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走り出す。⑤
そんな瑞々しいことを考えていた時期が、自分にもあった気がする。たった数年前の話なはずなのに 思い出すことが難しい。きっとハルはそれが怖いんだ。忘れたことすら忘れてしまうのが、無かったことになってしまうのが。
「いいなー。若いって」
ただ心の底からそう思った。
「若気の至りってやつです」
「 若気の至りだとしても、行動に移せるのはすごいと思うよ。
大人の僕がいうんだから間違いない」
「褒められたと思っておきます」
「これでもすごい褒めてるつもりなんだけどなぁ」
ハルは車の外を走り抜ける景色を見ている。
その表情を伺い知ることは出来ない。
「あとこれ傷心旅行なんです」
「ほー傷心…?」
「失恋の傷を癒そうかなって!」
その声色は、明るく聞こえた。無理をしているのか、心の底からのものなのか、推し量れるほど長い時間を過ごしてはいない。
「興味あります?」
ハルはそう聞いた。
「まあそれなりに」
踏み込むか否か迷ったものの、あとに引くのも不自然で、煮え切らない返事になってしまう。
「まだまだ道のり長いですし、暇つぶしがてら聞いて下さい」