そ1000の兵力を持ち、一個大隊と同等であるが、兵団としては兵力不足である。
そんな兵団の編制は、兵団本部の下に四個の戦闘中隊と一個支援小隊と工兵小隊からなり、中隊は第一、第二を歩兵中隊とし、第三中隊は散兵偵察中隊、第四は騎兵中隊となっており、ここに衛生、輸送、補給等を纏めた支援小隊と工兵小隊を入れて、現代風に言う所の諸兵科混成大隊の様になっているが、実際は唯の寄せ集めである。
さて、この二人は中隊長と言う訳で、エストが第一中隊長の大尉、ハンスが第二中隊長の中尉になっている。
第一中隊は主に傭兵や剣闘士、東方移民等200名が所属する白兵戦闘の専門部隊で、装備は主として剣と盾、短槍である。
第二中隊の方は、農民が主体で編制され、武器は全長4mの長槍である。
「やはり苦労している様だな」
と言えば、直ぐに反応を返してきたのはエストだ。
「全くだよ、彼等と来たら粗野で乱暴で頭の悪い、優雅さの欠片も無い野蛮人ばかりで全然人の話を聞かない」
「まあ、確かに奴等をコントロールするのは困難な事だろうが、そこは指揮者足るの技量が試される所だ。何とか頑張ってみてくれ」
項垂れるエストを視界の脇に追いやって、今度は、ハンスの話を聞く。
「お前はどんな不満があるんだ?」
「いえ、不満と言う訳ではありません。ただ、不安と言うか、心配と言うか・・・」
「何があったんだ」
話を聞くと第二中隊は練度と体力の不足が懸念され、槍の扱いになかなか習熟せず、防衛はともかく、攻撃にはとても参加させられた物では無いとの事だ。
「・・・一体どうすれば・・・」
「お前・・・やつれたな」
「若様の方こそ」
「入るぞ」
そんな時に天幕に入って来たのは、一人のダークエルフの青年だ。
「どうした、皆、項垂れて」
「単なる愚痴の言い合いで気が滅入っただけだ。用件は何だ?シモン」
言葉の違いにより不思議な喋り方の彼は名をシモンと言い、階級は中尉。
小麦色の肌に長く黒い髪、長身の身体にバランス良く着いた筋肉の絶世の美青年であり、第三中隊の隊長である。
「俺も、愚痴を、言いに、来た」
「お、おう・・・」
彼の率いる第三中隊は散兵偵察中隊として、ダークエルフやライカン族、それに黒人と猟師で構成され、人数は200人程である。
「で、何だ?言ってみろ」
「ライカンが、戦い、したい、言っている」
「あいつらか」
「彼等か」
「黒い人、も、戦い、したい」
リーグ丘陵の戦いの後、奴隷だった彼等の処遇を任された俺は、彼等を解放する事にした。
東方人は殆どが残り、負傷者や年老いた者達が王からの吉報を伝えに帰って行った。
その吉報と言うのは、王の直轄領で東方移民を受け入れるとの事で、それを伝える者以外は金稼ぎのために残る。
他の者達は、まずダークエルフは女と若すぎる者、家族を持つ者が森へ帰り、黒人達は小数を残してダークエルフに着いて行った。
剣闘士は皆残った。
残った理由はそれぞれで、ダークエルフは森の外の事を勉強するのと、戦士として逃げたくないからで、黒人は人里で情報を集める為だそうだ。
剣闘士は行く宛が無く金を稼ぐ為である。
犯罪者達は殆ど死んでしまい、生き残りは、以後も奴隷として俺の監督下に置かれる事になった。
シモンも奴隷ではなくなった為、中隊長に任命する事が出来た。
「次の、戦いは、まだか」
「そう言われても、前線からのお呼びは掛かって無いな」
「そうか」
用件が済んだシモンはさっさと天幕から出ていってしまい、ハンスとエストも程無くして中隊の下へ戻って行った。
その後、俺も天幕を出て、第四中隊が訓練している場所へと歩き始めた。
道中、支援小隊と工兵小隊の視察をしつつ、彼の所へ向かう。
