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走り出す。⑦
映画の中で、じわじわと追い詰められる主人公。主人公が後ろを振り向いた瞬間、シアタールームに悲鳴が響いた。女の先輩の1人が、発した悲鳴だった。
ハルは驚き、体が跳ねた。映画は淡々と見ることが出来ても、現実の悲鳴には驚いてしまう。はた迷惑な先輩にため息を吐くと、ふと横から視線を感じた。そちらに顔を向けると、高井がハルの方を見て、クスクスと笑っている。
見られた!と、ハルは思った。体がビクッと跳ねたところを、見事なタイミングで目撃したであろう高井は、口元を押さえているが、なんとも愉快そうに体小さく揺らしている。ハルは非難の意味もこめ、目を細めて高井を見つめた。それでも笑い続ける高井に、ハルの方が飽きて、また映画鑑賞に戻るのだった。