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外伝 僕の戦いはコレからだ

 こうして久々に袖を通す軍服は、実にあの戦い以来だと思うと長いような短いような、不思議な感じがする。

 黒いスラックスに真っ赤な詰め襟のジャケット、襟に輝く少佐を現す階級章、腰には愛用のレイピアを吊す。

 あの日以来の軍装は、少しキツく感じた。


「エスト中佐」


「今行くよ」


 呼び掛けたナジームに返して外に出た。


「二年ぶりだ・・・二年ぶり・・・彼が来るまで保たせられるかな?」


 呟く僕は、自然と口に笑みが浮かぶ。

 退屈な要人の護衛から開放され、飽き飽きとした学園のぬるま湯から漸く上がる事が出来る。

 そう思えば、どんな逆境も危機も、人生を彩るアクセントでしか無い。

 そして、何よりも、僕の人生で一番に強い色を放つ彼が帰って来る。

 ここに、彼が帰ってくる。

 そう思うだけで、言い表しようのない程に大きな喜びが溢れてくる。


「ふふっ・・・」


「何を一人で笑ってんだ?頭が可笑しくなったか?」


 思わず口から溢れた僕の声に、後から声を掛けてくる者が居る。

 ソイツの声を聞くだけで虫唾が走り、さっきまでの気分が台無しにされる。


「・・・君か・・・ミハイル大佐殿」


 憎々しい事に、この無能が彼と同じ階級だと言うのは我々に対する冒涜だとしか思えない。

 僕はロムルス殿下の事は嫌いでは無いが、この人事に関しては納得が行かない。


「態々僕の所に来るなんて、君はよっぽど暇なようだね・・・大佐殿」


「部下の掌握は指揮官としての責務だと自負しているからな・・・お前みたいなのでも使ってやるよ」


「随分な自信だ。過剰にも程があるよ。それとも君の足りない脳みそは僕達に負けた事を、もう忘れてしまったのかい?」


「っ!・・・装備が同じなら負けはしねぇよ」


「滑稽な言い訳をありがとう・・・でも、忘れない事だ・・・今度の敵は此方よりも数の上で勝っていて、しかも装備も同じだ。負けて言い訳しても誰も聞いてくれないよ」


「・・・分かってらぁ・・・そんな事」


 この男は兎に角、鬱陶しく腹立たしい。

 コレがどうでも良い戦いなら、どさくさに紛れて始末してやる所だ。

 だが、そうは行かない。


「敵は戦の申し子と呼ばれるレオンハルト第二王子だ。生半可な相手では無いよ」


 此方は既にソレナ川の防衛線を突破されている。

 王国中央軍は、コレまでに三度レオンハルト殿下率いる東部軍を押し止めようと戦ったが、三度とも撃破され、僕やこの男を出すしか無い程に切迫している。

 既に敵軍は直ぐ近くにまで迫ってきており、此方は王都から東に20kmの平原に布陣して敵を迎え撃つ。

 上級の将校が軒並み戦死したか、敵に寝返った為、此方の最高階級は先日、大佐としてロムルス殿下が連れてきたミハイルであり、彼が部隊の指揮尾をする。

 部隊の編制は四個歩兵連隊と二個騎兵大隊、一個砲兵中隊の凡1万で、対する敵東部軍は推定で2万人近く居ると見られている。

 此方の編制で新たに用いられた連隊はロムルス殿下が定めた編制で、三個の歩兵大隊を内包した2000人程度の部隊だ。

 連隊は兵団と違い、単一の兵科だけで編制されていて、この歩兵連隊を骨幹として他の兵科の部隊を組み込んだ師団を編制する。

 と言うのが殿下の理想だった様だけど、この今回のゴタゴタで上手く行かなかった。

 最終的に師団の編制が間に合わなかった所為で、指揮系統がゴチャゴチャになってしまい、それがコレまでの敗北に繋がっていると僕は思う。


