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一話 転生それから出征

 俺は転生した。

 そう言うと誰しもが俺の正気を疑いそうだが、俺は自分自身を正気だと思っている。

 かつて自分は間違いなく日本に住んでいて、職を転々としながら暮らすフリーターで、いい歳で親の脛をかじりつつ、自堕落に暮らしていた。

 それがある時、気が付いたら言葉も喋らない赤児になっていて、見たことも無い外人が聞いたことも無い言葉を喋っていた。

 最初は、それこそ夢か妄想の世界にトリップしてしまったのかと思い、その内覚めるだろうと考えていたのだが、結局、何時まで経っても夢が覚める気配は無く、十歳を超えた頃から諦めの境地に達して新たな人生を前向きに歩む事にした。

 しかし、人生と言う奴は、俺の想像以上に厳しい物の様だった。

 貴族の長男と言う、破格のスタートだった筈の俺の今生は、父とは年に一度か二度しか会話を交わさないと言う程に家族との折り合いが悪く、それと言うのも俺の容姿が全ての元凶だ。

 日本人らしい平たい醤油顔と僅かにクセの混じる固い黒髪、折角美形の両親の下に生まれたのだからと期待していた俺の容姿は、御世辞にも優れているとは言い難く、周囲の人に母の不逞が疑われる迄に至ってしまう程だった。

 あわや、両親の離縁から母の実家との戦争寸前と言う所で、父方の先祖の一人に俺とそっくりな人物が居た事が分かり、更に母方の曾祖母の髪が黒髪で在った事が判明すると、母の不逞疑惑は一応の終息を見せた。

 だが、一度は間男の息子と思って接した父と、全く非の無いにも関わらず疑われて散々な仕打ちを受けた俺との間には広く深い溝が出来てしまったのである。

 また、母が俺を身籠もり産みおとしたのは12歳の頃の事で、当時の母の精神性では母性等と言う物が確りと出来上がっておらず、更に不逞を疑われる原因となった俺に対して存在を疎んで無視する様な態度を取ったのだ。

 その為、家の中での俺は腫れ物扱いで、誰も関わりを持とうとはせず、六歳の時に死んだ叔父の一人息子が養子として引き取られて来ると周りは一つ年下の養子の弟を跡取りとして扱った。

 父と叔父は非常に似通った顔立ちをしており、それ故に弟も父とそっくりで、並んでみれば実の親子の様な二人は、時を同じくして生まれた愛らしい妹とそれを抱く母を合わせた四人家族は実に絵になった。

 それから8年が経った現在、この顔の所為で婚約者には嫌われ、父との不仲故に社交の場においては、次期伯爵は弟になると言う噂がまことしやかに囁かれている俺は、非常に珍しい事に父に呼び出された。

 遂に廃嫡か若しくは入った瞬間に殺されるのかと緊張しつつ、俺は父の待つ執務室の扉を叩いた。


「入れ」


 程なくして中から入室許可が降りると、俺は早速中に入る。


「失礼いたします」


 部屋では父が書類を眺めながら待っており、俺が入ると書類を置いてこちらを向いた。

 今年で三十四歳になる父は、茶に近い赤毛に185cmの長身の彫りの深い顔立ちで、ハリウッドスターと言われればしっくり来る感じの男前だ。

身体の小さな母に似て今現在の身長が160cmの俺は、この国の同年代と比べて背が低く、こう言う所でも父との違いを実感しては似ていないと思う。

 そんな事を再確認する様に考えていると、父がゆっくりと口を開いて告げた。


「戦地に赴いてくれ」


 この時の俺の驚きたるや、とても筆舌にし難い。

 そんな驚天動地の域にまで達した状態の俺を余所に、父は話を続けた。


「取り敢えず領の騎士団を再編している。領民からも兵を集めるつもりだ。お前はそれらを率いて私の代理として戦地に行ってくれ」


 我がアウレリア王国の西部が隣国のザラス共和国による侵略を受けており、前線では苦戦を強いられているのだと言う。

 そこで、各諸侯に対して国王から参陣要求が出されたのだが、我が国の財務卿である父は、領軍を率いて出陣する事が出来ないと言う事になり、長男である俺に領主代理として兵を率いて前線に行って欲しいと言うのだ。