支援小隊は人員には特筆するべき所は無く、工兵小隊の方は、ドワーフと犯罪者奴隷等で構成され、両小隊は兵団指令部と合わせて行動する事が多く、これでほぼ中隊扱いしている。
「中隊!止まれ!」
号令が掛かった彼等、第四中隊は一糸乱れぬ動きで俺の目の前で止まり、次の指示を待っている。
そんな中隊から一騎の騎馬が出てくると、俺のそばに来て騎手が馬から降りた。
「やあカイル、一体何の用かな?」
「様子を見に来たぞ」
「それはありがとう」
第四中隊は兵団唯一の騎兵戦力で、その人員は主に東方移民で構成され、この他の隊員は乗馬経験のある農民とアダムス騎士団からの人員がいる。
あの戦闘の後、アダムスの旗下にいた者達は、その殆どがオルグレン領に戻り、農民は解散、兵士や騎士は元の隊に復帰した。
しかし、騎士の中にはオルグレン騎士団に戻らず、我が兵団に加わり、この第四中隊の一員として戦ってくれる事になった者達がいた。
彼等が兵団に入った理由が、この中隊の隊長にある。
「調子はどうだアダムス」
彼、アダムスが第四中隊の隊長であり、兵団最強の戦士である。
「しかし・・・人生とは数奇なものだ」
「と言うと?」
ふとアダムスが口を開き遠くを眺める。
まあ、確かに、こいつの人生はなかなか数奇な物かもしれない。
何せ、エリート街道を歩んでいたかと思えば、操られて裏切者になり、終いには死んだ事になって別人になった。
かと思えば、俺の麾下で中隊長たる大尉として兵を預かる立場になっているのだから。
「そう言われると凄いな」
「そうでしょう」
あの日、俺はアダムスと二人、天幕の中で向かい合って話をした。
「・・・何故、殺さないんだ?」
「死にたかったのか?」
唐突に言うアダムスに聞き返すと、アダムスは答えず、俺も無言のままでアダムスから切り取った金色の髪を弄んだ。
そうして暫く互いに無言で過ごしていた時、俺はアダムスに言った。
「俺は、お前の事が嫌いだ」
「・・・」
「別にお前が悪い訳じゃ無い。お前が何かをした訳ではない。・・・だけど、お前が嫌いだ。心底嫌いだ。今すぐ殺してやりたい」
俺がそこまで言うとアダムスは、それまで閉じていた口を開いて言った。
「なら、何で殺さないんだ?今なら簡単に出来るだろ」
と、そう聞いて来た。
確かにアダムスの言う通り、今なら簡単に殺す事が出来る。
しかし、俺はアダムスを殺さない。
「違う」
「?」
「殺さないんじゃない。殺せないんだ」
「どういう事だい?」
「お前は有能な人材だ。そんな貴重な人材を無駄には出来ない。だから、お前は、これからはアダムスではない別の人物として、俺の部下として活用しようと思う」
その俺の言葉を聞いたアダムスは、驚愕に満ちた表情で俺の事を見返して来る。
そんなアダムスに対して続けて言った。
「お前はこれ迄の人生を棄てて新たな人生を歩むんだ。俺の下で、俺の兵団で、死ぬまでな」
言いたい事は言い切った。
さて、アダムスは何と言って来るだろうか。
そう思っていると何やら考え込んでいる様子のアダムス。
何を考えているのかと聞こうとしたその時、うつ向かせていたその顔を上げて言った。
「良し!その話乗った!」
「あ?!」
「とすると、名前も考えないといけないな!顔は仮面でも着ければ良いか!な!」
何て事があり、アダムスは仮面で素顔を隠し、アラン・スミスとしてカイル・メディシア兵団第四中隊隊長の中尉となった。
更にどこで知ったのか、アダムスの配下にいた騎士達も合流してしまった。
「なあカイル」
「なんだ?」
「良かったのか?」
「何がだ?」
「私はこうして生きている訳だけど、表向きには君が私を殺した事になってしまったのだろ?」