「この際だから正直に言うけど、君、真面な指揮が出来るのかい?」


「・・・」


「僕は彼の下で上官には従う様に教育されたし、今の状況では我が儘も言っていられないから君に従ってやるけど、君は僕達に真面な指示が出せるのかい?」


 ミハイルは何も言わない。

 がっかりだ。

 情け無い。

 大して期待はしていなかったけど、この程度の男の指示に従わなければいけないのかと思うと、涙が出て来そうだ。


「・・・黙っていても状況は変わらないよ。特に指揮官が黙ったら部隊は終わりだ。指示が出されなきゃ兵士は動かない」


「分かってるさ・・・」


「何を?」


「俺が無能な事位分かってるよ・・・なんで俺なんかが・・・っ!」


 彼が全てを口にする前に、僕は彼の頬を殴った。


「それ以上は言うな」


「何!?」


「自信が無いなんて言葉は聞きたくは無い。そう言う時は嘘でも自信満々に答えるものだ。部隊は指揮官の言葉一つで動くし、指揮官の気分で部隊の雰囲気も変わる。指揮官が陰々滅々としていたら士気は落ちるばかりで上がりはしない」


「・・・」


「間違っても部下の前で弱気な姿は見せるな。指揮官は笑いながら部下に死ねって言うくらいが丁度良いんだ」


「そんなの・・・」


「出来ないなんて言うなよ。僕は元々君になんて期待はしていないけど、他の兵は違う。君がここに居る以上、常に自信に満ちて胸を張っている事は義務の一つだ」


 僕は情け無い上官に背を向けて歩き出した。

 僕の配置されたのは最右翼の第五歩兵連隊だ。

 最右翼は最強の兵士、最強の部隊が配置される栄誉。

 謡の練度にも装備にも差は無いだろうから適当に並べたのだろうけど、それでも最右翼の誉れを貰ったのなら、その責務を果たさなければならない。

 その気持ちを胸に、僕は居並ぶ連隊将兵に向かった。


「やあ諸君。僕が君達の連隊長だ」


「「「・・・」」」


 反応は何も返ってこない。

 だが、幾つかの怒りや憎しみの視線は感じた。


「この第五連隊は北部出身者が多いと聞いているけど・・・どうやら、何人かは会った事がありそうだね」


「「「・・・」」」


 やはり何も返ってこない。

 ただ整然としていると言うよりは、覇気が無いと言う方が近い雰囲気の連隊は、そのまま今の軍全体を現している様だ。


「・・・諸君。我々第五連隊は今日の戦いにおいて最右翼に配置されると言う栄誉を得た。この事の意味が分かる者が諸君の中に居るかな?」


 少しばかり、無言の中にざわめきが広がった。

 僕は、口角を上げて更に言葉を続ける。


「元来、軍の隊列に置いて、兵士の戦列に置いて、最右翼と言うのは最も有力な部隊、最も強靱な兵士が配される栄誉在る場所とされてきた。詰まり、我々はこの場に置いて最強の部隊だと認められたと言う事だ」


「「「・・・っ!」」」


 反応が返ってくる。

 先程までの注意の散漫としていた雰囲気が一転して、全員が此方を向いて集中する。

 そんな彼等に僕は更に言葉を放った。


「諸君!我々は最強と認められた!ならば我々には義務が生じる!それは、最強の兵士としての責務、最強の戦力としての有るべき姿!僕らは例え如何なる劣勢に立たされようとも、他に部隊が残っている限りは決して退いてはいけない!」


「「「!!」」」


 見回すと、此方を見詰める兵士達の眼に光が宿って居る。

 さっきまでは見られなかった煌々と輝く瞳が、僕を射抜く。


「何故ならば最強の戦力たる僕らが逃げれば、その恐怖は他の部隊にも波及する!僕らは全軍の最後の砦として、最後の一兵卒に至るまで戦い抜かなければならない!それが僕らに託された使命だ!!」