「それは決定事項でしょうか?」


 答えは分かりきっていたのだが、一縷の望みを掛けて訪ねた。


「悪いが決定事項だ従って欲しい」


 父、ネイサンから数えて三代前始まった我がメディシア家は、俺の生まれる直前位に今の領を任されて伯爵位を叙爵された新興貴族と言う見方が強く、大した力を持たない我が家は、ほんの少しの事で吹き飛ばされる様な立場で綱渡りをしている常態だ。

 決して潤沢とは言えない財政状況では戦費を支払って済ませる事も出来ず、折角掴んだ伯爵位を失う訳にも行かず、俺を戦地に送って義務を果たす他に道は無かった。

 全く表情を変えずに言う父の言葉に俺は、軽い目眩を感じながらも何とか姿勢を正したまま扉まで下がり、一礼そして退室した。

 その後、余りの事に額を押さえながら自室に戻ると、暫くベッドに座って項垂れた


「・・・マジか・・・」


 貴族として、この国の一員として、何時かは戦場に立つ日も来るだろうとボンヤリと思ってはいたが、まさかこんなにも早くその時が来るとは夢にも思っていなかった。

 それから五分か十分か、或いはもっと長い時間か悶々としていた俺は、一言呟いて立ち上がった。


「よし、行くか」


 立ち上がった俺はクローゼットに近づくと、その中からサーベルとトマホークを取りだしてベルトに挿すと部屋を後にする。

 それから玄関から外に出た俺は厩に向かった。


「ジョナサン」


 俺が声を掛けたのは、我が家の厩番をしていたジョナサンと言う老人で、この屋敷の中で一番会話が多い人物でもあった。


「何かご用ですか?若様」


「ああ、ヘンリーを出してきてくれ。少し出掛けてくる」


 俺が言うと、ジョナサンは軽く礼をして、そそくさと厩の中に入って行き、それからしばらくして、ジョナサンが一頭の馬を連れて出てきた。

 馬体500kg程のサラブレットに似た黒鹿毛の立派な雄馬は、俺を視界に認めるや走り寄ってきて、顔をすり寄せて来る。


「今日も頼むぞ、ヘンリー」


 鬣を撫でながらそう言うと、まるで俺の言っていることを理解しているかの様に小さく嘶いてから、俺が乗りやすいように踏み台の前に移動していった。


「ヘンリーはとても賢い馬ですな。まさに名馬と言うに相応しい」


 ジョナサンが目を細めながらそう言うと、俺もそれに同意して言った。


「ああ、まさに名馬だ。俺に取ってはこれ以上の馬はいない。過ぎたる名馬だ」


 ヘンリーは俺以外を背中には乗せようとしない。

 とても気性が荒く、我が家にいるすべての馬が懐いている俺の弟や、卓越した騎手でもある父ネイサンですらも、決して背には乗せようとせず、厩番のジョナサンにすらも完全には懐かなかった。

 ただ、俺にだけ従い甘えてくれる。

 そんな風に思いながら言った俺にジョナサンが返した。


「いいえ、若様。それは違います」


「?」


「ヘンリーは若様が大好きで、若様に乗ってもらいたい。若様と一緒に居たいと思うからこそ名馬たり得るのです。もしも若様の下からヘンリーを離せばその瞬間から名馬であることをヘンリー自ら辞めるでしょう」