「それがどうした」
「君には汚名を着せる事になってしまっただろう?」
アダムスがこう言うのにはそれなりの理由がある。
それはアダムスが操られていた事が公になり、諸侯の中からアダムスの処刑への反対意見、執行した俺に対して非難の声が上がった。
しかし、公式記録では既に刑は執行されてアダムスは死んだことになっている上に、王家の判断を簡単に覆す訳にもいかず、アダムスの名誉は回復されることなく裏切り者の罪人として後世に残される事になった。
ただし、遺族への慰問や批判に対する対応として俺に対するアダムス討伐の褒賞は見送られることになり、無期延期になった。
しかし、その後のアレクト殿下の個人的な物質の支援や、アダムスに着いてきた人員等により、傍目には俺が褒美を受けた様になってしまい、その非難が更にのし掛かってきた。
因みに、アダムスが生きている事は、俺とエスト達以外では陛下と殿下、宰相、ペイズリー卿、ローゼン公爵等が知るところであり、諸々の事情や思惑によりアダムスが生きている事は秘匿され、非難の矛先は俺個人に向けられる事が決定されてしまった。
この事については後日、殿下が直に謝罪に訪れ、その際には陛下等の書状も届けられ謝意を示された。
「別に構わん。どうせ元々嫌われ者だったんだ。今更誰に何を言われようが気にはしない」
嘘だ。
本当はスッゴク傷付いてるし悲しくなる。
やはり人に嫌われると言うのは、何時まで経っても慣れる物ではないし、悪口を言われ後ろ指を指されるのも辛い物だ。
「本当に・・・大丈夫かい?」
「・・・問題ない」
その言葉を最後に俺は踵を返して天幕に戻った。
それから三日後、兵団の宿営地に殿下が訪れた。
「やあカイル。その後はどうだ」
天幕で手紙を書いていた時、いきなり入ってきた殿下に驚きを隠せず跳ね上がった俺は、慌てて跪いた。
「カイルよ、私に対しては一々跪かなくても良い」
「しかし・・・」
結局、殿下に押し切られた俺は、これ以降は殿下に対しては略式の礼も不要と言う事になってしまう。
取り敢えず椅子に座って向かい合った俺と殿下は、ナジームに言って用意させたお茶を一口飲んでから、話を始めた。
「さて、カイルよ、今日はお前に頼みがあってきた」
「頼みですか?」
俺は、少し不思議に思った。
と言うのも、俺は殿下の麾下にある身であるのだから、頼み等と言わず、命令を下せば俺は従うしかないのだから。
それを素直に殿下に伝えると、殿下は少し言い辛そうにしながら言った。
「うむ・・・コレは命令とかそういった風に出来る問題ではない。コレは私の個人的な願望なのだ」
「個人的な・・・ですか」
「ああ」
殿下は、茶を一息に飲み干すと立ち上がって、俺に背を向けると話し始めた。
そして、その殿下の頼みを聞いた俺には、断る事は出来ず、二つ返事で引き受けると、上機嫌の殿下は天幕から去って行った。
「諸君。たった今、我が兵団に指令が下った」
各中隊長を集めての会議を開き、殿下からの指令を伝える。
俺の発した言葉を耳にした瞬間に、彼等の眼に緊張と興奮の色が宿った。
「それで若様。どの様な指令が下ったのでしょうか」
「それを今から伝える」
殿下からの指令の内容は簡単に言えば救出作戦だ。
「此より我が兵団は西方のガラへ入る。この指令の意は、現在敵により捉えられているダーマ伯爵家の方々を救出し、現地の領民を武装して領土を奪還するにある。出立は明朝、夜明けと共に発ち、同日、新月の夜陰に紛れて侵入し、以後は敵からの露呈を避けての行動になる。心して掛かれ!」
「「「「応っ!!」」」」
かくして俺は再び戦火の中に身を投じる事になってしまった。