 そんなルールが本当有る訳では無い。

 逃げる時は精鋭だろうと関係なく逃げるし、耐える時は、どんな弱兵でも耐えきる。

 だけど、こうして言って置けば、ギリギリの極限の状態でも一度留まるかも知れない。

 敵の銃火砲火に晒されて士気が挫け、怖じ気づいて逃げだそうとした時に、一瞬だけでも躊躇うかも知れない。

 そして、その一瞬の躊躇いで持ち直すかも知れない。


「諸君!!嘗て敵味方に別れて戦った諸君!!友を殺し、殺された諸君!!今日と言う日に戦友として集まった諸君!!敵は余りにも強大な力を持っている!!だが、諸君も、そして僕も、強力な敵と戦うのには慣れている筈だ!!ならば何も気負う事は無い!!ただ、全力を尽くして敵に当たるだけだ!!ただ、敵を撃滅するだけだ!!」


「「「おおおおおおお!!!」」」


 まあ、士気は上がったと思う。

 何だかんだで良く言う事も聞いて、最低限の基本も出来ていて、余り過剰に期待しなければそれなりの戦力には成るだろう。


「第三大隊は予備兵力として残れ!!第一第二大隊は五列横隊になるんだ!!」


 大隊は四個中隊で600人程の規模だ。

 三個大隊で1800人、コレに大隊本部と本部管理中隊を加えて約2000人。

 兵団と比べて練度が低い為、三列横隊だと直ぐに食い破られると判断して、五列横隊を組ませ、また、第三大隊は予備兵力として残して右翼側に待機させた。

 ぼちぼちと他の連隊も配置を終え、戦列が形成された頃、目の前に敵の部隊が見え始めた。


「敵が来たぞ!!」


 誰かが叫ぶ。

 言われなくても分かっていると言い返してやりたくなるが、それを堪えた。

 現れた敵は存外に少なく見える。

 レオンハルト殿下を現す紋章も見えない。

 どうやら敵は全軍を投入せずに別働隊を此方に寄越した様だ。

 完全に此方を舐めきっているこの判断だが、それでも敵はコレまでの戦いで経験を積んでおり、決して楽観視は出来ない。


「戦闘用意!!」


 まだ距離は空いていたが、僕は早めに号令を出した。

 あの男からの命令を待っていても無駄だと言う僕の考えも有るが、それ以上に早めに戦闘用意をさせる事で、兵士が浮き足立つのを防ぎたかった。


「彼女との初めての夜を思い出すんだ!!アレほどには緊張はしないぞ!!」


「何言うんだアンタは!!」


 緊張を解そうとして僕の言った言葉に、一人が反応して言葉を返してきた。

 そんな彼に僕は言った。


「ひょっとして・・・彼女が居なかったかな?」


「んなっ!?」


「済まない・・・僕、彼女が居なかった事が無いから、そう言う発想は浮かばなかったよ」


「巫山戯んな!!俺にも彼女ぐらい居るわ!!」


 彼が叫ぶと、周囲から笑い声が上がった。


「無理しなくても良いよ。大丈夫、童貞でも大丈夫だよ」


「止めろ!!マジで止めろ!!」


「お前ら五月蠅いぞ!!少しは緊張感を持て!!」


 ミハイルが見かねて僕の方に叱責を飛ばしてきた。

 そんな、彼に僕も言葉を返す。


「君も未経験かい?まあ、何となくそんな感じの顔してるよね」


 更に笑いが上がる。

 それに対してミハイルは顔を真っ赤にして怒鳴り付けてきた。


「状況を見ろ!!状況を!!今、そんな事を話している場合か!!」


「ヤレヤレ、ユーモアの分からない男だ・・・そんなんだからモテないんだ」


 場の雰囲気は最高に和らいだ。

 戦場に居るとは思えない程に穏やかな空気になったが、敵の戦列が目の前に迫ると、やはり、緊張が走る。


「・・・っ!!」


 敵歩兵との距離は凡そ200m。

 既に砲兵中隊が敵に対して砲撃を行って居るが、如何せん威力の低い此方の砲は余り効果を上げず、敵は悠々と此方に迫る。


「着け剣!!」


 僕は、またもや早めに号令を発する。


「っ!着け剣!!」


 僕の号令に遅れてミハイルも部隊に命令を出した。