 そう言うジョナサンの表情は、深く濃い皺が幾筋も刻まれているにも関わらず、少年の様に無邪気で輝いていた。


「オマエは、本当に馬が好きなのだな」


「ええ、ゾッコンです」


 俺は間髪入れずに即答するジョナサンから離れてヘンリーの下へと行き、彼の背に乗って走り出した。







 ヘンリーの背に揺られながら走る事40分、領都から外れた森の奥にある農村にやって来た。


「若様じゃないですか。一体どうしたのですか?」


 声を掛けてきたのは村長だった。


「村長、徴兵だ。この領から兵を出すことになった。度胸が据わった若いのを連れて行くぞ」


「なっ・・・」


 単刀直入に伝えた俺の言葉について行けず、固まってしまった村長を余所に、村の中を進んで行くと体格の良い三人の若者を見つけた。


「良し」


 俺は右手でサーベルを抜き、ヘンリーの腹を軽く蹴って若者達に向かって走り出した。


「おおおおおおお!!」


「「!!」」


 突然の事に驚いた若者は、転がる様に散り散りになってしまい、手に持っていた鍬や斧を置いていってしまった。


「・・・駄目だな」


 そう呟くと馬首を返して村人を探した。

 それからも村の男を見掛けては脅かして歩き、その度に逃げられていたのだが、ある若い狩人を見掛けた俺は、妙な予感がして、その狩人の若者にトマホークを投げつけた。


「うおっ!!」


 投げられたトマホークは勢い良く飛んでいき、若者の頭を割ろうとしたが、すんでの所で若者が手を伸ばし飛んできたトマホークを掴んで見せた。


「一体何なんだ?」


「おい」


 俺は狩人に近づいていって馬上から声を掛けた。


「はい?」


「お前は合格だ。名を言え」







 そんな感じで、領中から農兵500を集め、僅かに二週間ではあるが訓練を施し、これに領騎士団から100人を抽出して総勢600を引き連れて、戦地に向けて出立した。

 僅かな見送りの中を、愛馬であるヘンリーの背に揺られながら、この先の事を思う俺の腰には、サーベルと拳銃が入った、革のホルスターが吊られている。

 この世界は所謂中世欧州風の世界であるが、幾つかの分野では、同時期の地球よりも進んだ技術持ち、銃器も存在していた。

 ただし、火薬の代わりに魔法を使い、鉛玉の代わりに魔法を打ち出す魔法銃と呼ばれている。

 流石に現代の様な代物ではなく、初期のフリントロックの様な物で、装填は銃口から魔法石を詰め込み、一発毎に再装填する必要があるマズルローダーのシングルショットである。

 しかし、俺の銃は複数装填のブリーチローダーで、弾薬も一体型のカートリッジになっていて、ライフリングも施してある為、他の銃とは一線を画す威力と射程となっている。

 拳銃はシングルアクションの六連発リボルバーで、装填機構はブレイクアクション、弾薬は強力な45口径のロングカートリッジを使う。

 拳銃以外にも八連発のレバーアクションリピーターカービンと水平二連装のショットガン、 単発ボルトアクションライフルがあるが、これらは領内の鍛冶士と時計職人、家具職人、彫金細工師等を集めて作った世界に二つと無い俺の専用武器である。

 ドワーフがいるこの世界の冶金術や加工技術などは同時期の地球よりも格段に発達していて、機械式の時計などが地球よりも早く普及していた為に部品の製作にはさして苦労はしなかった。

 また、火薬を爆発させる実弾の銃よりも部品へのダメージが少ないため強度が低くても問題にならない上に、雷管等に使う薬品が不要である事、部品の数が少なくて済む等の事が重なった結果、こういった銃器が作る事が出来た。

 ただし、魔法銃は同じクラスの実弾の銃に比べて、弾速には優れるが威力が若干低いので注意が必要であり、また、こういった連発銃は制作費用が高く、制作に時間も掛かるため、量産はまだまだ先の話になるだろう。

 何はともあれ、俺の率いる部隊は領都を出て一路前線に向けて歩き出した。







 領を出て早い事で三週間が経ち、特に急ぐわけでもなく余裕を持った速度で街道を北進する俺の後ろには、600の配下が隊列を組んで着いてくる。

 騎士達は逞しい軍馬に跨がり、重厚なプレートメイルを身に付けて盾とロングランスを持っている。

 前後左右に乱れの無い清々とした二列の縦列を組み進んでいる事から、かなり練度の高い事が伺える。

 その後ろに続く農兵は、なるべく丈夫な麻の服に革の胸当てを着けて長槍を装備している。

 この長槍は4m程の長い棒の先に刃渡り15cmの柳刃のナイフを取り付けた急造品で、決して良いものではなく、領を出る際にも何人かから置いていくべきだと言われ、父からもかなり疑問視されたのだが、俺が強固に主張して持ってきた。

