走り出す。②
「行く前にちょっとコーヒー買ってもいい?」
「どうぞどうぞ」
ついさっき初めて会った女の子と二人、連れ立って歩いている。なんだか悪いことをしているような気分になってしまう。
五人ほどの列が伸びているコーヒーショップに二人して並ぶ。カウンター上にあるメニューを眺める女の子は、鼻歌を歌いだしそうなほどご機嫌だ。
「お兄さんは?」
「ホットコーヒーかな」
「オッケーオッケー」
そういうと、女の子はカウンターに進み出た。
「ホットコーヒーとハチミツラテください。両方Mサイズで」
さっと支払いを済ませてしまう。
「えっとホットコーヒーいくら?」
「いやいやいや、いいですよ!これから車乗っけてもらうんだから」
女の子は右手をひらひらと振った。
「なんか悪いね。こんな若い子におごってもらうなんて」
「こんな若い子って、お兄さんいくつなんですか?」
「いくつに見える?」
「やだそんな、合コンしてるOLみたいなこと言わないでくださいよ」
わざとらしく上半身を仰け反らせると、女の子は顔をしかめた。
「そんな嫌そうな顔しないでよ。25歳だよ」
「ふーん、年相応って感じですね」
僕の顔をまじまじと見つめながら彼女は頷いた。
「ホットコーヒーとハチミツラテでお待ちのお客様~」
甲高い女性店員の声を聞くと、彼女はトトトっと軽快にカウンターに近づき、コーヒーの入ったカップを二つ受け取った。
「はいどうぞ」
片方のカップを僕に手渡す。初めて正面で彼女の笑顔を見たかもしれない。初めてと言っても、まだ出会って30分ほどしかたっていないのだが。若い。若い子ってみんなかわいく見えるな。自分の心の声があまりにも爺臭くて嫌になる。
「では、行きますか」
自分の車へと二人で向かう。一人で降りたサービスエリアを二人で出るというのは、なんとも不思議な気分だ。なぜか心強く感じている僕はおかしいんだろうか。旅は道連れを、こんな風に体現することになるとは。