 最早、僕の号令に追従している有様のあの男の事は、僕は完全に無視して敵を見据えた。


「さて、どの程度抵抗できるかな・・・」


 誰にも聞こえないように呟いて、僕は久々の戦いに気を引き締める。


「全員確りと狙え!!敵に向けて引き金を引けば一発は当たる!!」


 敵の戦列の前進速度は、些か遅いように感じる。

 カイルの兵団では毎分50~60mの速度で行進を行うが、彼等はそれよりも断然遅い。

 恐らく毎分40m程度では無いだろうか。


「流石にカイルには敵わなかったか」


 そう考えると少し気が楽になる。

 世界最高の兵士が敵では無いと言う事が分かっただけで断然、戦いやすい。


「全隊!!前進!!」


 ミハイルが叫んだ。

 正直、少し号令が遅い気もするが、仕方が無く僕も復唱する。


「五連隊前進!!前へ!!」


 前進する戦列の行進は足並みが揃っておらず、五連隊が少し先に出てしまう。

 こう言う所で、矢張りカイルの兵団とは大きく違うのだと実感させられる。


「他の部隊と足並みを揃えろ!!」


 言ってみて、どうせ無駄だと心の中で思ってしまう。

 一度言って直ぐに実行できるなら、そもそも足並みが乱れる様な事は起きない。


「止まれ!!」


 敵との距離が30mを切った辺りでミハイルが停止を命じる。

 それと同時に、敵の戦列も行進を止めて射撃体勢を取り始めた。


「構え!!」


 号令と共に、戦列の最前列が跪き、その頭上で二列目が銃口を敵に向ける。

 対して敵の戦列は最前列が立ったままで銃を構えていた。


「狙え!!」


 実際に狙うと言うよりも発射の準備を促す号令を出す。

 30mの距離でも当たるかどうかは半々と言った所で、カイルの場合はもっと強力な火力を発揮する為に後10mは近づいていた。


「撃て!!」


「撃てっ!!」


 射撃はほぼ同時だった。

 此方が二列同時の斉射な分、敵よりも濃密な弾幕を張る事が出来、当然倒れる人数も敵の方が多かった。


「装填!!」


 射撃が終わると、直ぐに弾込めを始めさせる。

 カイルの兵団に比べて練度の低い彼等は一発の装填に凡そ40秒程掛かり、一分間に三発発射出来る兵団の兵士とは大違いだ。

 この弾込めの間、先程の射撃で前列に空いた穴を埋める為に、後列から前に兵士が押し出される。

 銃兵同士の戦いは、コレを繰り返して敵を士気を挫き、敵が逃げると銃剣を着けて白兵戦で決着を付ける事になる。


「落ち着け!!落ち着いて弾を込めろ!!」


 慌てると装填が遅くなる。

 それを分かっていた僕は落ち着くように声を出す。

 だが、ここで敵の方を見ると敵は予想外な動きを見せた。


「列交替!!後列前へ!!」


 敵の戦列は先程射撃を行った前列が装填をしている間に後の無傷な列が間を縫って前へ出て来た。

 その様子を見た瞬間、僕の背筋に冷たい物が流れる。


「不味い!!」


「撃てっ!!」


 遅かった。

 僕が声を出すと同時に、前に出て来た敵の後列が射撃体勢に入って斉射を浴びせてきた。

 こうなると、敵の次の動きが分かる。


「列交替!!」


 予想通りに、敵はさっきまで装填をしていた列が再び前に出て来た。


「構え!!」


 僕は慌てて号令を出した。

 他の連隊は未だに弾込めが完了しては居なかったがそんな事は言っていられない。


「狙え!!」


 僕が言うと同時に、前に出て来た敵が射撃体勢を取った。


「撃て!!」


 僅かに僕の方が先に号令を発しただろう。

 五連隊は最初よりも7m程近付いてきた敵の戦列に斉射を見舞い、正面の敵戦列に被害を与える事が出来た。

 しかし、その直後の敵の射撃が他も味方連隊に襲い掛かり、五連隊以外はほぼ無防備の状態で至近距離の射撃を受ける事になった。


「各個に撃て!!」


 ここに来て、僕は統制射撃を諦めた。