 隊列の一番最後には数台の荷馬車が続き、食糧等の物資と斧やシャベル、ハンマーに丸太や角材、木の板等の陣地構築の為の資機材を積んでいる。

 そして俺は指定されていた部隊の集結地点へと到着し、ぼやきながら入り口に近づいていく。


「どうしてこうなった」


 これまでの今生での数少ない想い出に想いを馳せて、嘆きの言葉を漏らしながら前に進み出て、集結地点の入り口に居た見張りの兵士に到着を伝えた。


「メディシア伯爵家長男カイル・メディシア以下600、参陣要請に従い只今到着した。以後の指示をいただきたい」


 その後は、ここで諸侯連合軍に組み込まれたのだが、騎士団だけは練度が高い事から、王国の中央騎士団の指揮に入る事となり、俺と農兵は幾つかの中小貴族と共に連合部隊を編制して、前線付近の補給拠点の守備の任に就く事となった。


「では、カイル殿の隊には正面を守って頂きたいが、よろしいか?」


「ええ、構いません。ホルス伯爵」


 俺にそう言ったのは、部隊長を勤めるゲルト・ホルス伯爵。

 部隊には他にアーシス子爵、ガラント子爵、ピウス男爵が指揮下に有るが、俺達が最大戦力で他は、ホルス家が400、アーシス家とピウス家が200ずつ、ガラント家が100で、此に傭兵300と拠点兵300の合計2000ばかりで拠点の防衛に当たる。

 正面を俺達が守る他は、アーシスとピウスが右側面を守り、左はガラントと傭兵が担当する。

 拠点兵は拠点内部に留まり、本隊であるホルス隊は予備兵として後ろに控えた。

 後方の小さな拠点と言う事も有って正規の兵士は殆ど配置されておらず、重要度の低いこの場所は使い物にならない余り物で十分と判断されたのだろう。

 他の家の兵士達を見ても、俺達同様に練度も士気も低く、装備に至っては俺達よりも酷い所も有るくらいだった。

 それから、ホルス伯に指定された部隊中央正面に到着すると、俺は持って来ていた資材を取りだして陣地の構築を始める。

 内容としては、深さ50cm幅2mの対騎兵の妨害壕を掘り、丸太と杭を組み合わせた、馬防柵とその内側に矢盾を設置して守りを固めた。

 この様な陣地構築は見れば他の隊では行われてはおらず、時折近くを通り掛かった他の隊の者達は皆、何を無駄な事をと言った風な視線を送り、態々挨拶に来た方々も馬鹿正直にそんな事をしなくても大丈夫だと言ってきた。

 それでも、俺は確りと防御のために陣地を構築する。

 それは、もしもの時、やっておけば良かったと後悔したくないからで有る。

 後に俺はこの時の判断は間違っていなかったと思い知るときが来る。

 そして、陣地の構築が終われば、兵の訓練の続きを始めた。


「整列!三列横隊!」


「応っ!」


 俺の号令にぎこちなく従い隊列を作って槍を構える農兵達に構えさせた槍を使っての、軽い戦闘訓練を行った。

 戦闘訓練はごくごく簡単で初歩的な教練に絞って訓練を施し、実際に戦闘になった際に逃げたりしない様に、精神面での教育を重点的に行って少しでも戦力を強化しようと勤めた。

 隊列は縦深度五列の横隊で、最前二列は千鳥になって、後列の者が前列の者の間から槍を突きだし、三列目からは槍を構えずに並んで立っている。

 領内でも基本教練を行ってきたが、決して十分とは言えず、幾らでも生存率を上げるために出来る限りの事をする。

 俺達以外の隊の農兵は斧や剣、鉈等の他に槍も持っているが、長さ2mに満たない手槍が主で、粗末とは言えども長槍を持ってきていたのは俺達位で、長さ4mの長槍は敵味方を含めた正規兵の槍よりも長く、その分だけ有利な戦闘が行えると俺は考えている。