 敵が余りにも近づきすぎていて次の敵の斉射には間に合わないと判断して、少しでも敵に被害を与えられる方を選んだ。

 敵の戦術はとても恐ろしく上手い方法だ。

 敵の射撃は一度毎に此方に近づくため精度が上がり、また交互射撃故に射撃間隔が普通の横隊斉射よりも短く出来る。

 実に合理的に敵を殲滅出来る恐ろしい戦術だ。


「ミハイル!!」


 僕が声を上げるが、ミハイルからは返事が返ってこない。

 別に死んだわけでは無く、他の被害甚大な部隊の掌握に手こずっているようだ。


「ちっ!」


 思わず舌打ちして、僕は覚悟を決めた。


「第五連隊!!突撃に!!」


 敵は既に20mの位置にまで近付いてきている。

 これ以上至近距離で斉射を受ければどうしようも無くなる。

 幸い、この距離ならば十分に突撃の威力を発揮できる筈だ。


「突っ込め!!」


 五連隊は平民ばかりの部隊とは言え、中々に豪胆に僕の指示に従ってくれた。

 士気だけは高いと言うのに助けられた形だが、そんな僕達の走る先で、敵の戦列が銃口を此方に向けている。


「撃てっ!!」


 突入の寸前、極至近距離で第五歩兵連隊は敵の斉射を受けた。

 これ程の至近距離での斉射ともなれば、最早外す事の方が難しく、先頭を走っていた兵は間違いなく射殺されただろう。

 だが、それでも目的は達せられた。


「はああああああ!!」


 愛用のレイピアは何時も通りに僕の狙った通りに、目の前の敵の兵士の右眼を貫いた。

 声を上げながら、僕はもう一人の敵兵に向かい、首を斬り付けて蹴り倒し、更にその隣の一人の胸を貫く。


「恐れるな!!」


 自分に対して奮い立たせるように叫びながら、僕は次の敵を探す。

 周囲では僕と共に敵の戦列に突入した五連隊の兵士が拙い動きで銃剣を着けた小銃で敵に襲い掛かる。


「ミハイル!!」


 僕は前を向いたまま叫んだ。

 どうせ、ここで撃ち合っても埒があかない。

 折角、僕と第五連隊が突撃を成功させて穴を開けたのだから、それに続いて白兵戦を挑んだ方が良い。

 僕はそう思って声を上げた。

 しかし、幾ら敵を斬り伏せても、他の連隊は来なかった。


「ミハイル!!」


 奴等は逃げ出したのだ。

 ミハイルは全隊に後退命令を出して後へと下がり、体勢を立て直すつもりらしい。

 どうやら僕は殿にされた様だ。


「っ!!あのクソが!!」


 悪態を吐きながら更に一人二人とレイピアの餌食にする。

 徐々に数を減らす第五連隊は遂に士気を失って下がり始めた。


「限界かな」


 この突撃は無意味に終わった。

 無念さを感じつつ、僕は再び叫ぶ。


「退却!!第五連隊退却!!」


 そう叫ぶと、動きは速かった。

 僕の声を聞いた五連隊の兵士は一目散に走って逃げ始め、その様子を見た他の兵士も後に続いて疾走する。

 何とも情けの無い姿だが、こうなってしまうとどうしようも無く、僕も情け無く敵に背を向けた。


「追撃だ!!敵を逃がすな!!」


「簡単には逃がしてくれないか・・・」


 今度は敵が攻勢に出る番だった。

 逃げ惑う僕と五連隊に対して、敵の騎兵が追撃を掛けてくる。


「っつあ!!」


 逃げる最中、僕は後から迫ってきた敵の騎兵の槍を弾き、片手斧を取り出して投げ付けた。


「走れ!!味方に合流しろ!!」


 ミハイルは体勢を立て直すために後退した。

 ならば、この先に味方が戦列を整えて待っているはずだ。

 そこまで逃げ切れれば敵の追撃を振り切れる。

 此方から逆襲に出られる。

 そう思いながら僕は走り続け、そして僕の目に期待以上の物が写り込んだ。


「撃て!!」


 耳に轟く銃声は一つに列なり、青白い魔弾が高速で僕の頬を掠めながら背後の敵を地に落とした。

 僕は満面の笑みを浮かべて真紅の旗の下に走った。

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