 確かに長槍は扱いが難しく、間合いの内側に入り込まれ過ぎると途端に抵抗力を失ってしまうが、それを補って余りある利点もあり、多少の不便や強度不足を推して長槍を持たせていた。

 そして、俺の判断が正しかったと言う事は四日後に証明されてしまった。

 昼頃の事だった。

 右翼側がにわかに騒がしくなり、金属と金属とが打ち合わされるいやな音や、怒声が鳴り響くと、伝令が走ってきて右翼側で戦闘が開始された事が伝えられた。

 右翼側では斧や槌を持つドワーフを始めとした屈強な戦士達が敵である共和国の兵達に果敢に挑み掛かり、少ないながらも弓兵によって矢も放たれていた。

 右翼での戦闘が開始されて既に30分が経ち、戦闘の喧噪に兵達はすっかり動揺し、萎縮してしまっている中、とうとう俺達の目の前にも敵が現れた。

 俺達の前に現れた共和国兵は剣兵が主で、戟や槍を持っている兵士は僅かであった。


「構え!」


 緊張で上ずってしまった声を張り上げて戦闘の準備を整えさせ、俺自身もカービン銃を構えたまさにその時だった。


「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 敵方から大きな鬨の声が上がった。

 その声に兵達は動揺し、僅かに残っていた気勢が完全にそがれてしまう。


「恐れるな!」


「お、応っ!」


 このままではいかんと思い、なんとか士気を盛り上げようと俺が声を上げてみても兵の間に走った動揺はとれず、初めての戦闘という事も相まって何時も以上に反応が鈍い。

 このままでは戦う前から逃げ出してしまいそうな兵達を鼓舞する為に、俺は行動に出た。

 数歩前に出てライフルを取り出して構えると銃口を正面に構えてサイトをのぞき込んだ。


「・・・すぅ・・・ふぅ」


 深呼吸をしながら狙いを定める。

 目標は、約400先の指揮官らしき装備が良い剣を持った兵士の頭。


「すぅ・・・」


 馬上で鐙に掛けた足に力を入れて踏ん張り、一瞬だけ目を閉じて深く息を吸い、息を止めると同時に閉じていた瞼を開けて狙いを定める。

 狭まって灰色になった視界の奥に狙いを定めた敵の指揮官の姿がハッキリと鮮明に写り込む。

 遂に自分の心音すらも消えた灰色の世界で俺は、ゆっくり引き金を引き絞った。

 次の瞬間、乾いた破裂音と共に魔法弾が吐き出される。

 魔法弾と実弾の一番の違いは、質量の有無である。

 実弾のエネルギー計算は弾丸の重量×速度であるが、魔法弾の場合は弾丸の速度と魔力量で計算され、魔法弾は実弾よりも貫通力と飛翔速度に優れるが衝撃力が低い。

 そんな魔法弾は銃口から吐き出されてから一切速度を落とすことなく真っ直ぐに進み、目標の兵士の頭を貫いて地面に汚物をぶちまけた。

 それに続いて俺が声を上げる。


「見ろ!敵とて人間だ!万人等しく血を流し、頭を割れば脳髄を撒き散らす、ただの肉袋だ!」


「お、応っ、応っ!おおおおおおおおお!!」


 俺の声に続いて、兵達の間から歓声が上がり、挫け掛けていた士気を取り戻して意気揚々と槍を構えた。

 それに対して、先ほどまで士気旺盛といった様子だった敵はすっかり消沈してしまい、地面に倒れた指揮官の亡骸を取り囲んで呆然としている。

 そうしてしばらく経つと、敵の更に後方から馬に乗った共和国兵が現れ、怒声を上げて兵達に指揮を飛ばし、動揺する兵を引き連れてこちらに向けて進み出した。


「来るぞ!全員構え!」


「「「応っ!!!」」」


 俺の号令に声を張って答える兵達の後ろで、愛馬に跨がった俺は、ライフルを鞍に着けた鞘に差し込んで、背中に背負っていたカービンを取りだした。


「どうしてこうなった」


 今ここに俺の人生初の戦いの火蓋が切って落とされた。

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